逃げてきた男(メタルストーリー) 『2018年ベイルファイア投稿』
ずっと逃げている。
どれくらいの間逃げているのか、すでに覚えていない。
大事なことを頼まれたはずだ。
誰かがやらねばならなかった。
頼まれたのだ。頼まれたのだ。
だから逃げたのだ。
ああ…だが……
頼んだやつらの顔が思い出せない
どんな顔で頼まれたのか?
本当に頼まれたのか?
間違いない!!腰のこの短剣がその証だ!
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ずっと逃げている。
転々と居場所を変えている
人の声におびえた。
風の音におびえた。
夜の闇におびえた。
獣のひづめの音におびえた。
何かが自分を追ってきているのがわかる。
追いつかれてはいけない。
アレは死ぬことより恐ろしいモノだ。
朽ち果てることよりも恐ろしいモノだ。
逃げることに疲れ、朽ち果てることを望んだこともある。
使命?知ったことか!!
自分がどこで朽ち果てようと
運命というモノがあるのなら、きっと短剣は担い手の手に握られる。
薄汚い自分の手など必要ないはずだ。
それが運命ってものだろう。
ああ…ああ……
ならば自分がいま、こんなにも恐ろしいものに追われているのも
運命、なのだろうか?
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ぬかるみに足をとられ、ぶざまに地面に倒れ伏した。
追いつかれてしまった。
振り向けばそこに居るのだろう。
ひづめの音がした。
恐ろしい恐ろしい、恐ろしい!恐ろしい!!
這いずって逃げようとする手に何か棒のようなモノが触れた。
夢中でそれを握り、片手で背後に突き出した。
恐ろしいモノがそこに居た。
自分の手に握られているのは錆びついた大剣だった。
ああ…こんなものでかなうものか……
終わりだ。自分はもうここで終わる。
ならば。
両手で得物を握りしめる。
ーーーーーさびだらけの刀身の
ーーーーー地面でこすれたせいか刃の先だけが鈍いはがね色に光っていた。
ーーーーーまるで自分と同じように思えた。
もう逃げるのは終わりだ。
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