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歌舞伎町四天王と呼ばれた保坂さん すべてを手に入れた男の長いモラトリアム「これ以上麻雀が強くなる気がしない」


今は雀荘でときどき働いているだけ

 保坂さんを取材するのは3回目だ。

初めての取材のときは、山梨県でネット麻雀の天鳳を打ち込み、麻雀をするために歌舞伎町にやってきたいきさつなどを聞いた。2回目のときには保坂さんから「しゃべりたいことがある」と連絡があり、ポーカーを頑張っている話などを聞いた。この2件に関しては、竹書房からもうすぐ発売される書籍「ルポ 麻雀に狂った人たち」にも掲載されている。

今回は竹書房のほうから「最近どうですか?」と声をかけて、取材に応じてもらった。

ところが、第一声は

「話すことはあまりないですよ」

と、ずいぶん、テンションが低い。

麻雀の調子は? と聞くと

「勝ってますね。ここ半年くらいずっと勝ってます。もう負けることなんかないんじゃないかな」

麻雀打ちが麻雀を打って、その麻雀が強いというのに、なんでそんなにつまらなそうなのか。かえって面白い。

近況を聞きながら、何か私たちのような巷の麻雀愛好家にも役立つことを教えてもらえることを期待して、取材を続けることにした。

若くて女性にもてて麻雀が強くてお金もある

18歳くらいでホストクラブで働いていた時から常に女性にモテモテ。結婚も早かった。子供もできた。

「歌舞伎町で麻雀をしたい」と、妻子を置いて上京した後もすぐに同棲相手が見つかり、その相手は何人か変わったが絶え間はほとんどなかったという。

「でも、今は女性と暮らしてないです。こんな状況が初めてで、どうしていいのかよくわからないなりに、今は一人で暮らしています。ずっと家の中にだれか女の人がいたんですけど、やっと一人になって、34歳のときに生まれて初めて自分で洗濯しました」

新しい恋人は? と聞くと

「いらないですね。面倒くさいから」

とあっさり。

金銭的にはどうかというと、こちらも大丈夫。これまで麻雀とポーカーで稼いだお金があるからだ。お金というものは、ある程度まとまった額になると、なかなか減らない。「日常的に使う分くらいは日常的に入ってくる」というサイクルさえ作ってしまえば、生活は安定するものだ。

「一人で暮らしていくには全く困らないですね。お金を使うところがあまりないし、服なんかユニクロの安い服で十分ですし」

ちなみに、妻子にはずっと仕送りをしていたがすでに離婚。離婚後もちゃんと連絡は取り合っている。

「つい最近も、子供から『アマゾンのギフトカードが欲しい』って言われて買ってやりました。なんかスポーツですごく成績がいいみたいで、試合見に行ったりしてます」

と、離れて暮らしていても関係は良好だ。

現在36歳。

何か悩みは? と聞くと

「ないですね。あえて言えばストレスがなさ過ぎて『これでいいのかなあ』と時々思うくらい」

そういう保坂さんからは、覇気が伝わってこない。

普通の人が欲しがりそうなものをすべて持っている人が、なぜこんなにつまらなそうな顔をしているのか。こんなにつまらなそうな顔をしながら、なぜ口では「幸せです」と言うのか。

その暮らしにもう少し迫ってみよう。

雀荘では週2回くらい勤務 接客は特殊で居心地がいい

現在も歌舞伎町の雀荘で働いている。しかし、それは生活のための労働ではない。頼まれてしかたなく、という程度だ。

「働くのは週2回くらいです。本音を言うと、あまり出たくない。勤務は12時間がデフォルトですけど、早く帰れるときは帰らせてもらってます。

店自体は好きですよ。歌舞伎町の雀荘は高レートかが急速に進んでいて、自分も少し前までは祝儀牌がたくさん入っている店でも働いてましたけど、その店はやめました。

今いる店は、場所と客層がよくて落ち着いた感じです。自分は夜番の二人番のときに入ることが多いんですけど、牌を拭いたり掃除をしたりということもします。
本走に入ることが多いんですけど、歌舞伎町の雀荘で働く以上は打ちたい、という人もいるし。

今の店は年配のお客さんが多くて、もめごとが少ないので好きです。腕に覚えのある若者が鼻息荒く歌舞伎町にやって来て……ということはたまにあっても長続きせず、お金や気持ちに余裕のあるお客さんが残って、負けても笑って帰って行くという感じです」

歌舞伎町の雀荘というと鉄火場みたいなイメージがあったが、そうでもないようだ。

「雀荘はやっぱり、おじさんが多い店が、店として強いと思います。若い子は他に遊ぶ場がたくさんあっていろんなところに行ってしまうけど、おじさんはいろいろ経て雀荘に落ち着いてますからね。だからSNSでの集客なんかはあまり意味がないと思います」

保坂さんは、雀荘で店員として評判がいいらしい。

「子供の時から、なぜかずっと年上の人と話す機会が多かったですね。客の扱いがうまいのは天性のものかもしれません。雀荘で働いている人って、コミュニケーション能力が低い人が多いような気がするんです。でもお客さんは麻雀を打って勝ち負けだけじなくて、プラスアルファでお話もして会話を楽しみたい、という気持ちもあるんです。だから従業員の質は重要なんですよ。

じゃあ陽気な人が向いているのかというとそうでもないんです。

陽キャが好かれるとは限らないし、クソガキみたいな生意気な奴も嫌だし、あまりキッチリしすぎていても煙たがられるんです。

ほどよく頼りなくて、エラそうにしないのがいいんじゃないでしょうか」

保坂さんが歌舞伎町で麻雀をする理由は?

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