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地球によく似た星の話

ある日、俺はとてつもなく疲れて帰ってきた。

飯も食わずに、シャワーだけ浴びてベッドに入った。

そして眠りについた。


数時間して目が覚めた。

体が動かなかった。

「これが俗に言う金縛りか。」

俺はそう思った。

そのまま放っておくと、今度は体が振動し始めた。

体の振動は徐々に大きくなっていった。

そして俺は体から抜けた。

「これが俗に言う幽体離脱か。」

そう思った。

俺は予てから

「幽体離脱が自分の身に起こるようなことがあったら、宇宙空間へと飛び出してみよう。」

と決めていた。

実際、そうすることにした。

部屋の壁をすり抜けて、外へ出た。

空を見上げた。

星空が広がっていた。

俺は眼に映る星空を見据えて、宙へと舞った。


どれくらい飛んだのだろうか?

地球の形がはっきりと分かるくらいの高さに到達した。

大気圏を抜け、宇宙空間へと飛び出した時に、俺は一つのことに気がついた。

地球から少し離れた場所に、地球とよく似た星が存在していた。

「こんな星があるなんて、誰からも聞いてなかったぞ。」

俺はそう思った。

好奇心に火がついた。

「あの星に降り立ってみよう。」

地球によく似た星へと方向転換した。

その星が近づいてきたと思ったら、だんだん気が遠のいていくのを感じた。

そして俺は気を失った。


目が覚めると俺は、大勢の人が並ぶ列の後方に立っていた。

列に並んでいる人達は、この「地球によく似た星」の住民だと思われた。

列の向こう側にこっちを向いて立っている2人組がいた。

「あれは"上層部"だ。」

と後ろの奴が、俺の耳元で囁いた。

「上層部」と呼ばれる間抜けな顔をした二人組が、列の前の人から順に、簡単な質問形式のテストをしていた。

一番前の奴からテストは始まる。

「人生とはなんだ?」

間抜けづら二人組が、質問する。

「はい!人生とは常に高い目標を立て、それに向かって日々精進する事です。目標なく生きている人に価値はありません!」

「うむ。その通りだ。帰ってよろしい。」

アホ面共は答える。

そして次の人へ。

「愛とはなんだ?」

「はい!愛とは、自分を犠牲にして弱い立場の人間を助ける事であります。自分の幸せを第一に考えている奴らに価値はありません。まずは他人の幸せを願う事が必要であります!」

「うむ。よくわかっている。君も帰ってよろしい。」

アホ面二人組は、得意げな顔をして次の人へとうつる。

「お金とはなんだ。」

「はい。お金とは汗水流して一生懸命稼ぐものです。それでこそ良いお金です。簡単に手に入れたお金は悪いお金です。よって、一生懸命良いお金を稼ぎ、溜め込んで、将来の為に貯蓄をするべきです。」

「そうだな。君も正解だ。」

この3パターンの質問がランダムに浴びせかけられる。

質問も同じなら、答えも皆同じだ。

別の答えをした者はどこかへ連れて行かれているようだった。

俺の番が回ってくるまでどれくらいの時間が経っただろうか?

それは非常に気が遠くなるほどの時間に感じられ、ついでに自殺が頭をよぎるほど退屈な時間だった。

二人組がついに俺の前に立った。

そして答え合わせが始まった。

「おい、そこのでかいの。お前は態度もでかそうだな。今から質問に答えろ。」

俺は普通に立っていただけなんだが、やつらには態度がでかく映っているらしかった。

どうやら少し怯えて、緊張して体を縮こませて、しかし、不自然なほどエネルギッシュな目つきをして、

「はい!あなた方の質問には、あなた方が望むようにお答えします!」

と言う態度ではないと気に触るらしい。

そう振舞われて当然。

と思っているようだった。

馬鹿馬鹿しい。


「おい!愛とはなんだ?」

唐突に二人組の片方が俺に質問した。

「ゴミ箱に捨てられる方の愛ですか?」

と俺は聞き返した。

「何言ってるんだ?アホなのか?質問を変える。」

二人組は困惑しているようだった。

「お金とはなんだ?」

「お金はお金です。」

「こいつ、本当にアホなのかもしれん。これが最後のチャンスだ。」

「人生とはなんだ?」

「そんなものはわかりません。」

二人組が顔を見合わせて言った。

「こいつはアホだった。飼育されていない。"牧場"行きだな。」

「まさか、ここまでのアホがいるとは。テレビ、インターネット、義務教育を使った飼育。ありとあらゆる媒体を使ってるのに、飼育が完了していない。こいつは正真正銘のアホだ。」

