君の絵-4

1,
 videoはとっくに終わっていた。
 陽が斜めになっているから午後3時は過ぎているのだろう。
 全部見た記憶はないが、彼に関する記憶は十分に蘇ってきた。
 僕は確かに昨日送別会があり今は自由の身、ということになる。
 自分の妻は随分前に亡くなってしまっていたから今はひとり、そういう意味でも自由だ。
 "Photographer"のvideoを作った時に、彼が語っていた場所の説明を細かく書いていたNoteが残っていた。それは一つ一つの写真に対しての日にち・場所・時間帯が細かく記載されたものだった。ただし場所に関しては細かい住所が書かれているわけでもなく、いまの時代のような正確なmapのマーキングではないのではっきりとはわからない。
 と言いながらもNoteを見ながら当時を思い出すことは楽しかった。あの時いた仲間の表情まで思い出されるのだから人間の記憶ってすごいなー、と僕は思った。
 試しに1枚の写真の場所をGoogleMapで検索して見ることにした。場所は福島。峠の名前を入れ検索していくと写真に写っているような景色が見えてきた。写真では道路は未舗装だったが、この峠道は今は舗装されている。少しづつ角度を変え彼が撮影した景色を探していく。この写真には自動販売機が左端に写っていた。丁寧に検索していくと、それは、あった。
検索する角度を少し変えその写真のようにアングルを決めて見ると、いまの時代のその場所が現れてきた。そこにはまるで彼がいまでもいるかのような錯覚にさせてくれる。
 いまの時代map上には緯度・経度がはっきり示される。僕はこの情報を一枚づつ作ることにした。仕事もないので十分に時間は、ある。
 "Photographer"のvideoで扱われている写真は25枚。僕はこの25枚の場所を見つけるべく当時のmemoと照らし合わせながら全ての場所を探し出すことにした。
2,
 BGMはもちろんスティーリー・ダンだ。いまかかているのはAja。ここに写っている女の人は山口小夜子さん。僕は40代の頃友人のeventで彼女と出会い、当時小夜子さんは音とパフォーマンスにこだわった作品作りをしており僕は音響関係として参加させてもらっていた。
 そんな記憶も思い出しつつ写真の場所の特定作業を続けていく。
 この作業なかなか時間がかかることがやっていて気づき始めた。1日に写真1枚特定できるかというとそうでもなく、最初に選んだ写真は割と簡単に特定できたが、その後は困難を極めていた。
 すでに10日ほど経っていた。
 当時の写真に写っていた森が全くなくなっているものもあったし、あるはずの橋が何かの関係で流されてしまっていたりもした。場合によっては全く特定できないところも出てきたのだ。記憶違いなのかmemoが違っているのかはわからない。
 そんな感じで全ての写真を検索し終えたのは30日後、会社を辞めて1ヶ月だった。
 問題は、ここまでして自分は何をしたいのか、ということだ。
 きっかけは送別会の時に偶然あった後輩の一言”彼のこと、覚えてます?”だった。そして当時の記憶で彼が言っていたことは”そのうちにわかるんじゃない?”の意味、、、、これって何かの啓示か。彼のわかるんじゃない?の意味は何だろう?この1ヶ月写真の場所を検索したことって一体何なのだろう。僕はしばらく考えることにした。


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