見出し画像

単一の目


「.........。」

目が覚めると沈黙から始まる。

そして今見上げているものが、天井だった事を思いだす。

白い。

天井に向いていた意識が今度は反対側に向く。

この二つの覗き穴。

二つのはずなのに一つの場所から覗いている。

かぼちゃ大のなにかをくりぬいた覗き穴。

頭と目だった事を思いだす。

そして、頭の下には首がついている。

首の下には胴体、胴体には手と足がついている。

ちゃんと動くか確認してみる。

うん、ちゃんと動く。

頭のてっぺんから足のつま先、隅々にまで意識を張り巡らせてみる。

一人の人間の完成。

そうこうしているうちにさまざまな感情、記憶が立ち上がってくる。

昨晩の事や、もっと前の事や、未来の展望や、あの子の美しい瞳。

悲しくて、切なくて、とても愛おしいなこの人間世界は。

空気式イス取りゲーム、大平原での高鬼ごっこ、そして果てしなく続く檻の中のダンス。

上等じゃないか、はい、喜んで。

俺は今日もスニーカーを履いて外の世界に飛び出す。

この 単一の目 を携えて。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?