親の期待

娘の小学校は東京駅八重洲口近くにある当時全校生徒100人という大都会の過疎地と言われるオフィスビルの谷間にあった。

彼女のクラスは17名。
この人数だと一人ひとりの性格や家族構成といった生活がよく見える。

小さなクラスで家族よりも長い時間を過ごすのには人数が中途半端な感じもしていた。しかも6年間変わることがない。
30人40人居れば、分散することもできるが17人は微妙な人数なのかもしれない。
とは言え何が良くて何が悪いかは分からない。その中でどう過ごすのか…だ。

クラスの中には様々な問題が起こっていた。
物がなくなる、水面下での競争心がメラメラ、熱心すぎる教師からのプレッシャー。
子供が教師のやり甲斐を満たすための道具になっているように見えた。
これはどの学校でも見られる。
それとは別に親の期待の大きさも半端ではないことが伝わって来ていた。

そういう中 親や教師の期待に応えようと頑張る良い子、押し潰され病気がちな子、あえぎながらも何とか学校へ来ている子とカラーがはっきり分かる。

私の娘は3番目、上の二人では気づかなかったその子の求めに応じてということを気づいてからの子というのもあって、末っ子なのに自立心が旺盛な子だった。
よく遅くまで次の日の準備をしていて、私は体の心配をして「何か手伝おうか?」と言うと自分でやった方が早いからと言う。随分色々準備しなければならないのね、と聞くと誰と誰は多分持ってこないから、自分が用意して行くのだと言う。よくよく聞いてみると、誰かが忘れたりやって来ないと、次へ進めないとか、成功させたいと思っていることができないからだというのが分かった。自分は成功させたいから他の人の分も持っていくのだ、とハッキリしている。
3年生で夜中の1時半とか、親としては見ているのも辛い。でも、自分でやりたいと思うのを邪魔してはいけないと思う。
黙ってみていて助けを求めたらその分だけ助ける…に徹する。
子の方も楽な道を選べばよいのに…と思うが、やり遂げたいためと言われれば、それはとても大切なこと。こうやって、お互いに厳しい道を選び取って来た。

そして、次の日満足して帰ってくる。「やっぱりねー、私の思った通りだった。二人ともやってなかったの😅」これは、17人ならではの対応。
末っ子だが主体性が育っていて自分が小さい頃してもらったようなことを他の人にしているのを目の当たりにする。
それも当たり前のようにやっている。

求めに応じる子育ては【甘やかす】とよく間違えられるが実は本人にとっても親にとっても一番厳しい子育てだと思っている。
大人はこうすれば楽なのにとか早いのにとか分かっているがその子は今それを経験して学ぼうとしているのだから。
楽な道が欲しいわけではない。やってみたいのだ。そしてその経験が彼女を育てる。(そういえば、この子は楽な道ばっかり選んで……という言葉をよく耳にする。楽な道をどういう時に使って良いかまでは教えていない、教えられないのでは?)
過保護過干渉でも放任でもない。
未熟な子供の求めに任せ応じるのだから、子供は失敗もするし後悔もする。そのときこそ理解し励ますことが大切な経験になる。残念だったわねっ!次がまたあるから…と。やっとここで親の出番。失敗から学んだことは大きいし確実。

この学校の子たちとは6年生の卒業を期に離れ離れになった。私達は品川から横浜に越してきた。卒業後たまに連絡をとったり会ったりもしていたようだが、高校卒業を間近に控えた頃二人の子を我が家に連れてきた。私は6年振りの再会で大人になった彼らに驚いた。

懐かしい話に花を咲かせながら私から「あの頃はみんな大人の期待に潰されそうな大変な状態だったわよねー」と言うと「おばちゃんはMちゃんに期待してなかったのー?」と早く聞きたいという様子。「うーん、してたわよー!でも、みんなのお母さんとはちょっと違ったかなー?」と言うと乗り出すように「え、どんなふうにー」と。「私はね、Mちゃんがこうありたい、と思うことがそうなるといいなー!という期待があるー!」と言うと二人の子が同時に「おー!!」と。
「Mちゃんちは何か違うと思ってたけど、そういうことかー!」と納得していた。「そうでしょう?Mの人生、あなたの人生だからねー!」というと、「確かに…」と。
長年知りたかった事だったらしい。

また近年の話。
孫がお友だちになった子のお母さんに散々お子さんに苦労をしてるという話を時々愚痴のように聞いていた。
このお家はお父さんが医者で当然お子さんもと思っておられるのを知っていた。でも当の子供の方は、お母さんを避けている感じがしていて、我が家に来ると夜の8時までも9時までも帰らない。
ほぼ毎日のことなので孫は彼が居ても下へ降りてきて食事をする。たまに食事を誘うけれど、それには乗らない。
我が家は別にか構わないので、孫が帰ってくれよ、と言わなければ好きなだけ居させる。相手のお母さんは返してくれればいいのに…と思っているだろうなと推察はしたが、それはあちらの親子の問題だと思うのでそれなりにしていた。
たまにお母さんの話を聞くと、何を考えてるのか分からない、成績は落ちていくばかりと嘆いている。
結局一浪したが、医学部には行けず他の学部に入った。そのとき「あの子はもう諦めたの」と言った。
親に諦められる子って、どんな気持だろう……。毎日来ていた子だから、寄り添いたい気持ちになった。
客観的に見ると子供に勝手な期待をしておきながら諦めた…しかも自分の子供の将来を。
失礼だし、身勝手だというのを言っても通じないよなー?と悲しくなる。
彼の今後を見守りたい。

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