-COLUMN- "フレンチ"とは何か?
コラム、週一くらいで書こうかな〜と思っています。
自分で言うのもなんですが、僕はオタクが高じて服屋になったような感じの人間です。
あまり喋りすぎるのも良くないとは思いますが、知っておいた方が得しそうな、少しファッションが楽しくなるような話をしていけたらと思います。
もし語って欲しいことがあれば、いつでもお題くださいね。
最近何かとよく聞くファッションのキーワード「フレンチ」
いいですよね。僕もずっと好きです。
意識し始めたのはおそらく6年ほど前くらいだろうか。
そこから発展してドレスの方向にもどんどん興味を持ち、カジュアル畑で育った僕でもなんとなくドレスの基礎知識は身につけられたつもり。もちろん抜けはあるだろうからまだまだ勉強中なんですけれど。
お店もフレンチなスタイルを意識したアイテムを増やして、そういったエッセンスを楽しめるようになってききたんじゃないでしょうか。
そんな中、最近お客さんとの会話の中で「そもそも"フレンチ" ってなんなんですか?」と聞かれることが多かったこともあり、自分の知っていることをお伝えできればと思い、ブログにしようと筆を取っています。
具体的なことを書くのが難しいのでアイビー/トラッドを中心として考えていきます。ただ、前提としてフレンチトラッド/アイビー全盛の80~90年代ごろをリアルに生きている人間ではないのであくまで知識でしかないことも多いです。
お詳しい方にはお目汚しとなってしまうかもしれませんが、ご容赦ください。
前置きが長くなりましたね。
結論から言うと
「フレンチは雰囲気」
です。
ある程度キーアイテムはありますが
「これを着てればフレンチ!」
と呼べるようなものはないと言っていいかもしれません。
50~70年代にかけて、日本ではアイビーから「アメリカントラッド(アメトラ)」、「ブリティッシュトラッド(ブリトラ)」や、後にはラルフローレンに代表される「ブリティッシュアメリカン」なんて呼ばれるスタイルが打ち出されてきました。その辺は今回は詳しく語りませんが、トラディショナルなスタイルの文脈としてはやはり「アメリカ」が大役を担っています。
というか既製服全般にと言った方が正しいでしょうかね。
80年代になってBEAMS社、SHIPS社などが打ち出したこともあり隆盛となったのが「フレンチトラッド」です。
その蓋を開けてみると、着ているのはアメリカ的なネイビーブレザーだったり、イギリス製のゴム引きコートだったりを、色の抜けたデニムやカジュアルなチェックパンツで合わせているものばかり。
フランス製のものはラコステのポロシャツ、ベルナールザンスのトラウザーズ、エルベシャプリエ、あとはシルクのスカーフくらいでしょうか。
ただそれらの組み合わせが本国で「これにはこれ!」と決められているものではなく、綺麗な色のシャツをタイドアップしてカーディガンに合わせたり、スポーツウェアにスカーフを巻いたり、それでも足元は必ず革靴だったりと、支離滅裂なようで"どことなく洒脱な雰囲気"で合わせている。
日本にその空気を輸入する際にセレクトショップ毎にトラッド軸のスタイルを打ち出しただけで、実際はそんなルールはないよ〜
というのが「フレンチ」の定義とは呼べない定義です。
要は「おしゃれ」なことが「フレンチ」と言ってしまってもいい…
ややこしくなってきましたね。
そんなスタイルを広めたメルクマールの一つが、当時パリにあった「HEMISPHERE」というお店です。
1979年にフランス人のピエール・フルニエ氏が、隆盛だったサンローランの右腕であるジャン・セバスチャンとともに創業しました。言わずもがなフルニエ氏は後に「ANATOMICA」の創業者となる方です。
「HEMISPHERE」はその名の通り、北半球を中心とした選りすぐりのものだけを集めたお店だったそうです。
フルニエ氏はその前にも「GLOBE」という現代のセレクトショップの原型のようなお店を営んでおり、当時からアメリカのLevi'sやLEEなんかのワーク、カウボーイウェアやアウトドアウェアを並べていました。
