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美人だが、痩せすぎな上司。

注意事項
この小説には、痩せた女性が登場します。ただし、もしあなたがご自身のことをスレンダーフェチ、貧乳フェチ、あるいは一般的な意味合いにおけるガリガリフェチだと認識しておられるなら、即座にブラウザバックされることをおすすめいたします。ここに登場するのは、そんな人々の想像を遥かに超えて痩せた女性です。耐性のない方だと、吐き気、めまい、頭痛などの症状が出るかもしれません。ただしあなたが、真のガリガリフェチであると胸に手を当てて言えるならーここに着た人の殆どは当てはまらないのではないかと思いますーここをお通りください。きっと楽しんでいただけると思います。



では、準備はよろしいですか?『犠牲者』が出ないことを祈ります。


美人だが、痩せすぎな上司。 文・絵 ボーンズ




「しほさん、やっぱタイツ姿似合ってますよ!」

 

「どこがよ、こんなの恥ずかしいって。」

 

エレベータの扉が開いて、二人の女性職員が話ながら出てきた。一人は小柄で茶色い髪をポニーテールにした、俺の同期入社の宮本めい。もう一人は、黒髪を肩にかからないくらいの長さで切りそろえた、長身で蜘蛛のように細くて長い手足の、クールな印象の林田しほ先輩だ。二人ともタイプは違うが、社内では美人と評判だ。特に俺の直属の上司のしほ先輩は、ハッとするほどの美人で、会社の外を歩いていると、三人中二人は彼女を二度見するくらいだ。

 

「やっぱ、だめよ、こんなの。戻してこないと。」

 

「絶対だめです!せっかく持ってきたんだから、せめて一日これでいてください!」

 

「あなたが勝手に持ってきたんじゃない。」

 

「だって、しほさんいつもパンツスタイルじゃないですか!せっかくきれいな足してるんだから見せないと!」

 

「きれいな足って、こんな骨ばった足…」

 

俺はエレベータの脇にある自販機のそばでコーヒーを飲みながら、聞くともなしに二人の話を聞いていた。しほ先輩は、一見無口なイメージがあるが、話しかけられれば誰とでもコミュニケーションをとる。しかも相手との会話を楽しんでいるようにさえ見える。

 

「うらやましいですよ、そんなに細くて長い脚。」

 

しほ先輩は片足立ちになって、脚を外側に曲げ、うーん、という顔をする。確かに、しほ先輩の膝の位置は、ヒールを履いている宮本のそれよりはるかに高いところにあった。

 

「とにかく、今日だけだからね。」

 

「みんなに感想聞いて、まわりますね?それで評判良かったら、採用でお願いします!」

 

「ちょっと!!それだけはやめて!」

 

二人は自販機の前まで来た。

 

「私、ミルクティー!」

 

「あら、なんで、財布を出さないのかしら?」

 

「えへへ」

 

「はー、仕方ないわね。」

 

先輩は自動販売機に300円を入れると、ブラックコーヒーとミルクティーを買った。

 

「ありがとうございます!」

 

と宮本。しほ先輩が俺の存在に気づく。まずい!

 

「ねえ、藤木くん。例の報告書できた?」

 

やはりそのことか・・・。

 

「あっすいません、今日中にはできると思います。」

 

先輩は形の良い眉を寄せる。もー、まったく、という顔だ。先輩が最もよく俺に見せる表情のうちのひとつ。

 

「3時までに終わらして。他にもやってもらうことあるんだから。」

 

それだけ言うと、先輩は長い脚を存分に使った、大きな歩幅で持ち場に戻って行った。そう、先輩は有能で、誰とでも分け隔てなく接する。でも・・・・俺にだけはちょっと厳しい。

 

宮本が俺の隣の壁に寄りかかって話しかけてくる。こいつはなんというか、全てにおいて芝居がかっているようなやつだ。声の出し方から、ちょっとした動き方にまで、いちいち神経が通っている。でも、だからといって、こちらが緊張して話し辛いということはない。むしろ慣れてしまえば、他の人より話しやすいくらいだ。俺との関係性において、人間をカテゴライズするなら、こいつには、女性の中で唯一、友達のタグをつけるかもしれない。

 

「宮本、よくしほ先輩と仲良くできるな。」

 

「えー、普通にいい人じゃん。」

 

「いや、こえーよ。」

 

「どこが笑」

 

「俺も仲良くしてー。」

 

「え、何、藤木くんしほさん狙ってんの?」

 

「んなわけ。」

 

「だよねー、ぜんぜん釣り合わない。」

 

「るせー!」

 

「まあ、でも、しほさん、恋愛経験自体は少なそうだし、アタックしたら意外といけちゃうかもよ?」

 

「直属の上司だぞ!?」

 

「わかんないよー?藤木くん、顔はいいんだし。」

 

