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「この美しき風変わり」について

This beautiful fantastic(2016)
邦題:『マイビューティフルガーデン』

今回は、この鬱蒼とした生きにくい世界に生きるわたしの(あなたの)心の処方せん的映画をご紹介します。


『This beautiful fantastic』(2016・英)。邦題はマイビューティフルガーデン、ですがわたしなら、記事のタイトル「この美しき風変わりについて」と解釈しますかな。
理由はこの記事のなかのどこかに。邦題決めの会議に出席していたら熱くプレゼンしたい。みなさんならどう題をつけるでしょうか…


それは、さておき。


鴨によって救われた命は、世界中でもっとも変わった少女に育ちました。 彼女に親は無く、物の並べ方と全ての秩序に異常なまでのこだわりを持ち、成人するまでずっと自分の世界で”一人”で生きてきたのです。

教会のろうそくの並べ方からプレートの上の人参・ワッフル・グリーンピースの配列、7枚の日替わりシャツ・7本の日替わり歯ブラシに至るまで。 ほこり一つない家で、規則正しく、ありとあらゆる秩序を重んじて生きる 一人の女性。

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−ベラ・ブラウン。
この美しく、風変わりな人物について。

◼︎あらすじ

そんな彼女には「普通に」生きることは難しいんです。大嫌いなものは混沌、騒音、そして無秩序ー。
無秩序の権化といえば自然。特に植物は彼女の大敵!元来、人々の生活と共にあり、我々の心を和ませるはずの植物ですが…ベラには信じられない!

グリーンの壁紙で見事に統一され、家具や食器まで綺麗に整えられた彼女の部屋を一歩出るとそこは鬱蒼とした、完全に手入れのされていない荒れ放題の庭が広がっているのです。
ある日やってきた管理の事務員から「1ヶ月以内に庭をどうにかしないと退去させる」との命令が…その黒幕は隣人で大家の、頑固じじい・アルフィーでした。

そこからベラの庭づくり計画が始まります。

◼︎関係性の花

わたしは、ベラが、庭作業を通して初めて人と心を交わし、弱さを見せ、恋をし、恋に泣き、庭を完成させる過程で数々の「花」を咲かせているように見えました。その花たちを集めて新しい自分を見つけ、彩るように。

彼女が真剣に「苦手」と向き合う姿は、頑固じじい・アルフィー(実はお花大好き心豊かおじさん)の心に水を与え、二人の間には「師弟」のような、「孫と爺さん」のような豊かな関係の花が咲きます。

It’s a world of beautifully ordered chaos.                                                        ー美しい秩序を保った混沌の世界だ。(作中より アルフィー)

特にアルフィーが作り上げた、世界中の花々が集まった色鮮やかな英国式ガーデンを二人で歩くシーンは、色彩もBGMも逸材で、二人の「関係の花」が絶え間なく次々と開花していくように見えます。このシーンは、見ているだけで花の香りが鼻を掠めます。ほんとさ!

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これはただ富良野「風のガーデン」を訪れた日に撮ってみたお花です。
木春菊はなんというか「わたし花だよ!見て!」感がすごいですね。
雨上がりの水滴がちょっとポイントです。


彼女が隣人じじいのお手伝いシングルファーザー・ヴァーノンを初めてを家に入れ、彼の作る色鮮やかで健康的な朝食プレートを口にした時、小さな感動の花が咲いたような表情を見せます。

彼女が務める図書館で出会った、奇妙な若手発明家・ビリーと恋に落ちた時、穏やかな時間を過ごした時、そこには甘い香りの花が芽吹いたようでした。

彼女が自分を投影して描いた、「ある孤独な鳥ールナの絵本」を完成させた時、そして図書館の館長がそれを読んで微笑む時、そこにも感動の花の芽が弾けたような表情がありました。

人と関わり関係を気づく時、私たちとその人との間には見えない種があり、共に時間を過ごすなかで「花」を咲かせているのかもしれませんな。一瞬にして満開になる関係もあれば、時間をかけて開花する関係。水を与えないから枯れてしまった関係。支柱を立てて、曲がった茎を回復させた関係…

真の友情はゆっくり成長する植物である。友情と呼ぶにふさわしいところまで成長するには、度重なる危機にも耐え抜かねばならない。
ジョージ・ワシントン 

賛成?


そしてね。映画のなかでフォーカスしてるのはベラの「ビューティフル」な「ガーデン」そのものではなくだな、庭づくりの過程で関係性の花を咲かせていったベラという「人物」なのだと思います。

だからこそ。タイトルをこう解釈し、邦題としますのだ。

『この美しき風変わりについて』

ここで思い留まる筆者。
まてよ。
もしかして、「関係性の花の集合」としてのマイ・ビューティフルな「ガーデン」(ルー大柴?)なんじゃないか?

だったら、このタイトルってベリーとってもスータブルなんじゃ…?


◼︎花とひと、土とひと

まあ良い。

ところで、コロナウィルスの猛威のなか自粛を余儀なくされた大学3年生は、5月の母の日をきっかけにもう一度花や植物に対する自然な憧れやその美しさや可愛らしさへの愛慕を取り戻すことになりました。

毎年当たり障りのない贈り物をしてきたわたしですが、今年は何か特別な物を送ろうと決めまして。そうして見つけたのが『FLOWER』ーお花のサブスクです。2週間に1度ポストに届くブーケは、自分好みの物を選択でき、家に彩りが増えたとお花好きな母は喜んでくれています。わたしも花の名前を調べ、一輪一輪丁寧にカットし、ぴったり合う花瓶をセレクトして活ける時、今あるすべての雑念やダークな気持ち、不安感が一瞬晴れるような気がしています。

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    こんな         感じで         だな

ぽかんと花を眺めながら、人間も、本当によいところがある、と思った。花の美しさを見つけたのは人間だし、花を愛するのも人間だもの。
太宰治『女生徒』 

今度はオサムが綴っておるぞ。賛成?


◼︎おわりに…

なにが言いたいかって…
現在オンライン世界に生きる大学生の皆様。大好きな家族に仲間に、恋人に会えず枯れそうなになったら、植物を、花を育ててみるのも手かもしれません。そうして、愛情を注いでいるうちに、はっとするかも。人間関係だって、植物のようなもの。水をやらないと枯れちゃう。でも愛情を、友情を注いだら少しは長持ちするんだぜ。と、うちのパキラの鉢変えをしていたら、思いました。

ちょっと電話してみようかしら、遠くで暮らすわたしの兄。遠くで暮らすおばあちゃん。久しく連絡取ってない弓道部の先輩。疎遠になった小学校時代の親友…

ちなみに、以前からなんとなく、土いじりをすると心が軽くなる気がするな、と思っていたんですが、この度、科学的に土壌に生息するある細菌に、炎症・免疫・ストレスに対抗する成分が認められたんだそうなー!

Identification and characterization of a novel anti-inflammatory lipid isolated from Mycobacterium vaccae, a soil-derived bacterium with immunoregulatory and stress resilience properties
Springer link (22 May 2019)

◼︎関連映画

・『アメリ』(2001):This beautiful fantastic 監督Simon Aboudはこの映画で「現代版アメリ」を目指したそうな。このフランス映画はわたしもとっても大好きなのですが、アメリへの情熱をぜひ文章化していただきたい友人に記事をお願いしようともくろみ中です。

・『エタニティ 永遠の花たちへ』(2016): Éternité(仏)こちらもフランスの映画で、19世紀末を舞台にした歴史ロマンス。各所に登場する手入れのされた美しい庭の花々が印象的です。


おしまい

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