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『危険なビーナス』最終話感想

…毎回毎回、感想文書くたんびに同じことを思って同じことを言ってますが、最終回の感想ってホント、何言っていいのかわからなくなります。「あー面白かった!」以外、何を言えばいいのか。

初回から提示された数々の謎…明人くんの失踪、禎子さんの死因、一清さんの最後の絵の行方。それら全ての答えを最終回まで一切明かさず、広がり続ける迷路の出口を求めて伯朗さんと一緒に右往左往してきたわたし達視聴者ですが、さすがに全てを解き明かすには正味45分では厳しそう…と思ってしまった余計な心配は見事に空振り。謎も遺産の行方も、もちろん〈ラブ・サスペンス〉の〈ラブ〉のほうもきれいにまとめて風呂敷畳んでくださいました。

前回いきなり放り込まれたいくつかの謎…「牧雄さんが持ってきた研究記録」も「君津くん矢神の身内説」も始まって15分も立たないうちにスピード解決。てゆーか、波恵さんの(冷静に聞けばかなり怖い)告白に気圧されて、皆さん言葉を失ってます。
聞く限り、康之介さんはたしかにかなりロクでもないことをなさってますけど、やっぱりこのお話のラスボスは波恵さんだったんですね。祥子さんも一度は康治さんを手にかけようとしたし、牧雄さんも「研究記録」のためなら伯朗さんを殺しかねない勢いでした。けど、波恵さんの考えはスケールが違います。父に騙された口惜しさのあまり、一族(しかもこの場合、ほとんどが自分の“兄弟姉妹”なんですよまがりなりにも)を自分の手で根絶やしにしようなんて。ものすごく立派な“矢神の血筋”の発露。康之介さんの血は恐ろしいものですね…

その波恵さんを翻心させたのは伯朗さんの実直さ。そして、その伯朗さんが「なんで今、天井裏から研究記録が見つかったのか」に気づいたことから、ようやく世界は本当の姿を見せ始めます。わたしは謎解きの瞬間に対してずっと〈ドミノ倒し〉のイメージを持っていたけど、どっちかというとオセロの詰め、でしたね。黒のコマがどんどん白に返されていく。その勢いは全てが明るみになるまで止まることはなくて、最後の最後、伯朗さんと楓さんの〈ホントの気持ち〉まで表に返していきました。
このテンポは気持ち良かったなぁ。短い中で全てを説明し切るのは大変だったと思いますけど、ラストの妄想オチの納め方まで含めてきれいにまとめられて、大団円を感じられましたお見事です。

…としても。やっぱり順子さんが気の毒なのには変わりがなくて。あれだけ「矢神の人達は上から目線で強欲で」と文句を言っては窘められてたその相手、仲良く暮らしていた自分の夫が姉を死に追いやっていた、ってのは。いくら可愛がってる甥っ子だと言っても、伯朗さんや明人くん、これから先、身内になっちゃうかも知れない楓さんとはもう今まで通りにはいられないでしょう。その孤独を思うと胸が痛いです。伯朗さんが一緒に泣いていたのが救いでした。
どうか順子さんにも心穏やかな時間が訪れますように。

蔭山さんは…あれで良かったんでしょう、ね。どこまでもフラットで賢くて周りにも自分の気持ちにも嘘はつかない、ある意味伯朗さんよりもさらに“誠実”なひと。男前すぎるあの性格は伯朗さんにはちょっと荷が重い、かも。きっと、あの翌日からも澄ました顔で受付のカウンターに座っておられるはずです。傷ついた気持ちなんて微塵も感じさせずに。
大丈夫、この方はご自分の意思で幸せになることができる方です。素晴らしい巡り合わせがありますように。