宮本はくすくす笑っている。ポーニーテールにした明るい髪がふわふわと揺れる。その仕草もどこかのテレビドラマで見たことあるような感じだ。

 

「無理無理。宮本の方こそ、結構もてるんじゃないの?」

 

「さーねー。」

 

「しほ先輩よりはモテるだろ?」

 

「なんでもしほさんに結びつけすぎ笑 まあでも、それはあるかも。美人すぎると自分がいけるなんて思えないもんね。しほさん、隙がなさすぎるよ。私とか隙だらけだもん。」

 

「隙があるなし以前に、あんだけ痩せてたら、誰も付き合わないだろうな。」

 

「いや、ひどすぎ笑 え、藤木くんはスレンダーとぽっちゃりだったらどっち?」

 

「その二択だったら迷わずスレンダーだけど、しほ先輩はスレンダーとかじゃないだろ。」

 

「うん、まあそうだね。スレンダー超えちゃってるよね。」

 

「超えすぎだろ。」

 

「いやいや、笑 直接言ったりしちゃだめだよ?先輩、確かに自虐的に自分のことノッポとか、ガリガリとかって言うことあるけど、実は結構本気で悩んでるっぽいし?」

 

「あー、一緒に営業言った時、取引先にそれにしても細くて心配ですよ、って言われて、ご心配おかけしてすいません、昔から肉がつきにくくて。でも、健康なんでだいじょうぶですよ~ってにこやかに返してたな。なんかもう、言い慣れたフレーズって感じだったな。」

 

「豊胸ブラつけてるしね。」

 

「そんなの分かるの?」

 

「え、分かんないの?やっぱそうなんだ、男からはわからないんだ。地下のジムとかも結構行ってるみたいだし。」

 

「ああ、ほとんど誰も使ってないあのジム?」

 

「そう、ほぼ毎日いってるんじゃないかな、でも、何もしてない私より全然筋肉ないの笑。全然効果出てないじゃないですか~!って言うと、うーんって顔するの。」

 

宮本は先輩のものまねをした。

 

「めちゃめちゃいじってるじゃん。仲よすぎだろ。」

 

「でね、実際のところ、ジム通い始めてから体重ちょっとでも増えたんですか?って聞いたんだよ。先輩みたいなタイプはジムとか行っても痩せちゃうだけなんじゃないかって。」

 

「ああ、分かるわ笑」

 

「そしたら、難しい顔して、でもまあ、筋力はついてきてるわ。って。かけられる負荷は徐々に増えてるっていうの。」

 

「体重減ってるってこと?」

 

「まあ、そこは濁されるんだけど、そうだろうね。」

 

「俺の肉ちょっと分けて上げたいわ笑」

 

「でも、しほさんの言い分では、今は体に筋肉を増やさないとまずいぞって伝えている段階らしいのよ。今の環境で生き残るためには筋量を増やさないとまずいぞ、と。現状は、筋肉が少ない状態で運動しようとしているから、パワーの不足を補うために、体が脂肪とか筋肉を分解してエネルギーに使ってしまっている。だから、今一時的に体重が減ってしまうのは仕方なくて、体が筋肉を増やすことに同意してくれたらどんどん太っていくはずだって。」

 

「それって、運動を始めたての人の話だろ?しほ先輩、どれくらいやってんの?」

 

「5年はやってると思う。あと、そうだ、楽観的な予測をしたら、一応悲観的にも考える、というのが、しほさんのポリシーらしいの。それで、バランスを取るっていうか。」

 

「それが仕事で成果を出すコツだったり?」

 

「あるいはそうかもね。で、しほさんの悲観的予測がね、パワーを日常的に出しすぎて、体質が変わっちゃったっていうもの。」

 

「どういうこと?」

 

「しほさん、トレーニングでかなり追い込んでるらしいのよ。それもほぼ毎日。ふつうの人の精神力ではとても無理ってくらいにね。しほさんの言葉を借りるなら、火事場の馬鹿力を意図的に毎日出す感覚、ってことらしいのよ。」

 

「そこまで真剣に筋トレしてあれかよ笑」

 

「いやいや笑。で、限界を超えるような運動を行おうとすると、身体が瞬時にエネルギーを筋肉に送り込む。それは、あくまで緊急の反応。でも、その時のエネルギー源は、即効性のある血中とかにあるエネルギーだから、いちいち脂肪を分解しているわけじゃない。」

 

「良かったじゃん。脂肪だったら痩せちゃうわけだし。」

 

「それがそうでもないのよ。毎日その緊急のエネルギー補給をしていると、身体がそもそもエネルギーをいつでも取り出せるように血中とかに溜め込もうとするようになるらしいのよ。すぐに取り出せる方の貯蔵庫に栄養を詰め込もうとするってわけ。」

 

「それはいいことなんじゃないの?」

 

「全然。そのせいで、食事から吸収した栄養が、全部、すぐに取り出せるほうの貯蔵庫に行っちゃうってこと。長期保存のほう、つまり、脂肪のほうに栄養がいかなくなっちゃうのよ。」

