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二月公先生『声優ラジオのウラオモテ #01 夕陽とやすみは隠しきれない?』読書感想文

二年以内に成し遂げたい目標が二つあります。
一つ目は、年収1200万円になったあとで、年収1億2000万円になることです。
確かめてみたいんですよ。
ノーベル賞を受賞した心理学者であり行動経済学者でもあるダニエル・カーネマンさんの提唱した、年収による幸福度はおよそ800万円をピークにあとはどれだけ上昇してもほとんど変化はないという研究が真実かどうかを。
そんなわけないじゃないですか。
どう考えても1億あったほうがよりハッピーじゃないですか。
単純計算、年収800万円では800万円のものを一つ買っただけでもう生活費がなくなりますけど、年収1億あれば800万円のものを10個買ったとしても、まだ2000万円の余裕があります。
いくらなんでも例えが雑すぎるので、ちょっとリアルな話をしますと、私は年に何度かアップルウォッチを買いたい衝動にかられます。
それでも買ってない理由は金銭的な問題というより、そもそも別にほしくないからというものでして。
だけど無性にほしくなる、そういう日もあるのです。
しかし冷静に考えると、やっぱりそんなにほしくない。
だけど公式ホームページを確認したり、YouTubeで購入者のレビューを覗くことも少なくありません。
絶対ほしいわけじゃないけど、ときどきほしくなる、でも別にいらない、とはいえちょっとほしい、そんなアップルウォッチ。
個人的に時計は時間がわかればいいので所持しているのは、カシオのものをいくつかと、リッチモンド・ヴァレンタインがつけているやつと同じモデルのもの(これもカシオ製)と、スウォッチが一つと、私が人生で唯一のラッキーアイテムとしているMONDAINEの腕時計を一つ。以上です。これでじゅうぶん満たされています。というか、けっこう持ってますね。
それでもSNSなどでアップルウォッチに懐疑的だったけどつけてみたら人生変わった的な文言を目にすると、なんとなくゆらいでしまうのです。
でも無理です。年収800万円の私ではダメなのです。
アップルウォッチを買うには年収1億の私でなければならないのです。
(注:年収800万円の話をしているのに冒頭で年収1200万円ほしいとなっているのは、手取りで年収800万円になるためには税金の関係で1200万円稼ぐ必要があるからです)

アップルウォッチはおよそ4万円の買い物です。
年収800万円だと800-4=で、まあ700万ちょっと残ります。
700万円あれば生活に困らないと思われていることでしょう。
果たしてそうでしょうか?
私はアップルウォッチを必要としていません。
でもちょっとさわってみたいんです。
そして、ちょっとさわったら確実に二度とさわらなくなります。
持ち主から興味をなくされたアップルウォッチはどうすればいいのか?
簡単です。ともだちにプレゼントすればいいのです。
でも簡単ではありません。私にともだちはいません。
しかたないので、お金でともだちをつくるしかありません。
さあ、出費のはじまりはじまり。

例えば、あなたが出会って一週間くらいの、そこそこ気のあう相手からアップルウォッチをプレゼントされたら、その相手がスティーブ・ジョブズでもない限り、確実に警戒すると思うんですよ。
比較的高価なものですし。
一年でもまだ早い。
三年では……うーん、どうでしょう。
五年、十年、十五年──そしてついに二十年の月日が経ちました。
もう安心です。大丈夫です。
アップルウォッチをプレゼントしても許される絆はできました。
膨大な時間とお金をかけて、立派なともだちの完成です。
放課後、そのともだちに呼び出されて体育倉庫の裏にいってみると、ともだちはどこか照れた表情で小さな箱を私にプレゼントしてくれました。
ともだちは「開けてみて」と言います。
私は開けます。
中から出てきたのは──アップルウォッチ。
「お前に似合うと思って買ったんだ。よかったらつけてくれよ」
「ふざけるなよ!」私は叫びます。「俺がお前にアップルウォッチをプレゼントできる間柄になりたいから、長い時間と金をかけてお前をともだちにしたのに、お前が俺にアップルウォッチくれてどうすんだよ! 返せよ! 金はいらないから時間を返してくれよ!」
放課後の校庭のすみっこで、私の声がどこまでも響くのでした。
そして気づくのです。
そういうことだったのかと。
年収1億になってアップルウォッチを誰かにプレゼントできる立場になったというのに、なぜ私はこんなにもみじめなのでしょうか? これならアップルウォッチが買えるかどうかわからなかった年収800万円のままでよかった。
アップルウォッチに対して、妄想をふくらませていたころが一番幸せだったのです。
年収1億になってアップルウォッチとともだちを手に入れたというのに、年収1億になってしまったがためにアップルウォッチとともだちを失おうとしているのです。
なるほど、確かに年収800万も年収1億も大差ないのかもしれないな──
──という気持ちになれるかどうか確認したいので、とりあえず年収1億稼ぎたいのです。