コソコソ話をしているつもりらしいが、丸聞こえだった。

コソコソと話をしている時点で、耳をそちらに傾けるだろう?

どうやら、聞かれていることに気がついていない様子だった。

俺には二人組の方がアホに感じられた。

目を合わせていないと聞こえないとでも思っているのだろうか?

明後日の方向を見ながらでも、耳を傾ける事は出来るだろうに。

耳は、どこを見ていようが、何を考えていようが、耳の機能である「聞く」という役割を常に果たしている。

俺らの事を家畜呼ばわりしながら、お前らもさらに上層部のやつらに飼育された家畜だろうが。

俺はそう思った。

「少し話がある、すぐに済む。こっちへ来い。」

と一人が言った。

「悪いが、場所を知られてはいけないので目隠しをさせてもらう。」

ともう一人が言った。

「なぜ知られてはいけないのですか?」

と俺は質問した。

「黙れ。お前の質問に答える義務はない。」

「ただ、上の人からそう言われたからそうしてるだけでしょう?」

と、俺は続けた。

「黙れ!バカにしてるのか。次は殺す。今後一切しゃべるな。」

俺は目隠しをされ、手錠をかけられ、車か何かに乗せられた。

数十分走っただろうか、乗り物から降ろされ、さらに歩かされた。

どこかの建物に連れて行かれ、たぶん、エレベーターに乗せられた。

上に向かったのか、下に向かったのかはわからないが、兎に角エレベーターは止まった。

手錠をかけられたまま、エレベーターから降ろされた。

そしてどこかの部屋に入れられた。

ここがこいつらの言う"牧場"らしかった。

部屋はとても冷たい感じがした。

「ここに椅子があるから座れ、そして今から渡すカプセルを飲め。抵抗すると殺す。」

目隠しをされたままだったが、手錠ははずされた。

俺は言われるがままにカプセルを飲んだ。

こんな場所で殺されるなんてごめんだからだ。

10秒もすると体の感覚がなくなってきた。

徐々に自分という感覚も薄まり始め、意識が拡大していった。

そして際限のない暗闇と一体化していった。

しかし、俺の人格は薄れているものの保たれたままだった。

暗闇の中に声が響いた。

二人組の声だった。

「そろそろ効いてきたんじゃないのか?」

「ああ。この状態でプログラムを流す。もっとも深い部分で再生する。よっぽどのアホでも目が覚めれば、他の奴らと同じ"家畜"に変わってる。」

暗闇の中でこんな疑問が湧いた。

「プログラム?それが俺に効かなかったらどうする?」

すると二人はまた会話を始めた。

「このプログラムは何をしているんだ?」

「上から聞いた話によると、さっきのカプセルで普段の人格を薄める。そして、意識の最も深い部分にこの音を流し込む。その音には"家畜"となる信号が乗せられている。テレビドラマ、コマーシャル、流行りの音楽、そして飼育された"家畜"の声にも信号が織り込まれている。本来は普通の生活をしているだけで勝手に飼育が完了する。しかし、たまにこういったアホが現れるらしい。こういうアホには直接、こうやって信号を送り込むのが手っ取り早い。」

「こいつに効かなかったらどうする?」

「その時は殺していい。 と上から指示を受けている。」

「殺すのか。俺は嫌だな。効いてくれればいいんだが。大人しく"家畜"をやってればいいものを。」

「上からの命令だ。仕方がない。そうしないと俺たちが殺される。」

今度は暗闇の中でこんな疑問が湧いた。

「なぜこんな事をするのか?目的は一体なんなのか?」

するとまた、二人組が話を始めた。

「今更だけどな、なんで俺たちはこんな事をしているんだ?"飼育"をして一体どうするんだ?」

「もっともっと上からの命令だ。だからやってる。もっともっと上の人たちは、この星の住民を思い通りにコントロールするために、特殊な知識を持っているやつらの力を借りているようなんだ。」