 

「そんな話、聞いたこと無いけど。」

 

「それは毎日火事場の馬鹿力を出せる精神力を持った人がほとんどいないのと、筋肉が付きやすい体質の人は、どんどん筋肉がつくから、火事場の馬鹿力じゃなくなっていくの。」

 

「よくわかんないな。」

 

「マウスの実験であったのよ。そういうのが。筋委縮症で筋肉がつけられないマウスに、脳頭蓋直流刺激装置で無理やりやる気を与えて、普通だったら絶対やらない負荷の運動をむりやりさせたのよ。そしたら、それらのマウスは脂肪がつかなくなったの。そして、やる気のスイッチを切って、運動を止めさせてからもその体質は元に戻ることはなかった。それは不可逆的な変化だったわけよ。」

 

「それで、そのマウスはどうなったの?」

 

「脂肪に栄養を蓄えられない体質になったおかげで、どんどん痩せて死んじゃったわ。食べ物からの栄養を数時間おきに取り続けて、血中の糖の濃度を一定以上に保つ必要が出てきたけど、それは簡単なことではなくてね。」

 

「いやー笑、悲観的なシナリオ、悲観的すぎない?つまり、筋肉が極端につきにくい体質のしほ先輩が毎日限界を超えるトレーニングをしたせいで、脂肪がつかない身体になっちゃって、これからはどう頑張っても太れないってことだろ?笑」

 

「うん、まあ、そもそもマウスの実験だし、これに関しては追試も行われていないから、そんなに真剣には考えてない、って言ってたけどね、しほ先輩。」

 

「というか、あのしほ先輩がそこまで人に赤裸々に話したってのが信じられないわ。」

 

「そう?」

 

「俺、あの人のプライベート、ほとんど何も知らないし。独身であることは知ってるけど。」

 

「藤木くん、本当に狙ってないでしょうね??」

 

「ねーって!あんなおっかない人!!」

 

「だから、全然怖くないでしょ笑」

 

「宮本は本当コミュ力高いよな。」

 

彼女は腕を組んで、ヒールの付いた靴のかかとをトントンと地面におろしていた。

 

「まあ、単に俺とは話が合わないと思われてるだけかもな。周りはみんな優秀だけど、俺、馬鹿だし。」

 

「まあ、君はゴリゴリのコネ入社だもんね。」

 

「悪いか?大体、お前らもちょっと勉強できただけじゃねえか!」

 

宮本はまたクスクス笑っている。

 

「悪いとは言ってないじゃん。それにしほさんも、藤木くんだけコネ入社したから強く当たってる、というようには見えないな。」

 

「いやいや、あのバカにしたような目つき。食らったものにしかわからねえんだよな。」

 

「直属の部下だから、自分がちゃんと育てないと、って思ってるだけだと思うよ?藤木くん、頑張ってるからついつい甘くしちゃうって嘆いてたし。」

 

「あれのどこが甘いんだよ!」

 

どうやら、宮本は俺に好意を抱いているらしい。会社の近くのカフェで、宮本がしほ先輩に相談しているところを盗み聞きしてしまったのだ。しほ先輩はそれ以来、何かと俺らを二人きりにしようとしてくる。率直に言って、宮本は全然俺の好みではないし、性欲も湧かない。だが、特に直接アプローチされたわけではないのに断るのもおかしな話で、どうしようもできずにいる。

 

 

自分のデスクに戻ると、隣の席ではしほ先輩が、人間とは思えない速度でキーボードを打っていた。骨ばった長い指でほとんど音を立てずにブラインドタッチを続ける。先輩はほとんどマウスを使わない。マウス無しでどうやってパソコンを操作できるのか、俺には理解不能だが、先輩によると、マウスによる操作は、より時間が掛かる上に料金も高い電車に乗るようなものらしい。それに関しては賛否ありそうな気もするが、とにかくこれだけは言える。背筋を伸ばしてキーボードを叩く先輩の姿はいくら見てても飽きないということだ。そこには、人間が本来生きていくために必要であるにも関わらず、希少で高価であるがゆえに、慢性的に不足している栄養素を摂取した時の喜びのようなものがあった。それにしても、今日はいつにもまして打鍵が早いような気がする。動画を1.5倍速で再生しているようだ。いつもクールな先輩の顔にも、少し焦りのような表情がうかがえる。なんとなく不吉なものを感じた俺は先輩のパソコンの画面を覗き込む。俺が一週間かけて作った資料だ。脇汗がにじむのが分かる。

 

「それ・・・俺が担当した・・・」

 

「うん、ちょっと訂正するところがあって。」

 

先輩はモニターから顔を上げずに、周りの社員に聞こえないように小さい声で答える。どうやら、そのミスは致命的なもので、一から作り直すしかないらしい。俺はまたやってしまったようだ。

