満開の桜の下を歩く女学生。
やっぱり一番絵になるな、と思ったサワコは、彼女の後ろを離れて反対側の歩道に移る。
少し離れてその景色を見る。
日本人のDNAなのか、学生のころの印象なのからなのか。
毎年咲くにも関わらず、咲く度に初々しい印象の桜。
その初々しさが女学生の若さにリンクするのか。
女学生であったそのころには、自分が初々しいなんて、思ってもいなかったな、とそのころの自分を思い出す。
人生が終わったように感じていたあの頃。
あまり輝かしい学生時代ではなかったため、楽しい日々ではなかった。
社会人になってからの方が人生は楽しい、面白いと思い始めた。
思えば視野が世界が狭かっただけであったりするのだが。
学校と家との往復。
そのころのにがよもぎの味のする記憶が淡い桜の色の中に浮かびあがる。
だが、サワコは頭を振り、記憶を振り払うかのように深く息を吸い、誰も居なくなった桜の木の下に戻った。
小さなことでも嫌だと感じることがあると、小さくフラッシュバックしてくるあのころの記憶。
その瞬間だけ、あの苦々しい学生時代の自分がまだ傷ついているのだと分かる。
今の自分が同じように感じ、シンクロしてしまい、畏縮してしまうのだ。
もう倍近い時間を社会人として過ごしているにも関わらず。
人って可笑しいもんだな、と舞い散る桜の花びらにその萎縮してしまう学生の自分を乗せて、地面に戻した。
今の自分があるのは。
あのころに生きることにもがいた小さな自分が居たからだと、解放しようとして。
そして、桜の木の下から歩み出る。
そして、苦々しく笑った。
多分、毎年こんなことをしているような気がしたからだ。

本当に。
人って可笑しなものだわ。

振り返って、咲き誇り舞い散る桜を見て心持ち背中を伸ばした。
もう充分に大人になっている自分を確認するように。

2011-04-28

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