罪と罰日記 7月27日 矢吹丈のように駄目な奴が物語を紡ぐ

 どうしようもない駄目な奴。
 それを描いてこそ、物語は生きると思う。

 矢吹丈なんて、KCコミックス版5〜6巻くらいまで、文字通り、性格も悪くてひねくれて、人をだましてばかりいるどうしようもない奴だった。

 映画『ゴッドファーザー』で忘れ難いのは、冷静で計算高いマイケルより、怒りっぽいソニーだし、父親さえ守れず兄弟を裏切りさえしてしまう次男のフレドだろう。

 「罪と罰」の登場人物は女性以外、駄目な奴ばっかだ。
 家族の食事代さえ飲み干してしまうマラメードフは早々に馬車に轢かれて死ぬ。
 ルージンは悪賢くて金さえあれば何でもできると思って、人を見下しがち。
 なにせ主人公ラスコーリニコフにして、口ばかり達者なくせして、斧で殺人まで起こしておきながらロクに金も盗めず、早々に容疑者になってしまう粗忽者である。

 スヴェドリガイロフの駄目さは、抜きん出てはいないが、印象に残る。
 ラスコーリニコフの妹アヴドーチャ・ロマーノブナ(ドーニャ、ドーニャチカは愛称、とややこしい)を家政婦として雇いながら、惚れ込んでしまってたぶらかそうとして失敗。
 妻の死後、おめおめとドーニャの後を追いかけ、妻の遺言やら遺産やらを総動員でドーニャに接近。
 最後は自室で強姦しかけるという、最低にも程がある男である。

 しかし、だからこそ、僕はこの男を愛してしまった。
 抱きかかえたドーニャに「放してくれ」と言われ、「どうしても俺を愛せないのか」と詰問。
 「どうしても、いつまでも愛せない」と突き放された時の哀しみが、ページをめくる指先からしんしんと伝わってくるような気がした。

 そしてスヴェドリガイロフは、ありったけの金をラスコーリニコフの愛する人、ソーニャに渡す。
 ラスコーリニコフがいずれ自首し、ソーニャが付き添っていくことを既に悟り、二人のために役立ててほしいという思いがある。

 宿で眠りにつこうとするスヴェドリガイロフに、次々と幻覚が襲いかかる。
 陵辱されて川に身を投げた14歳の少女の亡がら。
 公園でびしょ濡れになって怯えている5歳の幼女からの誘惑。ロリコンなのか?

 我に返ったスヴェドリガイロフは、公園に出かけ、話しかけた男に「アメリカへ行くんだ」と言って、自らに銃を向ける。

 スヴェドリガイロフ、ラスコーリニコフにも米国行きを勧めたり、どうやら米国への憧れがあったようだ。
 亡き妻の幻影に追われ、少女の厳格に悩まされ、愛した女ドーニャには獣のように扱われ、人生いいことなしだったスヴェドリガイロフ。
 その死が、ひどく哀しく思える展開。
 しかし、ラスコーリニコフの肩の荷は降りたはずだ。

 さて、329ページまで来たぞ。いよいよ「罪と罰」終盤へ。

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