 

「本当、すいません。」

 

社員の一人が責めるような視線をこちらに一瞬向けたのがわかった。今までは、先輩がうまく俺の無能さを隠してくれていたのだが、最近徐々にそのことが周りに露見しつつあった。後で知った話だが、俺と宮本がだべっている間に、先輩は資料の欠陥に気が付き、先輩の上司に資料の締め切りを守れない可能性があることを報告したらしい。その上司が、オフィス中に聞こえる声量で、「また藤木かよ」とため息をついたのに対し、しほ先輩は一見中立的に思える視点から巧妙に俺をかばってくれた。だが、先輩が俺を庇えば庇うほど、オフィスにはしほ先輩に同情するような空気がながれ、藤木は林田におんぶに抱っこだな、としほ先輩の上司は他の社員の声を代表するようにぼやいた。もともとしほ先輩は社員にかなり好かれていた。女性社員からも、超絶美女であるにも関わらず、(このようなケースにおいてはかなり珍しいことに)ほとんど嫉妬を受けずにすんでいたのだ。そこには彼女が常軌を逸して痩せていたことも影響していそうだ。それは、一種の愛嬌のようになっていた。

 

「私の指示の仕方が悪かったのよ。前提となる部分の説明を端折るべきではなかった。これは私がやるから、藤木くんはさっさとその報告書仕上げちゃって。」

 

「はい・・・。」

 

本当に、申し訳ない・・・。

 

 

俺たちが作業を終えたのは23時だった。オフィスは、俺と先輩のデスクの上にだけ電気が付いていた。結局しほ先輩は、俺が一週間かけてやった作業を半日もかけずに終わらせてしまったのだ。

 

「本当すみません。また俺のせいで残業になっちゃって。」

 

「別に藤木くんのせいではないわ。それに、結局期限には間に合ったじゃない。」

 

「いや、本当に超人ですね。正直、先輩一人でやった方が早いですよね。俺なんて、足引っ張ってばっかりで・・・。」

 

「何言ってんのよ、藤木くんは頑張ってるじゃない、経験が浅いうちはだれだってミスするわよ。」

 

「先輩、なんか今日優しいですね。」

 

「何よ、いつも優しいじゃない。笑」

 

「いや・・・まあ、なんだかんだ言って、そうかも・・・」

 

「でしょ?むしろ甘やかしすぎかも。」

 

「それはないです!」

 

「そう?」

 

「でも、俺が無能だと、上司のしほ先輩の評価も下がっちゃいそうで・・・って宮本が言ってました。」

 

「別に誰も藤木くんのこと無能だなんて思ってないわよ。」

 

しほさんは俺の背中をぽんぽんと叩いた。本当に今日はやけに優しい。

 

「それは宮本さんの勘違いだわ。」

 

「でも、いつも迷惑ばっかかけて、すいません。」

 

「だから、それはいいって、私も入社してすぐの頃は、〇〇さんに迷惑かけまくったわ。」

 

「いや、〇〇さんに聞いたんですけど、しほさん、最優秀社員賞を一年目から取ったって・・・」

 

「私はなんとなく有能そうに見せるのがうまいのよ。それだけ。」

 

先輩はオフィスチェアから立ち上がって、伸びをしながら言った。骨盤も形が見え、スタイルの良さが強調される。足が長いせいで、立ち上がると、急に背が高くなったように見える。以前二人で営業に出かけた時も、俺がトイレから戻ると、二人の男に話しかけられていた。先輩は照れ隠しなのか、道を聞かれていただけよ、といったが、明らかに雑誌モデルのスカウトをされていた。男たちは俺がその会話内容がぎりぎり聞こえないくらいの距離まで近づいたあたりで去っていった。おそらく先輩の中で、そういうシチュエーションに効率的に対処するノウハウがすでに確立されているのだろう。じゃあ、その名刺はなんなんですか?スタバの割引券よ。お礼にもらったの。ちょっと見せてください。絶対嫌。

 

「それに、藤木くんも、いいとことあるじゃん。」

 

先輩は腕を組み、脚をクロスさせる。動作の一つ一つが絵になる。

 

「え?どこですか。」

 

「いっぱいあるよ。例えば、素直なところとか。」

 

「素直?」

 

「うん、あとは、まあ、ガタイとか?笑」

 

先輩は、俺の右肩を軽くもんだ。

 

「あ、セクハラですよ、今の。」

 

「ごめんごめん、」

 

といって、また先輩は俺の腕を細い指で触った。ひと仕事終えて、気が大きくなっているようだ。

 

「だいたい、なんですか、がたいって。そんなの長所でもなんでもないですよ。」

 

「えー私は羨ましいけどなー。私、ガリガリだし。」

 

「まあ、そうですね。」

 

俺は椅子を回転させて、立ち姿の先輩と向かい合い、まじまじと先輩を眺めながら答えた。

 

