"O'DEM (オデム)" -Saint Cloud- 偽物の美、本物の美
「偽物の美しさってあると思わない？」
展示会でデザイナーがそんなことを言っていた。
"Saint Cloud"はそんなことを考えながら作ったのだろうか。
シルクに似せた、ポリ×キュプラのベルベット。
およそシルクには見えないし、手触りも全く違う。
そもそもキュプラやレーヨンはシルクの代替素材として作られた化学繊維。
とても似つかない…というほどではないが、やはりシルクではないことは確か。
ただ、このベルベットの少しわざとらしい起毛感や透け感、軋むような生地の風合いに心奪われるのは何故だろう。
デザイナーが好きなウェスタンやヒッピー、ピーコックの要素を掛け合わせたような"らしい"仕上がり。
ウェスタンのプルオーバーシャツという、古着屋などで見かけてスルーしがちな「格好いいんだけど着づらいなぁ」というものをモダンながらエグみもある独自のスタイルに昇華している。
偽物のシルクとしてのベルベットという、なかなか改めて食指が伸びない素材と相まって、今まで避けてきた要素を掛け算した末に美しいものが生まれていることの驚かされる。
同じ生地に、福井県の無形文化財「墨流し」の技法を用いて染め上げたバージョンもある。
水面に墨汁や染料を垂らして、油を使ってそれを弾き、を繰り返し、風の影響なども受けてできる模様は、二度と同じものはないらしい。
偽物の美しさに、圧倒的本物の美しさが重なった、
あえてにあえてを重ねた1着。
「ひねくれてるなぁ」
と店頭でも笑いが起きましたが、このシャツを試着するお客さんの表情は真剣そのものだった。
一番えげつないイエローが先に完売して、残りは白と墨流しのグレーです。
素材が好き、デザインが好き、カルチャーが好き、透け感が好き、伝統技術が好き…
タッチポイントはいくらでもある。
あらゆる側面から、自由な発想で楽しんでほしい。
菊池健斗
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