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自由に喰われた鳥

大空をはばたく鳥をみては

「あれは偽物だ。幻想だ。あんなに高く飛べるはずがない。」


鳥かごから出ようとしている鳥をみては

「やめておけ。お前にできるはずがない。そんなに簡単じゃない。」


鳥かごの中にいる鳥をみては

「そんな所にいて何が楽しいんだ?お前たちは何も知らない。」


自分は鳥かごの前から一歩も動こうとしない。

羽を広げようともせずに。


鳥かごの中の生活に特に不満はなかった。

決まった時間に餌がでてきて、決まった量だけ食べてればよかった。

ただ、あまりにも狭かったので羽を広げる事は出来なかった。

餌以外の楽しみといえば、色の違う鳥をバカにすることぐらいだった。


あいつはいつも鳥かごの端にいて、空を眺めてた。

「何をしているんだ?」

と尋ねても

「風を感じているのさ。」

としか言わなかった。


色が違う上に変わった事しか言わないあいつを皆でバカにしてた。

「風を感じているのさ。」という口癖をよく真似して笑った。

だけど、色の違う鳥は何も気にしていないようだった。


ある日、色の違う鳥がいなくなっている事に気がついた。

まわりの鳥も気がついていた様だけど

「そんな事はどうでもいい。決まった時間に出てくる餌の方が重要さ。」

そんな風だった。


あいつの真似をして空を見上げていたら、そこにいた。

大空を舞ってた。


「あいつに出来たんだから、自分にもできるはず。」


どうやったらかごの外にでれるのか全く見当はつかなかった。

でも

「かごの外に出たい。自由になりたい。」

そう強く願った。


ある晩、皆が寝静まった頃に目が醒めた。

月明かりが辺りを照らしてた。

満月だった。

波の音と、風の音が静かに聞こえた。


澄んだ気持ちでもう一度強く願った。

「かごの外に出たい。自由になりたい。」

するとゆっくりと扉が開いた。

「そんなとこに扉があったのか。気がつかなかった。」

これで自由になれる。

そう思い、外にでようとした。

その時、扉が話しかけてきた。


「本当に行くのかい?もう二度と鳥かごの中に戻る事は出来ないけど、それでもいいのかい?」


「ああ。」


そういって外にでた。扉はゆっくりと閉じた。

かごから少し歩いてみると、そこは断崖になってた。

月明かりに照らされた水面がわずかに見えた。

どうやったら飛べるのかがわからずに立ちすくんでいると、一羽の鳥がやってきた。

色の違う鳥だった。


「おい!どうやったらそんな風に飛べるんだ!」


色の違う鳥に尋ねた。


「とても簡単だよ!羽を広げて、そこから跳ぶんだ!後は風が運んでくれる!」


と色の違う鳥は答えた。


「そんな簡単なはずはない!お前嘘をついてるだろう?バカにされた恨みをここで晴らそうってんだな!」


急に襲ってきた恐怖と苛立ちをぶつけた。


「バカにされた?..ああ、そんな事はもうどうでもいいんだ!ただ羽を広げて、そこから跳ぶだけでいいんだ!」


「嘘をつくな!俺を陥れるつもりだな!お前の事なんか信じられるか!」


「風を感じるんだろ?だったら僕の言葉なんか信じなくてもいいんだ。

風を信頼するんだ!僕に出来たんだから、君にも出来る!」


「いや、嘘だね。俺はお前を信用しない!そんな簡単なはずがない!」


色の違う鳥は少し悲しそうな顔をしたあと、やさしい口調でこう言った。


「ああ。わかった、わかった。本当にとても簡単な事なんだ。

もし気が変わったらまたそこに立って僕を呼んでおくれ。

何度だって飛んでくるよ。

風はいつだって吹いているんだから。」


そしてまた飛び去っていった。



鳥かごの前まで戻って扉に叫んだ。

「頼む!中にいれてくれ!もう二度と外にでたいなんて言わない!」


扉は何も答えてくれなかった。



大空をはばたく鳥を見ては

「あれは偽物だ。幻想だ。あんなに高く飛べるはずがない。」

鳥かごから出ようとしている鳥をみては

「やめておけ。お前にできるはずがない。そんなに簡単じゃない。」

鳥かごの中にいる鳥をみては

「そんな所にいて何が楽しいんだ?お前たちは何も知らない。」


自分は鳥かごの前から一歩も動こうとしない。

羽を広げようともせずに。


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