「ちょっと、否定しなさいよ!笑 一応上司よ?」

 

「だって、ガリガリじゃないですか。」

 

「あのねぇ?? 忘れてるかもしれないけど、私、上司である以前に、女でもあるのよ?」

 

「いや、マジでガリガリですよね。」

 

「まあ、確かに宮本さんみたいに女の子、って感じではないけど・・・」

 

「何キロくらいあるんですか?」

 

「あの・・・藤木くん?分かってる?女性に体重聞くのって、」

 

「それ、重いから言いたくないんですよね、先輩軽いでしょ。」

 

「まあ、確かに私みたいなおばさんがもったいぶっても痛いだけかもしれないけど。」

 

「全然おばさんじゃないですよ。まだ33じゃないですか。」

 

「あら、よく覚えていてくれたわね。」

 

「で、何キロなんですか?」

 

「・・・え?本当に聞いているの?」

 

先輩は俺の目を真っ直ぐ見つめて聞いてくる。

 

「はい。心配になるくらい細いですよ。まあ、身長あるので、そこまで壊滅的に軽いってことはないと思いますが。」

 

「何、心配してくれていたの?笑 だったらもっと仕事頑張って私の分量減らしてくれる?笑」

 

「みんな言ってますよ。細すぎるって。」

 

「あらそう、それは申し訳ないわね。」

 

「何がですか?」

 

「いやだって、まあ確かに、世の中はルッキズムを批判する方向に進んでるように見えるわ。でもそれは人間に美しいものを賛美する目があることの裏返し。美しい人を見て快感を感じるなら、醜い人を見てその逆の感情が出るのも当然でしょ、私のせいではないとしても、やっぱ、申し訳ないわ。」

 

「そんな、醜いなんて・・・。」

 

「ごめんね、めんどくさいこと言って。忘れて。」

 

「みんな心配してるだけですよ。」

 

しばらく重い沈黙がある。

 

「で、何キロなんですか?」

 

「ちょっと、しつこいよ、そんなに気になる?」

 

「はい。今日は先輩の体重聞くまで帰りません。」

 

「え、困るよ。そんな、」

 

「身長は173の俺よりちょっと低いくらいですよね。」

 

「え、私175だよ。」

 

「俺より高いんですか?嘘だ」

 

「何、痩せてるから小さく見えるとでも言いたいわけ?」

 

「いや、本当ですか?」

 

俺は椅子から立ち上がって、先輩と向かい合う。至近距離で見つめ合うと、ドキドキした。

 

「ほら、私のほうが高いじゃん。笑」

 

しほ先輩は俺の頭をポンポン叩いた。

 

「先輩、ほんと細いですね…」

 

俺はまた椅子に座った。

 

「なんでまた細さの方に話がいくのよ!今身長の話してたよね!」

 

「まあ、175だったら、40切ってるみたいな極端なことにはなってないか・・・」

 

「え、いや、」

 

先輩は、少しよろつく。

 

「でも、60は絶対なさそうだし、50切ってても・・・」

 

「あの、いや、宮本さんには絶対言わないでね?騒がれそうだし。」

 

「教えてくれるんですか!?」

 

「だって、言うまで帰らないんでしょ?」

 

「じゃあ、50キロ以下?」

 

「え、うん。じゃあの意味がよくわかんないけど。そうね。」

 

「ってことは、40キロ台か・・・やばいな」

 

「え、いや、あの・・・」

 

「我が社の至宝、ブレーンが40キロ台って・・・」

 

「ブレーンってそんな、私は末端の、じゃなくって・・」

 

「45キロとか?攻めすぎ?」

 

「いや、」

 

「違うか、48?違う?まさか、前半?42キロとか?」

 

「えっと・・・40キロ台じゃない・・・かな」

 

先輩は恐る恐る言う。

 

「え??50キロ以下で、40キロ台じゃないってことは・・・」

 

「驚きすぎだって笑」

 

「だって、しほ先輩、175センチなんですよね。」

 

「うん笑」

 

「やばいっすね・・・」

 

「あのね、これでもコンプレックスなんだからね?宮本さんみたいにふっくらしてたらどれだけ良かったか。」

 

「先輩、今日、正直ですね。」

 

俺は先輩を改めて、頭からつま先まで見直した。30キロ台と聞くと、より痩せて見えた。

 

「ちょっと、そんなにジロジロ見ないで、はいはい、わかりました、ガリガリですよ。」

 

と言って、先輩は、観念するように両手を広げた。

 

「いや、ガリガリすぎます。聞いたことないですよ、175センチなのに30キロ台なんて。」

 

「え?あ、いや、」

 

「ちゃんと食べてますか?」

 

「うん、食べてはいるけど。じゃなくて、」

 

「やばいですね。俺の半分くらいか笑 うそじゃないですよね?嘘だったら・・・」

 

「えっと・・・嘘とかじゃなくて、30キロ台とは言ってないかな・・・?」

 