「HEMISPHERE」で展開されていたものは多国籍で、オーストリアのレマメイヤーや英国はチェスターバリーのスーツ、ポロシャツはフランスのラコステだけでなくイギリスのフレッドペリーも。
アメリカのもが中心になっており、B.Dのシャツやオルテガのベストなんかのプリミティブな意匠のものまで選んでいたそうです。
ご存知の方も多いでしょうがALDENも展開しており、日本のファションシーンで避けては通れない革靴といえばALDEN(特にV-tipのモディファイドラスト)みたいになっているのもこの流れからくる影響でしょう。
デニムなどの大量生産に特化したものを、手の込んだものと組み合わせるというスタンスも「フレンチ」的要素の一つと言えるかもしれません。
そのほかにも「オールドイングランド」や「マルセルラサンス」が英国モノを中心としたセレクトでパリで人気を集めていましたが、どのお店にも共通していることは国籍にこだわりすぎず、既存のルールにとらわれない提案があったことです。
少し脇道にそれますが、イギリスの「The duffer of st George」が同時期の84年に生まれ、アメリカのワークウェアとサヴィルロウのテーラリングを合わせて提案していたのは面白い同時性ですね。
今日的なセレクトショップという文化が生まれたのがこの辺りと言えるんじゃないでしょうか。
さて、話が纏まりづらくなってまいりました。
結局「フレンチ」が何を指しているかは具体的にわからないまま日本で紹介された「フレンチトラッド」の流れを軸にダラダラと記事を書いてますが、実はこの前日譚に「renomaとゲンズブール」の話も控えてたりすると思うのでそれはまたの機会にしようと思います。
詰まるところ「フレンチ」とは「エスプリ」と言ってしまえばいいでしょうか。
日本語で言うと「美学」みたいなものです。
鍵となるのは
・ネイビーブレザー
・スカーフ
・デニム(色の抜けた)
・ポロシャツ(できればフランス製のラコステ)
あたりですが、必ずしもそれを着ていないといけないわけではありません。
「どことなくキメすぎてないけれど、ちょっとキマってる」くらいの感覚。
歩く時に肩で風を切るような気持ち。
よく言われるファッションの±0論で行くならドレス方向に+1~2くらいの意識ですね。
日常のファッションの中で
「こう教えられたけどあえて少し変えてみよう」
例えば
「この場合、靴下は黒かグレーだけど明るいブルーにしてみよう」
「靴とベルトの色は合わせろって言われたけど、あえて違う色にしてみよう」
くらいの気持ちで綺麗な色を一つ手にとってみてください。
それが「フレンチ」的な試みかと思います。
特定のスタイルに寄りすぎない、自由な気持ちのこと。
プリミティブなものや、手の込んだ職人技にはもちろん、マスプロダクツの中にも輝く美しさを見つけて、それを愛して組み合わせること。
エスプリ、ウィット、批評性、ジョーク、遊び、エロ、気の利いた◯○、etc…
最後に、私論ですが日本のファションとフレンチなスタイルには非常に親和性があって、スッと入っていく感じがします。
土着の洋服文化なぞそもそもはなかった日本という国と、モードには強かったけどテーラリングを中心とした男性服を国外に頼ってさまざまに組み合わせていたフランスのスタイルは受け入れやすかったんでしょうね。そこが特にイタリア、イギリスと違うかもしれません。
加えて「少し無頓着なくらいがいいよね」みたいな江戸っ子ぽさも言い換えればフレンチかも。「抜いて着る」のはそもそも着物から着想を得た着方ですもんね。そういう意識もなんだかフレンチな香りを感じます。
ここまでだらだら書いているのに、結局は曖昧な感覚論に頼らざるを得ないところがファッションの難しさであり、面白さ。
そんな終わりなき探求だからこそ人を惹きつける。哲学的思考と嗜好です。
末尾に、これは私がこの仕事に就こうと思った時から通底した考え方なんですが"プロ"として可能な限り言語化して伝えることを目指しています。
出典
・1984『POPEYE』9/25号,マガジンハウス
菊池健斗
kiretto ーv
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