いうまでもなく、上記の物語はただの想像です。
想像は楽しいものです。自由で、制限がありません。
しかし、だからこそ時に人はそれに苦しめられるのです。

2019年の話をしましょう。
その日、電撃小説大賞の受賞作が発表されました

第26回 電撃大賞 入選作品
大賞
「声優ラジオのウラオモテ」
二月 公(愛知県)

そのタイトルを目にした瞬間、わりと真面目に私はしばらく言葉を失いました。
明らかに声優を主題にした作品です。
やられた。
みなさんもご存知のとおり、私の人生の目標の第一位は電撃文庫で最高の声優小説を発表することじゃないですか。
ちなみに二位はアップルウォッチを買う、です。
それで電撃大賞に向けて声優さんの物語を考えていたのですが、まさか一足先にそれを達成する人があらわれるとは考えてもみませんでした。
しかも大賞。
つまり、電撃文庫で最高の声優小説を発表されたのです。やられた。
どうしましょうかと思ったものの、自分の作品に自信はあったので別のものを書くという発想にはならなかったのですが、ここで私の想像力が悪い方向に働きはじめました。
ネタかぶってたらどうしよう。
さすがにそうなってしまうと、新人賞に送るわけにはいきません。
さすがにかぶるようなアイデアではないと思いたいのですが、声優ものを書く人がいるとも思っていなかったので、わかりません。
それから少し時が経ち、作品のPVが発表されました。

食い入るように見つめます。
まあ、さすがに大丈夫ですよね……と思っていたら、あるポイントでリアルに悲鳴を上げてしまいます。
具体的にいうとこのあたり。

『おっさん顔の高校生』の部分を『おっさん声の女子高生』と空耳してしまい、本気でネタかぶったかと思いました。
だってほら私の書いたやつを要約すると、中年男性の声しか出せない女の子と、一日に十秒間しか声を出せない女の子が声優を目指す話じゃないですか。
いや本当に心臓が飛び出るかと思いました。
声優さんの物語をかくと決めたときから、全てではないにせよ、確認できる限りの声優を題材にした小説、漫画、アニメ、本職の声優さんの書かれたエッセイ、実用書、専門学校に通っている方のブログや生配信に片っ端から目を通して、それら全てから影響を受けて、そのどれにも該当しないものを提出しなければ、という意思だけはありました。
私もプリキュア声優のはしくれとして、そういう矜持はあったのです。
低糖質、高タンパク、ビタミン、鉄分、食物繊維も豊富でダイエットの強い味方、キュアオートミールこと私ですよ。
ちなみに声優ラジオのウラオモテの原作者、二月公先生を世界声優名鑑で調べてみたところ、二月公先生はラブライブ声優みたいです。

