スクロール

「7年で人間の細胞って殆ど全部入れ替わるらしいよ。」

「でもさ7年前の自分と今の自分って全く別物にはならないよね、記憶もあるし。」

「細胞自体はなくなるけど古い細胞が死ぬとき新しく生まれる細胞にコピーされるんじゃないかな。薄れたりとか多少変化しながら。」

「じゃあ少しずつ変わっていくとしても、細胞コピーして、その細胞が死ぬ時はまたコピーして、そうやってコピーのコピーでずっと一緒に生きていこうよ、俺らは。」

いつか隅田川沿いを歩きながら、そんな話をした。


人間の細胞が全て入れ替わる程の年月をとも過ごした彼と別れてから、私は時間を持て余していた。

ライブ配信を聴いている間にいつの間にか眠って、また起きてを何日か繰り返していた。熱を出して寝込んでいるような、そんなふわふわとした感覚だった。

「あの夏もあの冬も楽しかったことも思い出せなくなってもいいから、ぜんぶ記憶がなくなればいいのに、ぜんぶなくなってもいいから」

ぽつりと呟いた瞬間にとめどなく涙が溢れてきた。

iPhoneから流れる弾き語りが鼓膜に届き、ゆらゆらと音が揺れ、さまよった視線が画面を捉えたとき、ライブ配信者はユーフレットの画面をスクロールしていた。

その手がそのままこちらに伸びて私の頬を拭い、頭にぽんと手を置かれた感覚に陥った。

それ以来、私はライブ配信者がユーフレットの画面をスクロールする動作を見るのがすきだ。