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DOPEDOPE(episode10で完結予定)
【DeepDope】Prologue
冬。うんざりするほど寒い。
部屋は家賃3万のワンルーム。派遣の工場工員。車なんてない。30を過ぎても 大切な人 なんて出来た事がない。
大切な人、特別な日、なんたら記念になんたらパーティー。テレビの向こう側でしか見た事がない。
といっても、もう数年間テレビは見ていない。
趣味は特にないし、特技などというものもない。精神安定剤とアルコールがずっと手放せない。
35歳になったら、この苦痛に満ちた人生を終わらせるつもりだった。
そう。あの子の瞳を、覗き込むまでは……。
【DeepDope】Episode1
派遣の工場工員なんてのはまだ聞こえがいい。実際はゴミ掃除、つまらん雑用、まるでこの工場にこき使われる奴隷のようだった。
休憩室は煙たい顔をした20代の「社員様」が牛耳ってる。
アメスピ一本を吸いきることも出来ないような短い休憩時間に、毎回あれやこれやと質問してくる。
前職は何してたの?
給料はいくらもらってるの?
趣味はないの?
車は何乗ってる?
女はいないの?
俺は何も答えられずに、うつむいたまま黙り込む。
「社員様」共が顔を見合わせてニヤついてるのがわかる。
「その歳まで一体何やってきたんだよ?」
最後の一言が胸に突き刺さる。
俺の方だってこんなはずじゃあなかった。
自分にしかできない仕事をしているはずだった。
年齢以上の給料を稼いでいるはずだった。
ちょっとばかり良い車に乗っているはずだった。
そして助手席には 大切な人 が微笑んでいるはずだった。
何一つ叶っていない子供の頃に思い描いた「普通」の人生。
「この歳までいったい一体何してたんだろう?」
何も持っていない現実に押しつぶされそうになる。
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その日はいつものごとく何の予定もなかった。俺はふてくされてベッドに仰向けになってた。
街はきらびやかなイルミネーションで装飾されていた。
そう、俺にはなんの関係もない、大切な人と過ごす特別な日。
そのまま寝てしまおうかと思ったところで携帯がなった。
あいつからのラインだった。
「今日予定ある?お前にあわせたい子がいる。いつもの場所へきてくれ。」
ほらきた。バカにしやがって。この日に俺に予定があるわけがないじゃないか。
わかってていちいち聞いてきやがる。
どうせ俺の横に女の子でも座らせて、どう振る舞えばいいのかわからずに固まっている姿を見て笑おうってんだろ?
いつだってこいつはそうだ。
無理難題を押し付けてきては、その場に立ち尽くす俺を見てあざ笑っている。
悪趣味なやつめ。
ああ、わかったよ。どうせ俺はこういう星の下に生まれた人間さ。人間?そもそも本当に人間かどうかもあやしい。
本当はどっか他の星に生まれるべきじゃあなかったのか?と疑うことがある。
まあ、そんなことはどうでもいい。小学生の頃からの腐れ縁だ。この話、引き受けてやろう。いつものように好きなだけ笑うがいいさ。
「わかった。いますぐにいく。」
あいつにメッセージを送った。既読がついた。
「まってるよー。」
いつものように、なんの味気もない返信がきた。
ベッドから出てすぐに部屋をでようと思ったが、その前に一度鏡の前に立ってみる事にした。
伸びっぱなしの髪、整えられていない眉毛、手入れのされていない無精髭。
全く無表情で無愛想な大男がそこに立ってた。
突然、笑いがこみ上げてきた。
こんな風貌じゃあな。
おい、今日もお前の勝ちだろうよ。
この無愛想な大男は、なんの言葉も発せずに座り続け、横に座った女の子は困った顔で、帰るタイミング見計らうために携帯をチラチラ覗く。
それをみてお前は静かに笑ってる。そんな情景がリアルに浮かんだ。
すると今度はだんだんイライラしてきた。
俺はその気分を鎮めるために、冷蔵庫の中からエチラームを一錠取り出して口に含んだ。
それをテーブルの上に置いてあった飲みかけのアルコール度数9パーセントの酎ハイで一気に流し込んだ。
よし、準備はできた。
玄関に向かう。
左足の靴底が半分剥がれたスニーカーを履いてドアを開ける。
うんざりするほど寒い。
エチラームとアルコールが効いてきたのか、胸の奥が暖かくなった。
何かが変わりそうな気がした。
鍵はかけずに
かかとは踏んだままで
解けかけの靴紐を引きずって
ポケットに両手を突っ込んで
無表情で白い息を吐きながら
前のめりになって
いつものように早足で歩き始めた
【DeepDope】episode4
(何故か間飛ばして4だけ書けとるから先に載せとく。)
その日も酔ってた。
イラつきながらアパートの方向へと歩いていた。
何にイラついているのかがよくわからなかった。
いや、むしろありとあらゆるものにイラついていた。
太陽が西から昇って東に沈む事にイラついていた。
信号が青から黄色に変わり、やがて赤に変化する事にイラついていた。
右足を出した後に、当たり前のように左足が出てくる事にイラついていた。
なんの努力もなしに、息を吸い込み、息を吐き出している事にイラついていた。
繰り返し、繰り返し、繰り返し、この同じ事の繰り返し!!
まるで抜け道がないように思われた。
大きな 何か によって完全に組み込まれていた。
その 何か はもちろん親なんかじゃなかった。偏差値の高い大学の教授でもなかった。戯言ばかり抜かすワイドショーのコメンテーターでもなかった。
「フィクサー」と呼ばれる大物政治家でもなかった。
総理大臣でもなかったし、大統領でもなかった。
広域反社会勢力の親玉でもなかった。中世のヨーロッパ方面を起源とする秘密結社でもなかった。
いやいや、あんな奴らは偉そうな顔をしているだけで、組み込まれている側だった。
組み込まれていることにも気がつかないような哀れな連中だった。
いくら無能といえども、組み込まれている事に気がついている俺のほうが幾分かましのように思えた。
どうしようもない考えが頭の中をグルグルと巡った。
もうすぐでアパートにつきそうなところで、イラつきが限界に達した。
イラつきを通り越して、今すぐに消えてしまいたいくらいの気分だった。
ふと、空を見上げた。
息をのむほど夕日が綺麗だった。
俺は急にあの子の体調が気になった。
毎日きちんと睡眠を取っているのかが心配になった。
ちゃんとご飯を食べているのかどうかが不安になった。
そして吸い込まれそうなあの瞳が頭をよぎった。
あの瞳を覗き込んだ日から俺の胸の奥にやわらかで繊細な 流れ を感じるようになった。
こんなのは、生まれて初めての感覚だった。
気がつけば、さっきまでのイラつきはどこかに消えていた。
俺はそのやわらかな 流れ の心地よさに浸りながら、ぼーっとその場に立ち尽くしていた。
ポケットの中の携帯が鳴った。
あいつからのLINEだった。
「いつもの場所に呑みにこい。あの子もくる。どうせ暇だろ?」
くそったれ。
またイラついてきた。
まあ、たしかに俺は暇だった。
アパートに向かう足を止め、180度方向転換して駅のほうへと向かった。
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