1965年7月 幼稚園児の初恋 2文

「かあちゃん、こいつに飯食わしてやってぇな。僕の嫁さんになる子なんやでー!」と幼稚園児であった私が言っている。嫁さんになる子はユカリちゃん、桃のようなホッペをしていたのでモモちゃんと呼びたかった。ちょうど1965年にテレビ放映が始まったジャングル大帝レオの妻ライヤとモモちゃんを重ね合わせていた。今から思えばモモちゃんにはチャーミングな色気があったような気がしている。

 実はご飯の話も母からいつ頃かも忘れたが聞いた話である。微かにイメージできるのは桃のポッペとよく手をつないで歩いていろんな所を私が連れまわしていたことぐらいだ。モモちゃんにとっては迷惑なことだったかもしれない。

 先日、幼稚園からの同級生数人とふるさとで飲んだ時、幼稚園から高校までの卒業アルバムを持参してくる奇特な奴がいた。私は素早く幼稚園のアルバムを奪取り、紫組だったモモちゃんの姿を三列目に確認した。ポッペをみてひとりでニヤニヤしていると、「あんた、顔ガヘンやでー」半世紀以上前に付き合っていた彼女をひさしぶりに拝んでいるんや。同級生の女性軍は「まあ、その頃からあんたはませていたからなあ」とあきれ顔。

 高校二年生だった。女子高に通うモモちゃんと11年ぶりに再会した。運動会の前日と同じような胸の高まりがあった。田舎に唯一あった百貨店の裏の出入り口で待ち合わせた。セーラー服のモモちゃんの後ろ姿が見えた。振り向きざまで目が合った。その時彼女と何を話し、どのように別れたのかは全く覚えていない。それ以後は会ったことがない。今なにをしているのかなと思う。
 会う機会を得たのは私が高校二年生になった時、記憶が曖昧であるがモモちゃんのお母さん(あるいは知り合い)が私の実家の文房具屋にアルバイトで勤務されたことがきっかけだった。母親同士で、私とモモちゃんの幼稚園時代のことが話題となり、私もモモちゃんの現在の様子を知ることができた。繋がり、偶然とはおそろしいことである。とんとん拍子に再会の機会を得た。

 私の初恋は、モモちゃんであった。半世紀の時が経過した今、今一度再会してみたいと思っている。会えることができたなら、今度は絶対に何を話したかは憶えている。私が話したいことは決まっている。「幼稚園時代に良き思い出をつくってもらってありがとう。今まで生きてきた中で、たまに思い出している。あの頃の自分があるから今の自分がいる。本当にありがとう。

 モモちゃんの受け応えはわからない。受け身なしぐさがイメージできる。全く違うリアクションも期待したい。最後までひとりよがりの恋だったことを確認するのであろう。  今度故郷に帰ったら、消息を調べてみようかな。 2022.10

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