「特殊な知識を持っているやつら?一体どんなやつらなんだ。」

「この星の存在ではないし、肉体を持ってない。そいつらから、この星にはない技術を教えてもらっている。さっきのカプセルも、今から使うプログラムも、そいつらから教わった技術だ。」

「そうだったのか。そいつらは見返りを求めないのか?」

「それがこの世の中に蔓延する、過剰なまでの「歪んだ」ポジティブなエネルギーだよ。やつらには肉体がない。食べ物を必要としない代わりに、このエネルギーを糧にしている。俺たちの仕事は、やつらの為にエネルギーを作り出すって事だ。今に満足させず、常に先を見させる事によって無理やり走らせる。今のままではダメだ。という不安を埋め込む事によって、「前に進む」「高く登る」「戦う」為のエネルギーを作りだす。常に満たされる事がない。」

「ああ。」

「でもやつらは、際限なくこのエネルギーを要求してくる。やつらも満たされるって事がない。とことん吸い尽くすつもりだ。この星自体が、やつらにエネルギーを供給する仕組みになってる。」

「つまり俺たちもそいつらからすれば家畜ってことか?この星の住民をコントロールしているつもりで良い気になっていたが、俺たちも組み込まれている側だというのか?」

「ああ…。実はやつらは、本来いた星から追放処分を受けている。とても独善的で利己的で傲慢だったからだ。やつらの持っている特殊な知識は、その星ではすごく当たり前で、普通の事なんだ。そこでは、肉体を持たぬ者と、肉体を持つ者が共存している。