一曲聴いてください。
ラブライブ声優として二月公先生の同期である鬼頭明里さんの名曲
『23時の春雷少女』

ネタは被っていないとはいえPVだけではまだわかりません。
それに相手は最強の称号を持つものです。
後手にまわった者としては徹底的に研究するしかありません。
というわけで、発売日の配信開始30分前からブックウォーカーにF5アタックをかけて、配信開始と同時にダウンロードして読み込みます。
面白いな──くそ。
一方的にライバル視している作品に対して、とりあえず私は相手の悪いところを探すようにできているのですが、これといったそれがない。
声優を題材にした作品を片っ端から読みあさったと書きましたが、完成度、独創性において、頭一つ抜けてるんですよね、声優ラジオのウラオモテは。
これはちょっと先の話になるのですが、新刊でるたびに面白さが増していくんですよ。
特に私の場合は、二巻で明確にこの作品のファンになったので、三巻以降は普通にただ楽しんでる傾向が強いです。

ともあれ、少なくともネタかぶりはしていないという点においては安心できました。
なぜ当時の私はあそこまでネタ被りへの不安に襲われていたのでしょうか。
近い事例として、何ヶ月か前に健康診断受けたんですよ。
普段はそんなことないんですけど、なぜか今回に限り、異様なほど結果に対する不安があったんですね。
これといった思いあたるふしがあったわけでもないのに。
何かよくないことがあるんじゃないかなと。
いつもより寝覚めが悪かったり、逆に快適な目覚めだったことも、何かの悪い兆候なのではないかと。
本屋さんにいって、ふと視界に入った20代~40代だからといって油断しないで、若くてもなるかもしれない不具合一覧みたいな雑誌の見出しが自分に対する警告に思えてしかたない。
ちょっと前に寝ることも起きることもできないくらいハードな自律神経失調症にかかって楽な死に方をググってたのも今や昔。気づけば深夜まで映画、読書、ゲームを同時進行する日々。
今さら反省してどうにかなるものなのか。
そして結果発表の通知が到着。
ずらりと並ぶ、異常なし、異常なし、異常なし、問題なし、問題なし、問題なしの文字列。
メタボやら何やらの不安も心配もなし。
確認するや否や、肉の食べ放題に繰り出し、帰りにクリームたっぷりの菓子パンをかじってました。
健康最高。

深夜読書といえば、ここ最近毎晩、声優ラジオのウラオモテを読み返しているのですが、深夜って現実と妄想の境界がよく曖昧になるじゃないですか。
ある夜、このシーンってアニメだとどういうふうに表現されてたんだっけ? と気になってDVD棚を確認したけど見あたらない。
ああそうか、ディスクはまだ発売してなかったかと、Netflixで『声優ラジオのウラオモテ』で検索したけど出てこない。
あれNetflixでは配信してないんだっけとニコニコ動画で調べても見つからない。
そこでやっとアニメ自体はじまっていないことに気づく。
でもだったら、私の頭で再生されたあのシーンは何だったというのでしょう。
夕姫とやすみは確かに動いてたよな? そうだろ?
なんだよ、その目は。やめろ、はなせ、もうあそこには戻らないぞ!
信じてくれ、俺は確かにこの目で見たんだよ! 声優ラジオのウラオモテのアニメを!

一曲聴いてください。
ラブライブ声優として二月公先生と同期である楠木ともりさんの名曲
『ハミダシモノ』


二月公先生のインタビューです。
作品で知り、人柄に惹かれてファンになる──。
これを読むと二月公先生は人気声優、桜並木乙女さんのような方だということがわかります。

一方的な敵対心からはじまったのですが、最早普通に好きという感情しかわいてこないのが困ったところです。
本とゲームに関しては、ちょっとでも気になるとすぐに買ってはいるのですが、新刊が発表されると思わずガッツポーズになる作品との出会いというのは、希有な気がします。
声優ラジオのウラオモテはそのなかの一つです。

おくればせながら私も声優の物語を書いたので、それでデビューして、デビュー作の帯に夕暮夕陽さんと歌種やすみさんからコメントをいただけること、それが成し遂げたいもう一つの目標です。



結果発表

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自力でこれ以上は無理という領域まで鍛え上げました。
もう一度だけ、挑ませてください。


おめでとうございます!


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