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舞台挨拶という名の伝説の一戦@川越スカラ座



映画の舞台挨拶ときいてどのような景色を想像するだろうか。

映画の公開日に大きな映画館でマスコミ各社の眩いフラッシュの中、ドレスアップした有名な監督や豪華キャストが登壇する。司会者を介してある程度お決まりの質問に答え、共演者とのクスッとくる裏話なんかが語られた際には翌日高確率でニュース記事になる。 

このような光景を思い浮かべる人が多いのではないだろうか。かつては私もそうだった。井浦新さんの舞台挨拶を経験するまでは………。



井浦新さんといえば唯一無二の存在感で映画やドラマにひっぱりだこなことはファンでなくとも周知の事実だが、その裏で毎週のように地方のミニシアターの舞台挨拶に顔を出し応援し、夫婦で自然派コスメのブランドも経営、友達や家族との付き合いも大事にし、趣味で山登りをしたり土偶を掘りにいったりしている。東京にいたとおもったら翌日鹿児島にいてそのまた翌々日には山梨にいるなんてことにももう驚かない。巷で井浦新複数人存在説がネタとして噂されるのも頷ける。

井浦さんがお忙しい時間の隙間をぬって精力的に行われているミニシアターでの舞台挨拶にはティーチインと呼ばれる時間があり、鑑賞したてほやほやの映画について井浦さんと直接質疑応答を行い、より深く知ることができる機会である。映画で全部伝えているから舞台挨拶は邪道という考えももちろんあると思うが、わたしはこの時間が大好きだ。井浦さんが何を考えながら演じていたのか、何に関心がありどういう思想でどういう人柄でどういう背景で形成されているのかなどを本人に直接聞くことができる贅沢すぎる時間なのだ。井浦さんにとっての円空が、私にとっての井浦さんである。実在の人に対してこんなクソデカ感情を向けてしまうのは不快かもしれないし迷惑かもしれない。でも気になって仕方ない!もっと知りたい!そんな人にこのティーチインは最高の機会である。一度参加すると中毒症状に落ちいり、気づけば次の舞台挨拶のチケットを取っている。こうして何ヶ所かの舞台挨拶に参加させていただいていた。


今回の会場は川越スカラ座さん。前情報として前回4時間超えの舞台挨拶をしたという井浦さんとスカラ座さんのポストを拝見していたが、「今回はそんなにやらないだろうけど、それくらいの意気込みできてほしいってことね!了解 !」なんて軽いきもちでいた。事前に井浦さんも購入した映画館オリジナルTシャツの宣伝をするスカラ座さんはオタク心理を熟知されている…!とワクワクしながら映画館に向かった。


整理券順に整列し入場する。客席の作りがかなり個性的で、2列目には机があった。外には他のミニシアターのグッズが展示されていたり、会場内には支援者?のお名前の木札が飾られていたり、ミニシアターの良さをひしひしと感じた。映画が終わりいつも通りあたたかいきもちに包まれたあと、運びこまれたスタンドマイク。客席に背を向ける形の置き方にあれ?とは思いつつも今日はスタンドマイクなんだめずらしい!と思う程度の違和感でしかない。そして紹介と共にパイプ椅子を片手にあらわれる人気俳優井浦新さん。左右にうろうろ歩き、端の人にまでお顔をみせてくださるサービス精神はさすが。パイプ椅子を「凶器じゃないですよ〜!」なんておっしゃって笑いが起きる。これがこれからはじまる狂気の幕開けだとも知らず………。

破格のあらたさん2000円



井浦さんは舞台挨拶でほぼ座らない。映画館が椅子を用意してくださっているのに座らず、後方席のお客さんからも見やすいようご配慮くださっているのだ。井浦さんはこういった聖人エピソードだらけである。そんな井浦さんが「今日は座るかもしれない」とパイプ椅子を立てかけた。

スカラ座オリジナルグッズや飴ちゃんの宣伝も忘れずにする井浦さん。「途中でお腹減った方は買って食べていいので!ポップコーンはないみたいですけど、何がある?あっ飴…。」「バッジもぜひ!一人で10個購入してもいいんですよ!」「僕も募金しました!紙のやつを。みなさんは僕以上でお願いします!」とこれまたオタク心理を熟知している井浦さんが冗談もまじえつつミニシアターの応援をする。

