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毎日のお弁当作り

「料理のプロに料理を作るの、嫌じゃない?」これは私が夫と結婚して一番聞かれた質問かもしれない。

そうだね。そりゃぁ嫌だよ。

最初の頃は夫がよく料理をしてくれたし、私は食べることが大好きなのでそれはそれは幸せだった。ナイスガイな夫は、お弁当まで作ってくれた。「料理は夫くんの担当ね!それ以外の家事は私全部やるわ。」そんなことを言っていた。

結婚してから日に日に忙しくなっていく夫。晩ごはんやお弁当を作るのは、日々16時間近くレストランで働く生活を10年続けてきた夫にとっては朝飯前だ。ただ、毎日疲れて帰ってくる夫に「今日のご飯は?♪」なんて聞けなかったし、「おはよう。疲れた...」と、起きてすぐ疲れた...?な夫に「お弁当楽しみだな!」なんて呑気なことは言えなくなった。

私がこの先料理をすることはないだろう。結婚した当初本気でそう思っていた。ただ、日々忙しく身体的にも精神的にも疲弊している夫を見て、私の中に「夫が元気になるような料理を作りたい。」という気持ちが芽生えた。

料理のプロにどんな料理を作る?

何をどう頑張っても夫より美味しい料理は作れないし、そもそも何を作れば良いのか...初めは本当に悩んだ。そして私は「美味しい料理」を目指すことをやめた。ホッとする、優しい気持ちになれる料理を作ろうと決めた。

忙しすぎてお昼もまともに食べられない夫に、せめてお昼の時間くらいはホッとして欲しくてまず始めたのがお弁当。夫は仕事が詰まっていたり集中していると、平気で食事を抜く人だ。

作ることには並々ならぬこだわりのある夫だが、食べることにはびっくりする程こだわりがない。全ての食事を意識しながら食べること、それは食の仕事をしている夫にとって常に仕事モードであることを意味する。プライベートな食事の時間までスイッチをオンにするのは、とても疲れることなんだそう。仕事で食べるときは思いっきり仕事モードなので、神経を研ぎ澄ませかなり集中している。

そんな感じなので、日々のランチは放っておけば近くのコンビニやチェーン店の牛丼で適当に済ませてしまうだろう。夫が私にお弁当を作ってくれていた時期、実は仕事がめちゃくちゃ辛い時期だった。その時はお昼に食べるお弁当が本当に沁みたし癒された。愛情のこもった料理の力を私は実感している。だからこそ作りたいと思ったのだろう。

お弁当ってただ詰めるだけじゃない

これまでお弁当なんてまともに作ったことがないので、最初は1時間以上かかっていた。夫の朝が早くなればなるほど、私の朝も早くなる。今なら分かるが、お弁当はただ詰めるだけではない。段取りとバランスがめちゃくちゃ大事なのだ。

いつも美味しい料理、お弁当を作ってくれていた母には感謝と尊敬しかない。

お弁当に入れるミニトマトはヘタをとった方が良いとか、ゆで卵はすぐに冷水で流ししばらくつけると半熟でもきれいに切れるとか、卵焼きの作り方とか、そんなことを知らないままスタートしたお弁当作り。

最初は全然上手く出来ず毎朝機嫌が悪かった。私の基本的な性格は大雑把でテキトーだが、自分が「こうしたい」「こうしよう」と思ったことは、とことんこだわるし、思い通りにできないと自分が許せないのだ。

最初は料理のプロに料理なんて絶対に作りたくないと思っていたが、途中から「こうなったら自分の腕を上げてやる。」と半ば開き直った。最近は全ての料理にフィードバックをもらい、分からないことは聞いて自分の腕を上げている。(と信じたい)
そして夫が料理をする時は必ず横で全ての作業を見て、時にアシスタントとして動いている。塩の加減やタイミング、焼き具合、食材や調味料の組み合わせ等、一瞬たりとも見逃すか!という勢いで隣にベッタリだ。

修行みたいだね、と笑われたけど、こんなに楽しい修行なら大歓迎だ。

それっぽい美味しさと本当の美味しさ

”本当に美味しい料理”を作る難しさを私は隣で見ていて実感している。世の中にごまんとあるレシピ通りに作っても、それなりの美味しさにしかならないのは、夫が料理をする姿を隣で見ていて納得した。 
難しいことは何もしていない。ただちょっとしたひと手間が仕上がりを大きく変えるのだ。それっぽく美味しく作ることはできるが、「美味しい...!」と人の心を動かす料理はそうそうない。

何かを作るとき、1回目は分量も温度もレシピに忠実に作る。大さじ1ってこれくらいだよね、180℃の目安は細かい泡が広がる状態だよね、じゃダメだ。これは料理ができる人、慣れている人がやること。私はこれまで計量スプーンや温度計を使ったことがなかったが、それらを揃えレシピに忠実に作ることから始めた。

レシピ通りに作っても上手くいかないことがある。正確には好みの味に仕上がらない時がある。そこで初めて夫に聞く。「何が足りないと思う?」と。するとまず「どんな味にしたいの?」と聞かれる。そこからあれこれ言うと、その味にするためのアドバイスをくれる。

こういったことを繰り返し、私は何度も同じ料理を作る。当たり前だが、回を重ねるごとに上手くなる。それでもまだ自分の中の「完璧」にはなかなか辿り着けない。だから楽しいのかもしれない。

料理ができるようになるとキッチンがピカピカになる

そして面白いことに、これまで掃除はあまり得意でなかったが、料理をすればする程キッチンがピカピカになっていくのだ。これは何故だか分からないが、これまでそれ程気にしていなかったコンロ周りが常にピカピカじゃないと自分が気持ち悪いのだ。気付いたら、料理をしたらすぐに水回りとコンロ周りを磨くのまでがセットになっている。

そして掃除の範囲がキッチンから部屋全体になり、これまで週1、2だった掃除が日課になっている。掃除以外にもこれまで以上に器やティーカップにこだわるようになり、おかげで毎日気持ちよく過ごせている。

「夫が元気になる料理を作りたい。」が、いつの間にか生活全体のクオリティを上げている。どんなことでも、自分なりに工夫し、改善を重ね、続けることは、これまで気付けなかった新しい世界が見えることに繋がる。ちょっと大げさだけどね。

でも私はまさかお弁当作りが、私の生活をこんなに豊かにしてくれるとは始めるまで気付けなかったよ。

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