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単身赴任をしていて平日はマンションで一人暮らしをしているのだが、秋分を過ぎた頃だろうか、寝室のベランダからポー、ポーと鳩の鳴く声が聞こえるような気がしはじめた。山鳩の遠くまで響く鳴き声ではなく、公園で足元に寄ってくる鳩の小さな声。10月に入る頃にはもう毎朝、羽ばたく音やベランダの柵に着地するような音も聞こえるようになり、どうやら巣を作っているようであった。人間があまり近づいたり覗いたりすると逃げてしまうかなと思い、音だけを聞いていた。

鳩がとまったり羽ばたいたりするのに必ず金属に当たるような音がする。きっとエアコンの室外機の裏に巣を作っているのだと思い、11月の下旬だったか、日中の静かな時に思い切って室外機の裏にスマホのカメラを差し入れてみると鳩ががじっと蹲っている。巣のあることが確認できたような気がした。

そのベランダには毎晩洗濯物を干す。ある朝サッシを開けると、雨水を通す縁(フチ)にうずらより大きな4cmほどの卵の殻がある。むむ、これはもしかしてと思っていると、数日後にはピヨピヨ、ピヨピヨと、朝になると雛の鳴くような声がするようになった。鳩がとまる音の後に盛んに鳴くので、雛が生まれて、親鳥に餌を求めているのではないか、もしかするとじっと蹲っていたのは卵を温めていたのかもしれないと考えた。

12月初旬の朝、いつもより何だか賑やかなので、窓を開けずにそっとブラインドカーテンを上げると、大人より二回りほど小さな鳩が柵の下にいる。そういえば朝のピヨピヨ鳴く声も変わってきたような気がしていたが、どうやら雛が大きくなり巣から出てきたらしい。親鳩が二羽、柵と物干し竿の上から見守っている。雛が羽ばたいて柵の上に上がり、三匹が揃ったところまで見て仕事に出かけたが、ヤツはそこから宙へ飛び立つことができただろうか。

そんな賑やかな朝を暫く楽しんでいたが、12月中旬くらいから急に巣が静かになってしまった。静かな朝に上から覗きこむと鳩が一匹丸まっているように見える。初め寝ているのかと思ったが、翌日もう少し明るくなってから見てみると仰向けになって死んでいるように見える。何か感染症があってはいけないと思い、手を入れた袋ごしに室外機の横に出した。烏などに見つからないようそのまま上から袋をかけて更に一日置いておいたが夕方に帰っても動いた気配がない。眼が崩れてきていたので死んでしまったのだと考え火葬することにした(つまり可燃物に出した)。

死んでいたのが親鳩だったか子鳩だったかは判らない。袋ごしに掴んだのは大きめな鳩だったような気もする。今朝も二匹の鳩の羽ばたく音を聞いた。子どもを巣立ちまで育てた親鳩の、おそらく雄が力尽きて死んだのか、それともやはり何かの感染症に罹っていたのか、大きな傷はなかったように思うから、ご苦労様と手を合わせる気持ちで、朝の羽ばたきの音を聞いている。

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