スカラ座の方が「今日は質問のある方みなさん列に並んでいただいて、井浦さんが答えるシステムをとります」とおっしゃった。井浦さんは「スカラ座はパワハラミニシアターなので!」なんて愛のあるいじりをしていた。雷雨の音が会場に響いたが、井浦さんは「2時間後くらいにはやんでると思います」とおっしゃっていた。2時間はやる気か…!と思いながら、未だかつて見たことがない、質問のある人は壁沿いにぐるっとならびスタンドマイクで話すというQ&Aの開幕である。

実際の景色がこれだ。井浦さんのデビュー作『ワンダフルライフ』にはじまり『DISTANCE』『空気人形』などで監督をされた、映画俳優井浦さんの育ての親の一人、是枝裕和監督のシステムが踏襲されたそう。エモい。

長蛇の列ができていてもまだわたしは「列を捌ききるのにたしかに2時間くらいはかかりそうだな〜」程度にしか考えていなかった。突然の異様な光景に当てられ、いつもの井浦さんのとても丁寧に一人一人と向き合うスタンスを思い出す頭などなかった。

井浦さんの「ゴーン!」というかわいいゴング音ではじまったQ&Aという名の試合。井浦さんは1質問されたら100で返すような方だ。2、3人終了時点で「これ、何時間かかるんだ…?」という空気が流れ始めた。参考までにどれくらいのペースだったかというと、途中お手洗いに抜けたわたしはお手洗いがあくのを並んで待ち、体感5分ほどで列に戻ったのだが、井浦さんはわたしが抜けた時と同じ方の質問にまだ答えていた。

並んでいる人たちには「トイレに抜けても前後の人はいれてあげてね」「途中座って休んでもいいですからね」などと気遣いの塊の井浦さん。当のご本人は用意したパイプ椅子にまったく座らず、お水も全然飲まず(良い子はまねしないでね!)こちらが心配になるほどだった。ただまっすぐに質問者の目をみて心のこもった回答をし続けていた。

映画への質問や感想はもちろん、井浦さん自身への質問、共演者や監督について、日本とアメリカの違い、地元にきてほしいなどの要望、高校生の人生相談など、Q&Aの内容は人それぞれで多岐に渡りとても面白かった。

井浦さんの素敵なところはありすぎて枚挙にいとまがないのだが、今回改めて思ったのは他人を否定せずマイナスをプラスに変えてくれるところだ。いわゆる褒めて伸ばすのがうまい。高校生の人生相談にもそのスタンスだったし、自分を卑下するような言葉を発してしまう人には「そんなことない!」といい所を探して言葉にする。「いい質問ですね」や「うれしい」などのポジティブな言葉も多用する。まわりがみんな明るいきもちになれるのだ。なんだこのしあわせ空間。ずっと続けばいいのに。

夜も更けていき途中で帰らなくてはならない人たちが出てきたので一度Q&Aを中断しその方々へのサイン会を先に行う。ここもスカラ座さんの対応力が素晴らしかった。「最後のサイン会まで残れない人たちかわいそうだな…」と思っていたがその心配は杞憂に終わった。数々の凄い舞台挨拶を繰り広げてきたスカラ座さんだからこその機転なのだろう。お客さんたちも優しく、高校生を優先させてあげたり、東京カウボーイの世界さながらのやさしさとあたたかさに終始包まれていた。

そして井浦さんのゴングで第2部が始まる。サイン会を挟みつつ、第4部まで続いた。なんとQ&Aが終わったのは22時半。映画の開始は16時半、舞台挨拶は18時半頃からのスタートだったので、この時点で井浦さんとは4時間、観客同士は6時間同じ空間で過ごしていた。みんなアドレナリンどばどばでハイになっていて、異様で最高な空気感だった。そこからフォトセッションに入る。さすがに疲れたであろう井浦さんがご自身のビジュアルを気にされていたが、変わらず格好良くて意味がわからなかった。天は井浦さんに何物も与え過ぎだ。その後残った人たちのサイン会が行われた。終電を諦めて開放感たっぷりの中で味わうサイン会は格別だった。井浦さんはお疲れの中変わらず丁寧に一人一人対応されていて流石だった。普通は疲れがたまると雑になったり無言になったりイラっとするものなのに。