先輩の顔がどんどん赤くなっていくのが分かる。

 

「え?どう言うことですか?50キロ以下なんですよね?」

 

「うん。」

 

「で、40キロ台でもないと。」

 

「うん。」

 

「まあ、ここまでは、異常なことではありますが、一応筋は通ってる。」

 

「で、30キロ台でもない。」

 

「そこです、それだと、筋が通らなくないですか?」

 

「ねえ!からかってる?」

 

「いや、俺には何が何だか・・・」

 

「もう!だから、20キロ台だって言ってんの!!」

 

先輩は地面を踏み鳴らしながら言った。

 

「え??」

 

「こんなこと自分で言いたくないんだけど!」

 

「え、どう言うことですか、20キロ台って?だって175センチなんですよね?」

 

「どうもこうも、そのままだって、私は25キロなの!」

 

「ごめんなさい、先輩の話難しくてついていけません、え、どう言う意味ですか?」

 

「何がよ、めちゃくちゃシンプルじゃない!私は痩せてるから、175センチなのに、25キロしかないの!!何度も言わせないで!!」

 

「いや、ごめんなさい、凡人にもわかるように、境界知能の俺にもわかるように、噛み砕いて説明してもらっていいですか?」

 

「これ以上何を説明するの!」

 

「・・・・マジですか?」

 

「うん、もう、熱くなっちゃった、こんなこと、言わせないでよね。まあ、そう言うことだから・・・って何放心してるの?」

 

先輩は火照った顔を両手でパタパタと扇いでいた。

 

「いえ・・・」

 

「ごめん、熱くなっちゃったね、気にしてるの私だけかもしれないよね。」

 

「いえ・・・」

 

「ちょっと、待って、藤木くん・・・それ・・・」

 

先輩は右手で自分の口を抑え、左手で、俺のお腹あたりを指さしていた。

 

「え?なんですか?」

 

「あ、ごめん、なんでもない。じゃ、私、ジム寄って帰るね?」

 

「え、今からですか?」

 

「こう言うのは習慣だから、それに藤木くんにドン引きされて悔しいから、ちょっとは筋肉つけないと。ちょっとモチベになった!じゃあ、お疲れ様!戸締りよろしくね!」

 

・・・・・・・・・

・・・・・・・・・

 

え、まって藤木くん、股間膨らんでなかった?エレベータを降りながらしほは思う。何に対して?私に?いや、それはない。だって、男性ってふくよかな女性が好きなんだよね。妊娠可能性が一番高くて、しかも安産が見込めるのが、BMI22あたり。私の身長で言うと、65キログラムくらい。生物として、とても理にかなっている。うん。

それに、自身の経験に照らし合わせて考えても、人は極端に痩せた人間に性的な興味を抱くことは殆どない、というのは妥当な推論のように彼女には思えた。男性とセクシーな雰囲気になって、これから本番、というシチュエーションで、服を一着ずつ脱いでいくと、男性の大きくなっていたあそこがだんだん萎んでいくのだ。そういう時、彼らは決まって「あ、いや」と情けなく笑う。そんなの聞いてませんよ、とでも言いたげに。彼女も涙が零れそうになるのを必死にこらえて、「そうですよね~」と言いながら、自分で服を着ていく。熱烈にアプローチしてくる男性ほど、その傾向が強かった。そして、年齢を重ねて体重が減るに従って、それは顕著になっていった。中には礼儀的に、無理やり勃起を維持している紳士的な男性もいたが、痩せた身体を見せたあとでは、明らかに熱意のレベルが数段落ちた。それを感じると、彼女自身の興奮も急速に冷めた。そういう経験を経るうちに、(当然のことながら)彼女は女性としての自信を失っていき、セックスへの興味も薄れていった。30代になってからは一度もしていない。恋愛に発展しそうなことがあっても、(異性にー時に同性にー興味を持たれる機会は決して少なくなかった)自ら心に壁を築き、意識的に関係を前に進めないようにした。そのせいで、周りの人間には冷たい印象を持たれ、以前と比べて人と打ち解けるのが難しくなった。それでもそれは、自らの精神を守るために必要なことだった。恋愛や性愛は自分には縁のないこと。世の中は娯楽に溢れている。そう思うことにした。

再び、思考を藤木の股間の記憶に戻す。そもそも、と彼女は思う。男性が勃起しているからと言って必ずしもそこに性的興奮が伴う訳ではない。彼は今日8時に出社したから、彼の神経は15時間くらい緊張状態にあった。そこでさっきやっと緊張が解けて、副交換神経優位の状態になった。それで勃起してしまったのだ。

