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コンサートプログラム ごあいさつ (2012年~2019年)

2012年 クリスマスコンサート


今年、私共「きりく」はお蔭様で十周年を迎えました。
ここまで温かく見守っていただき本当にありがとうございます。
 
この十年の間に世の中は益々便利になり、
なんでも簡単かつスピーディーに出来るようになりました。
わざわざ出かけなくても情報や物は手に入るし、
以前は手作業をしていた分野までコンピュータで高速大量均一に
こなせるようになりました。
 
しかし、私共きりくは相変わらずの手作業で、
やっていることは便利にも簡単にもなっていません。
たった一音を鳴らすために何kgもの楽器を持ち上げ、
響かせ、紡いでいます。
和音を調和させ一節のメロディを繋ぐのに、
これほど入念な打ち合わせを要する楽器は他にないでしょう。
たった数小節の音の分担を決めるだけで数日を費やすこともあります。
毎回引越し並の大量の荷物を運んで拡げては片付けてを繰り返しています。
慣れてはいるものの、楽や量産を求めたら決して出来ない、
きわめて非効率的なことをやっているとは思います。
しかも緊急時にとても役に立つとは思えないし…。
 
でも、わざわざそんな手のかかることをやるのも、
それを観に出かけて下さるのも、共に損得や効率とは別の価値観であり、
そういう世界がまだ残っているところに人としての喜びや共感や信頼を
覚えると言ったら、手前味噌でしょうか。
音楽や絵画を楽しむ、良い言葉を交わす、困っていたら助ける、
老を敬い寿ぐ、環境や文化を守る、他者の安全や幸福を気遣う…。
これらは人間の行動すべての基となる愛すべき心の世界の
大事なお仕事ではないかと思います。
この先どんなに世の中が高速で大量で便利なものに満ちても、
決して無くなることのない、不器用でささやかで温もりのある世界。
私ども演奏者が世に役割を持ち貢献出来ることがあるとしたら、
まさにこの分野の一端に他なりません。
これからも量産は出来ないかもしれませんが、
心がふと立ち止まって休んだり灯を点して温まることができるよう、
ひとつひとつの音をより丁寧に響かせていきたいと存じます。
 
本日はご来場ありがとうございます。
十年分の感謝をこめて心から申し上げます。
良いクリスマスを!
そして良き未来を!
 
Merry Christmas!

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