ハイになっていたのかあたり一面に指差しビームをかます井浦さん
ひだりも
みぎも


スカラ座の方々も遅い時間まで本当に素敵な運営をありがとうございました。スカラ座さんの企画力や対応力なしにこの舞台挨拶は存在しえなかった。井浦さんも「これを当たり前だと思わないでください」とおっしゃっていたが、まさに井浦新✖️川越スカラ座でしか成立することのなかった伝説の試合である。この奇跡の瞬間に立ち会えたことを心から誇りに思う。舞台挨拶がはじまった際、「時間の記録ではなく、内容で更新しましょう!」とおっしゃっていた井浦さんだったがしっかり時間も内容も両方の記録を更新されていた。井浦さんと観客どちらが先に倒れるかの限界バトルは全員優勝で幕を閉じた。


以下のことは汚点なので書くか悩んだが、井浦さんの優しさを伝えたいのと自戒の意味も込めて書くことにした。いつもの舞台挨拶は手を挙げる制度のため、どうしても聞きたいことがある時か他にあまり手が挙がらなかった時くらいしか挙げないのだが、今回は時間があるということでひさしぶりに伝えたいこともあり列に並んだ。ただ、体力も精神力もひ弱な人間なので2時間立ちっぱなしで並ぶということに体が耐えられず、いざマイクの前に立った時に緊張も相まって立ちくらみで目の前がぐるぐるまわりだして喋れなくなってしまった。その際、井浦さんにも観客の方々にも見苦しいもの見せてしまったと申し訳なさと情けなさでもっと気持ち悪くなりかけていたのだが、座るよう促してくださり、ファンの方も連れ添ってくださったり、こちらが気負わないように言葉を紡いでアシストしてくださるお心遣いに本当に助けられた。体調管理もできずに並んでしまったわたしが悪いのに、そう思わせないようにしてくださる、そういう方なのだ。以前別の会場の舞台挨拶でも緊張で言葉が出なくなってしまった方に「ゆっくりでいいですからね。」「お水飲みますか?」と助けていた井浦さん。本当に誰にでも平等に優しいのだ。聖人エピソードの一つとして記録しておく。

舞台挨拶ではその空間だからこそ話してくださることが多々ある。舞台挨拶はなまものだ。生きている。同じ舞台挨拶は二度とない。映画館もそこに来る人も違う。その時間、その場所でしか聞けないことがある。その場に居合わせることができた人たちが同じ空気を共有する。ただ、これは井浦さんと観客との間での信頼が必要なことだとも思う。もらしてはいけないこともある。この信頼関係を私たち観客が崩さない限り、このような素敵な時間は続いていくのだろう。今回のスカラ座さんはその辺りのバランス感覚が最高で、井浦さんが言う前に「この話はオフレコですよね?」とすかさず井浦さんに確認してくださるので、書いていいのか微妙なラインで悩むことがなかった。

わたしのnoteはその時の感情を忘れたくなく自分用の記録にしているだけなのでいわゆるレポといわれる大層なものではない。それだけなら非公開で書けばいいのだが、こんなちんけなものでも公開するのには何点か理由がある。仕事などの都合で行けなかった人が少しでも空気を味わってくださったらうれしいし、みんなに井浦さんの良さをもっともっともーーっと知ってほしい。そして舞台挨拶に行ってみたいけれど勇気が出ず、悩んでいる方の一歩になれたらうれしいからだ。かつて私も勇気が出ず、見に行きたいという気持ちを抱えながら見送ったことが何度もある。その時レポを漁り、一歩を踏み出し今に至る。だから以前「レポを見て気になって舞台挨拶にいきました」とDMをいただいた時、きっかけとなれてとても嬉しかった。こうして連鎖していくのだ、と。チケットが取りづらくなるのは悲しいけれど嬉しいことでもある。とはいえレポとまではいかないレベルのものなので、私の記録は「好きなものについて書き殴られたノートが道端に落ちていてそれを偶然拾って見た」程度に思ってほしい。詳細なレポは記憶力の良いまわりの皆様にお任せしたい。

クソデカ感情を長々と綴ってしまい特急呪物のようなnoteになってしまったが、本当に素敵なSCALAZA★MAGICに感謝。そして魔法使い井浦新さんには体調だけは気をつけていただき、無理のない範囲でファンにARATA★MAGICをかけ続けてほしい。


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