一方で、彼女は自分自身に言う。なぜあなたは彼の勃起の原因まで庇わなければならないの?と。でも彼女は直感的にわかっていた。それは自己防衛のためだ。彼に肉体が反応してその気になってしまったら、最終的に傷つくのは私の心。ならば、その前に、自分の興味を削いでしまわなくてはならない。そのためには、彼の興奮が偽りである必要がある。もし本物なら・・・でもそれはあくまで深層意識のモノローグだ。この時点での彼女の意識はそこまで気付いていない。あるいは気づかないふりをしている。

 それでも、彼について考えすぎている、ということだけは分かる。さっきの膨らんだ陰部の映像を必死に頭から追い払おうとする。しかしそれは簡単なことではない。彼女は混乱する。こんなふうに、自分の精神をうまくコントロールできないのは彼女にとっては珍しいことだった。頭をぶんぶん振る。何を考えているの??藤木くんは、手塩にかけて育てている、かわいい部下じゃない。それに宮本さんのことだってある。私は彼女に相談を受けているのだ。藤木くんと付き合うにはどうすればいいかと。彼女は私を信用してそのことを打ち明けてくれたのだ。そして、第一に、私は彼らがカップルになることを心から応援している。二人は同期で、それぞれ魅力的で、しかも美男美女。とてもお似合いのカップル。そこに邪魔が入ってはならない。その邪魔者に、他でもない私がなろうって??

しかし、どれだけ彼の陰部の映像を追い払おうと思っても、ますますそれは強まっていった。そして、身体の芯がどんどん熱を持ち始めているのを見て見ぬふりするのは、もうほとんど限界だった。そして、彼女はその日トレーニングを途中で諦めた。身体に全く力が入らなかったのだ。そんなことは彼女には初めてのことだった。

 

・・・

・・・

 

先輩が出ていったあと、俺はしばらく何も考えられない状態が続いた。オフィスチェアにだらしなく座り、ぼんやりと天井を見ていたが、正確には何も見ていなかった。とうとうしほ先輩の体重を聞いてしまった。25キログラム。俺は65キロだから、半分もない。身長は俺と変わらないのに。そんな体で、毎日、会社の誰よりも働いてくれている。だから、少しでも先輩の足を引っ張らないように頑張るのだが、それもうまくいかない。俺の分も先輩一人でやった方が早いんだけど、それでも俺に仕事を振ってくれる。多分俺のためだ。長期的に見ればその方が会社のためになるから、というのが先輩の言い訳なのだが。

 

そんなことをぼんやり考えているうちに、また陰茎が立ち始めているのに気づく。軽くしごこうとベルトを外してパンツを少し下げる。パンツの締付の中で、折れ曲がった形で大きくなっていたそれは、空間的な制約がなくなると、すぐにもとあるべき一本の棒の形に姿を変えた。それは、かごの扉を開けてもらい、大空に飛び立っていく鳥のように喜ばしげに見えた。こんな完璧な勃起、久しぶりに見たな、と思う。陰毛のあたりに垂れた精子が溜まっていた。さっき話しているときに、勝手に精液がニュルっと出て来たのだ。何度かまた射精して、しばらくまた宙を見つめた後、俺はベルトをして荷物を持ってエレベータに乗った。

 

こんな短時間で4回も射精したのは初めてだったが、まだまだ精液が溜まっている気がした。おそらく、あのタイツのせいだ、と思う。先輩はいつもパンツスタイルなのだが、今日ははじめてタイツスタイルだった。それは、普段完璧な先輩のスーツ姿にいささかのバランスの悪さを与えていた。本来スーツは標準体型の人間をもっとも魅力的なフォルムに見せるように作られている。その細すぎる足は、想定される標準的な人間のスタイルからは大きく外れているのだ。確かに、俺が先輩だったとしても、体型さえ標準だったら、と思うかもしれないな。あの細さは控えめに言っても、誰もがはいそうですか、と簡単に受け入れられるものではない。

 

でも、俺はその足に見入ってしまった。先輩の細すぎる足では、タイツの生地がかなり余っているようだったが、それでも、隣の席に座っていると、先輩の骨ばった足の形が黒い布を通して透けて見えた。宮本のやつが無理やり履かせたらしいが、あいつだってたまにはいい仕事をする。そのせいで、俺の大きな一対の睾丸は一日中精子を製造し続ける羽目になった。俺の脳みそは仕事をサボっていたが、睾丸の方はきっちりとその役目を全うしていたのだ。そんなことを考えていると、また勃起し始めた。

 

・・・・

・・・・

 

 

 

地下にあるジムに行くと、すでに電気が消えていた。彼女はもう帰ってしまったのだろうか。入り口も施錠されている。だが、隣の更衣室には明かりが灯っていた。どうやらギリギリ間に合ったようだ。いや、何にだろう。もう、ほとんど頭は働いていなかった。そして、何を思ったのか、俺は吸い寄せられるように女子更衣室に入っていった。勘違いしないでいただきたいのだが、俺は普段からこんなことをしているわけではない。その日は頭が変になっていたんだ。

 