楓さんについても、もうあれで十分だと思いました。フィクションの中でフィクションを生きた人に、本心を問うことなどできませんし。古澤楓として振る舞うことはなかったわけですから、諸々すべてはここからです。…唯一、気になっているのは2話で伯朗さんに『洗いざらい見てください』とスマホを渡そうとした時のこと。あれ、どっちに賭けてたのかな…初めから伯朗さんは絶対見ないと踏んでいたのか、見られてもいいようにスマホの中を全部「矢神楓」仕様にしてあったのか、それとも本当のことを伝えて、改めて伯朗さんとタッグを組むつもりだったのか…。そこだけはちょっと聞いてみたい気がしてます。

矢神の家の人達は、結局、元の通りといえば元の通り。心の内を曝け出してしまっていがみ合いこそなくなっても、立場はお互いもう変わることはありません。明人くんは全ての遺産を受け継いで、きっと皆さんがそれまで通りにいられるように目配りをするでしょう。百合華さんと結婚するなら祥子さん達とは義理の親子にもなるわけで、矢神家は当面、安泰です。ほとんど、佐代さんの言葉通りに。
「大事なのは遺産の分散を避けること」。
いつか、それがまとめて転がり込んで来ないとも限らないから。

勇磨さんは佐代さんに約束した通り『一番大きなもの』を手に入れました。『どう化けるか楽しみ』な宝の山。多分、その更なる研究には牧雄さんも巻き込むのでしょう。医者の家系で財を成した矢神の家の中で亜流だった(医者ではなかった)勇磨さんが起こす医療系ビジネス、にそれはなっていくのかどうか。そして、それを明人くんはどう感じるのか。『数学の天才』の目に『寛恕の網』はどう映っていたのか。その絵の写真はまだ明人くんが持っている、ような気がしてなりません。
…勇磨さんは、まだ明人くんのライバルなのだと思っています。いつか矢神家を、明人くんを凌ぐ財を築き、明人くんも含めた全員を上から見下ろしてやると今でもまだ思っておられると。
勇磨さんもまた、康之介さんの一親等。明人くんより濃い血を受け継いでいます。その血がこのまま鎮まるのかどうか…先のことは、わかりませんね。

だからね、最後のシーンの『負け犬』は
やっぱり、やっぱり勇磨さん、なんですよ。
「俺は目的のものを手にした。お前はこの大騒ぎの中心にいて、一体何を手に入れたんだ?いいか、もう一度言ってやる。〈欲しいものがあるなら自分の力で手に入れろ〉俺がやったように。わかったか、〈負け犬〉」
矢神家の中の“よそ者”としての似た立ち位置。裏返しの自分への苛立ち。
今度の事態の中でも、結局最後まで楓さん(と明人くん達)に利用されるカタチになってしまった伯朗さん。そんな伯朗さんを哀れむ気持ち(だって、結果的には勇磨さんは警察側の人間として、途中から本当のことを知って協力してたんですよ?伯朗さんには最後まで知らされなかったのに。)と、どやす気持ち。もういじめたり煽ったりする気はなくても、やっぱりこいつは「負け犬」だ。それ以上には思えない。そうじゃないというならそれを見せてみろ、だがもう俺には関係ないがな。
あの『負け犬』の響きと最後の目線は、そう言ってるように感じました。
勇磨さん、最後まで〈敵役(ヒール)〉でいてくれてよかったです。安心しました。


この未曾有の環境の中で、無事にドラマが最後まで作られたことは、関わるすべての人が沢山の努力と工夫をされたことの証です。観る側も同じように馴染み切れない日常の中で、それを存分に楽しませてもらえたことを、あらゆる関係者の皆様に心から感謝いたします。3カ月の間、毎週日曜日が待ち遠しくてたまりませんでした。
手島伯朗さんと古澤楓さん、蔭山元美さん、そして矢神家の皆さんに、幸多からんことを。
ありがとうございました。
あー面白かったっっっ!!

#危険なビーナス #日曜劇場  
#矢神家の一族
#あと勇磨さんはあれから絶対一回くらいは蔭山さんをお茶に誘ってると思います


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