肉体を持たぬ者は、宇宙の源泉から素晴らしいアイディアを読み取り、それを肉体を持つ者に伝える。

肉体を持つ者はそのアイディアを使って、高度な建造物、高度な医療技術を発展させてきた。

うまく共生してたってわけだ。

だが、一部の存在がそれを悪用し始めた。

それがやつらだ。

アイディアを自分たちの為だけに利用し始めた。

肉体を持つ者をコントロールし、自分たちを崇めさせ、「特別な存在」として振舞うようになった。

「全ての存在は平等である。」

という、この宇宙の法に背いた。それが原因で追放された。」

「その後は?」

「その後は宇宙空間を彷徨って、自分たちより文明が劣った星を探し始めた。

ターゲットの星が見つかると、まるでその星を救ってあげるかのように振る舞う。

救われる側は「とても素晴らしい存在だ!これは救世主だ!」

と喜び、やつらのいう事を鵜呑みにする。

そして、知らず知らずのうちに、やつらに必要なエネルギーを作り出してるってわけだ。

本当は、優れている星も、劣っている星もない。

各々のスピードで進化しているだけだ。

こっちは優れていて、あっちは劣っているというのは、偏ったものの見方だ。」

「エネルギーが枯渇するとどうなる?」

「そんな事はやつらにとってはどうでもいい。使いすてだ。

自分たちよりも劣った文明の星を見つけるために、また宇宙空間を彷徨い始める。

崇めてくれる場所、神聖化してくれる場所、そう「条件付きの愛」を与えてくれる場所を求めて。」

「取り残された星の住人はどうなる?」

「自ら滅んでいく。「歪んだ」ポジティブなエネルギーを作り出す。

すると「歪んだ」ネガティブなエネルギーも同時に精製される。

どちらか一方だけを生み出す事は出来ない。

これは宇宙の摂理だ。

歪んだポジティブなエネルギーを外に放出し、歪んだネガティブなエネルギーは体内に溜め込まれる。

体内に溜め込まれたエネルギーは、徐々に肉体や精神を蝕んでいく。

世の中を見てみろよ。

外ではエネルギッシュに振る舞い、明るい人間である事を装い、内側に潜んでいる闇を必死に隠そうとしている。」

「ああ。」

「蔓延するうつ病、家庭内暴力、明るかった人の突然の自殺。学校、会社での弱いものいじめ。子供の虐待、動物の虐待。

悲劇はいつも見えぬ所、内側で起こっているじゃないか。

誰も彼もが遠くばかりを見て、足元を見ようとしない。

外側ばかりに変わることを要求して、自分の内側に変化を起こそうとするやつなんてほとんどいない。

まあ、俺たちだってそうだが。

…これ以上この事について話すのはよそう。

バレたら殺される。俺にも家族がいる。

お前だってそうだろ?

大人しく、何も考えず、家畜をしていよう。

その方が楽だ。」

「ああ、そうだな。仕事に戻ろう。」

「よし、”再飼育"をはじめるか。そこのでかいアホにヘッドホンをつけてくれ。」

「わかった…装着完了。」

「では”再飼育"を開始する。」

暗闇の空間に、冷たい機械音が流れてきた。

その機械音の裏側に、お経のような、呪文のような、不気味な音が乗せられているのが僅かに聞き取れた。

とても嫌な感じがした。

俺はそれが入ってこないように抵抗した。

「よし、この位でいいだろう。」

「後はこのアホを起こすだけだな。」

「いや、ちょっと待て。もう一つ試したいプログラムがある。これを流してくれないか?」

「わかった。」

今度はとても優しい、細やかな、柔らかい振動を持った音が流れ始め、暗闇を満たした。

そして、柔らかい光が差し込み始めた。

俺はそれを受け入れた。

とても心地よく、懐かしく、ずっとこのままでいたい気分だった。

「これはなんだ?」

俺はそう思った。

するとまた二人組が話し始めた。

「このプログラムはなんだ?マニュアルにはなかったぞ。」

「俺が勝手に持ち込んだプログラムだ。これは“一番最初の振動”だ。」

「一番最初の振動?」

「ああ。宇宙空間はこの振動から始まったんだ。

俺たちの星の科学では、そこまでの理解に到達していない。

お前も耳にしたことがあるはずだ。

そこに寝ているデカイのも知っている。

もちろん俺も知っている。

皆、聞いた事があるにも関わらず、誰も信じちゃいない。

皆、必要だと分かっていながら、誰も表現しようとしない。

そう。これが”愛”の振動だよ。」

「なぜそれをこいつに与えるんだ?」

「俺の経験上、こいつに再飼育は通用しない。想像を遥かに上回るアホらしい。そこで思ったんだ。

もしかするとこいつなら、この"閉じた世界"から抜け出した生き方を見つけるかもしれない。

昔の俺もそういう思いを抱いていたが、いつのまにか、組み込まれてしまった。

この"最初の振動”は、"家畜"から目覚めさせる効果がある。アホであればあるほど効果が出るのが早い。

おい!そこのアホ!

俺たちの声が聞こえているんだろう?

俺はお前を殺したくない。

理由は面倒だからだ。

よく聞け、今からお前を起こす。

そして一つだけ質問する。

こちらが望む通りに答えろ。

そしたら還してやる。

上のやつらには「再飼育完了。」と伝えておく。

次にこういう状況で会った時は本当に殺す。

わかったな?」

一人が俺の目隠しを外した。

俺の口にまたカプセルが押し込まれた。

徐々に体の感覚が取り戻され、意識がハッキリと戻ってきた。

さっき言われた事を頭の中で整理してから、ゆっくりと、本当にゆっくりと目を開けた。

「これが最終テストだ。一つだけだ。答えを述べてさっさと帰れ。」

「わかりました。」

俺はそう答えた。

「人生とはなんだ?」

俺はとびきりの笑顔を作り、今まで発した事がないようなハキハキとした声でこう答えた。

「はい!人生とは常に高い目標を立て、それに向かって日々精進する事です。目標なく生きている人に価値はありません!」

2人は同時にこう言った。

「正解!お前は還ってよし!」


ここで目が覚めた。

いつものベッドの上だった。

長い長い、夢を見ていたんだ。

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