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【連載エッセイ】余生ーわたしは何処へ向うのかー6話


◆昔の恋の話◆

その昔、水商売の男を好きになった事があった。

現在はスナックホステスとして、夢を売る側と買う側との駆け引きの何たるかが、ほんの少しは分かったつもりでいるが、

当時の私は、水商売のその男を『普通の男』として見ていた。
ほんとバカでウブだった。

嬉しい事を言われたり、軽いスキンシップでまんまと恋に落ちたのだ。

彼がホストではなく、カウンターBARのオーナーでバーテンダーだった事も私を勘違いさせた。

いくらバカな私でも、ホストから嬉しい言葉を言われたり思わせぶりな態度を取られても「はいはい。売り上げが欲しいだけでしょ」と思えた。

でも、彼はオーナーだ。客との色恋が拗れでもすれば他の客からの信用を失う。
モテるであろう事は分かるが、彼は欲望をグッと抑えて客に手を出す事はない……と思っていた。

その客に手を出さない(ハズ)の彼が客の私に好意を向けている…………私には欲望を抑える事が出来なかった!私は皆んなの憧れから選ばれた!…………んな訳ないだろっ(笑)

BARのオーナーだろうがホストだろうが人気商売だ。
客を自分に惚れさせてなんぼ。
色恋営業は基本。
客に、自分も惚れている様に勘違いさせるのも常套手段。
気に入った子が居れば手も出す。
他の客にバレない様に…は当たり前。相手のオンナは匂わせも禁止。
何故かそれに喜んで従うMっ気満載、自尊心低めの適度なバカ女(バカ過ぎてもダメ。これ大事)でハーレムを作っている。

中には、私が幻想を抱いていた様に
客には絶対手を出さない…というBAR経営者の鏡のような男性も知ってはいるが…。
彼は違った。残念ながら。

深い関係にもなったけど、一度も好きだとか付き合おうとか言われなかった。でもそれに近い事は言われた。「しゅうこちゃんとは一生続けていきたいと思ってんだよね」……しゅうこちゃんとは…?他にも居るって事でしょうが。気付けよ私(笑)
「ずっと続けていきたいけど俺、結婚はするからね。結婚はさせてね?」……結婚するのは私じゃないと言われてんの気付けよ私(笑)

甘いひと時の後に言われたから、ボーっと「うん。うん。」と聞いてたけど大概失礼な事言われてるよな…私(笑)

何が原因か分からないけど、段々とお店から足が遠のいて、もう切れてもいいと思われたのかプライベートな電話はおろか営業電話すら来なくなって。
私からも連絡しなくなって自然消滅。

このコロナ禍、お店はどうしてるんだろうとふと思い出してしまった。

私は、要は都合の良いオンナ。セフレだったのだろう。
当時は分かっていたけど認めたくなかった。
他に沢山いたのは分かってる。
だけど私だけは特別だと思いたかった。
そう勘違いさせる努力くらいはして欲しかった。

嬉しい事があると、その後かならずメガトン級の嫌な事(他の子とのキス現場目撃など笑)がやってきて、
嬉しいと悲しいの波で船酔いしそうでホント体力削がれた。

自分がホステスやってみて分かったけど、お客様を惚れさせようとはするし気のある素振りもするけれど一線は越えない。
よっぽど好きな男に出会えば別だろうけど、私がお客様と色恋で揉めたらお店にマイナスだ。
だから一線は越えない所、落とせそうで落とせない所で駆け引きするのがこの仕事なのだろうな…と。
男女の差はあるだろうけど、ただの従業員ホステスがそう思ってるのに。
あの男は経営者だったよな(笑)何やってんだか…。

もうどうでもいい男だし昔の話だけど、今だに何かこう…心の奥の奥に
芯の様な物が残っている。

好き…でもない。憎しみ…でもない。
ただただ、誰かをあんなに好きになる事はこの先もう無いだろうから…。

彼を思い出す時いつも襲われる説明のつかない感情。

悔しさと懐かしさかな…それを足した感じが一番近い。

彼と関係があった時期、立派な大人だったのに彼の前で大人の女性として振る舞えなかった悔しさ。
いつも嫉妬に苦しめられて、笑顔で過ごす事ができなかった悔しさ。
面倒臭いオンナだったなぁ……反省。

彼の電話番号はもう消しているけど共通の知り合いがいるせいか、たまにSNSに近況があがってくる。

あんなやり方をしてても、コロナ禍でもまだ店は潰れてないらしい。

もうあの店に行くつもりもないが、
70歳位になって、まだ彼があの店をやっていて私が生きていたら…その時は悔しい気持ちも成仏してるだろうから…。
昔話でもしに行ってみたいなと思っている。

その時まで、是非かっこいいままでいて欲しい。




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