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【敵わない、と思う人に出会う幸せ】

最近ファンになっているnote作家の岸田奈美さん。まだ二十代なのに、本当にステキな文章を書く女の子。何より、この人と一緒に仕事がしたい!と、読んだ人に強く思わせる文章を書ける人。これはすごい。

最近眠れない夜はnoteで岸田奈美さんかサトウカエデさんの文章を読んで寝る。岸田さんだとワクワクしてしまって興奮しすぎてしまう時は、ドリエル代わりにサトウカエデさんを一記事読む。サトウカエデさんの文章は、なんというか、落ち着いた大人の美しい文章。睡眠のための心の処方薬だ。

脱線ついでに先にサトウカエデさんの話をしよう。彼女のエッセイの中の、花瓶を買う、という話が良かった。子育てをしていて、生活に追われて買えなかった花瓶を娘さんが7歳を迎えてようやく買った、というお話。

私にも似たような体験がある。

次男が2年生になって、用事があって久しぶりに電車を乗り継いで出かけることがあり、帰りに乗り継ぎの駅のエキナカの花屋さんで衝動的に小さなガラスの花瓶と小さな花束を買った。まるで運命のように。

生花店の、あのなんとも言えない生々しくて、美しくて、濃密な匂い。花と濡れた地面と、ところどころへこんだ歴戦の兵士のようなバケツ達。生花店はいつでも雨の匂いがする。

サトウカエデさんが、広口の花瓶を買って以来いそいそと花を生け続けているのに比べ、わが家の花瓶は、その運命の日のささやかな花束と、その1年半後に三男の卒園式で子ども達一人一人に配られた小さな花束を飾った以外は、窓際のネズミくんの手と目が届かない棚の上にそっと埃をかぶって置かれている。

でも私はその花瓶がとても好きなので、そのガラスの表面についたツブツブに光が当たっているだけで嬉しい気分になるし、わが家に花瓶がある、と思うだけで実際のところ満足してしまう。だからきっと仕事が少なくて花瓶には不満かもしれないけれど、私は満足だ。

この花瓶がどれくらい好きかというと、あんまり好きなので同じ花瓶を今年の母の日に母と姑にプレゼントしたくらい好きだ。

実は運命の日の翌週にはすでに心に決めて買ってしまって、3年近く寝かせた挙句、ようやくプレゼントしたのだ。私は結構そういうことをする。ワインのように寝かせたプレゼント。

買って仕舞ってすぐにリスのように忘れるのだ。そしてなにかの拍子に思い出してプレゼントする。あげる相手が買った時とちがって別の人になったりする。包み紙が古びて包み直したりもする。なにより仕舞っておくスペースなど、このシステムには色々と無駄が多い。

でもなんだか気に入っている。わが家にはいつか誰かにプレゼントされる予定のしあわせのタネのようなものがそこいらじゅうにたくさん仕舞われている。それこそ「大きな森の小さな家」の冬じたくのように。

なんの話だっけ?あぁ、サトウカエデさんの文章からちょっとまた遠くへ歩いてしまった。ともかく私にもサトウカエデさんと同じような花瓶にまつわる体験があり、でももっと洗練された美しい言葉でその体験が綴られていた。しかも私とちがって無駄な言葉が削ぎ落とされていて、もっとずっと短い。ステキだな。

さて岸田さん。前座の?サトウカエデさんが思いの外長くなってしまったので、簡単に。(本末転倒)

たまたま今日読んだのは村上春樹さんの新刊、「猫を棄てる」の読書感想文だった。

最初に断っておくと、私は大学の卒論を村上春樹で書こうかどうしようか迷う程度には村上春樹さんが好きだ。ハルキストと堂々と言うほどには自信がないけれど(しかももし自称するなら村上さん自身が推奨している村上主義者が良い)、小学生の頃からのわりと熱心な読者だと思う。

けれど。

けれども。

そんなささやかな自負を、初めて村上作品を読んだ、という二十代の女の子に打ち砕かれてしまった。

彼女の感想が、あらゆる面で私の今まで読んだ村上作品の表面的な感想を超えてきたから。あぁ、感性が豊か、っていうのはこういうことを言うんだな、と思った。

上でささやかな自負を打ち砕かれた、と書いたけれども、砕かれたのは変な自負だけで、別に私自身が打ちのめされはしない。その辺りがもう図太いオバチャンなんだなぁとわが身を思うゆえんなのだけれども。自他境界線ができてきたのかな。

彼女はすごい。でも、だからといって私がダメなわけではない。

そういう風に思えるようになって、私の周りには好きな人しかいなくなりつつある。もともとずっとダメンズは好きなので、すごい人も好きになったら全方位好きな人だらけなのだ。

ともあれ、彼女はすごい。こういう風に、自分が敵わない、と思える人に出会える幸せ。彼女のフィルターを通して見ると、村上春樹さんが作品を通して伝えたかったことが、ニブチンな私にもようやくおぼろげながら伝わる気がする。この感覚が消えないうちに作品を読み返したいな、と思う。改めて文字の連なりだけで人の行動を促す、そういう文章を書ける、というのは岸田さんの本当にすごいところだ。

村上春樹さんの本はしばらく前に知人にプレゼントしたくて買ったはずなのだ。「要らん」と断られたのでありがたく自分用にしたはずだが、またプレゼントの地層に埋まってしまったのだろうか。

「すべての親は、子どもの心に傷をつけて生きていく」

岸田さんがくっきりと掘り出してくれたものを、一緒に掘り出されたほかにも色々なものを、村上春樹さんの作品からもう一度拾いながら読み返してみようと思う。

#サトウカエデさんnote
https://note.com/830kaede/n/n194ea6274adb

#岸田奈美さんnote
https://note.com/namirairo/n/n47d84adddd8b

#写真とか
https://twitter.com/kirakiramamama/status/1288865391079391233?s=21


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