女子更衣室に入ると、のっぽなスチールの棚が右側の壁に沿ってずらりと並んでいた。左側の壁は洗面台と鏡が2セットある。俺以外に誰もいない。奥のシャワー室から、水が地面を打つ音が聞こえる。先輩はシャワー中というわけだ。俺はスチール棚の扉を一つづつ、手前にあるものから順に開けていった。さっきも言ったが、この時のおれの行動の動機をいちいち尋ねないでもらいたい。俺自身、あとから思い出しても、なんでこんなことをしたのか、一つも理解出来ないのだ。ただ起こったことを順番に羅列するのが俺のできることの全てだ。

 

一番奥の棚に先輩の荷物が入っていた。鍵までは掛けられていなかったが、中はかなり整頓されていた。なんでシャワーを浴びるだけなのにわざわざこんなにきちんと整理しなければいけないのか俺には理解不能だが、これが性格というものだろう。扉のハンガーにスーツが掛けられ、底のほうに鞄が置かれ、中段の板の上にこれからつけるであろう下着が畳んで置いてあった。ブラには宮本の言う通り、分厚いパッドがたくさん入っていた。鞄を開けると、小さなスポーツバッグがあり、中には今まで着ていたであろうスポーツウェアが入っていた。俺はそのバッグの中に顔を突っ込み、中の空気を思いっきり吸い込んだ。香水や汗や洗剤の匂いが入り混じった、素晴らしい匂いがした。しほ先輩だけが発することのできる香りだ。ただ、いつもより汗の匂いの比率が高く、人によっては初めてこの匂いを嗅いだ時、臭いと感じるかも知れない。だが、俺は一番好きな香りを聞かれたら、迷わずこの匂いを答えに選ぶだろう。

その袋を後ろに放り投げ、下着の匂いも嗅ぐ。こちらはしっとりと湿っており、さっきのスポーツウェアより色々な香りが混じっている気がした。少しの尿の匂いや股がかく汗の匂いなんかも混じっている。一言で要約すれば、恥ずかしい匂い、ということが出来るだろう。おそらく、先輩からすると、もっとも人に嗅がれたくないもののひとつかもしれない。だが、俺はその柔らかい布を鼻から離すことができない。あの嘘みたいに細い足や股をこの薄い布が包んでいるのだ。あれだけ痩せていたら、足の付根にも相当スジが浮いているにちがいない。その痛々しいまでに痩せた恥部をこの柔らかい布が包んでいるのだ。そう考えるとまた勃起し始めていた。俺は全身の服を脱ぎ散らかした。振り返って洗面台についた鏡を見ると、ペニスは自分のものとは思えないほど激しく屹立し、我慢汁でテカテカに光っていた。さっきから急で激しい勃起を繰り返しているせいで、少し裏筋がヒリヒリしていた。俺は、そのまま先輩のパンツを裏筋にこすりつけ、パンツの中に思いっきり射精したいという衝動を必死に抑える。正直、少し触れただけで大量の精子がニュルニュルと飛び出てきそうだった。爆発寸前のダイナマイトを抱えたまま、俺はシャワー室へ扉を開けた。

 

シャワー室は右側に3つのシャワーブースが並んでいて、左には小さくて汚い浴槽があった。浴槽には水は張られていない。一番奥のブースからシャワーの音がする。と、突然シャワーの音が止まった。人の気配に気づいたのだろう。先輩も息を殺しているのが分かる。変質者が現れたと思っているのかもしれない。俺も入口で思わず足を止める。

 

「俺ですよ、俺」

 

と声をかけてみる。興奮して喉が乾いているせいか、最初うまく声が出なかった。

 

「え?藤木くん?」

 

先輩の柔らかい声が反響する。

 

「はい。」

 

「あー、良かった、誰かと思った。なんだ、藤木くんか笑」

 

安堵の響きがその声から感じられる。女子シャワー室に男が一人侵入してきたという状況を異常だと認識できていないようだ。今の先輩は、冷静な判断力を失っているのかもしれない。

 

「え、というか藤木くんどうしたの?なにか仕事のトラブルでもあった?」

 

まず俺がここに入ってきたことを突っ込むべきなのに、ピントのずれた質問をしてくる。おそらく、変質者が入ってきたと思ったときに、相当心拍数が上がったのだろう。それが俺だとわかった事による安堵のための、一時的な論理性の欠如、といったところか。しかし、彼女が徐々に本来の冷静さを取り戻しつつあるのがその話し方から伝わってきた。

 

「いやー、こんな時間に女性が一人で帰るのって危険かなって思って。」

 

数秒の沈黙がある。先輩が今どんな顔をしているのか見てみたいと思う。だが、ここからはあいにく何も見えない。しほ先輩はいったい何を考えているんだろう。ブースの上からは白い湯気のようなものがモワモワと上がっている。(この時しほが考えたいた事はこうだ。私を待ちたいなら、外で待てばいいのに、なんで中まで…いや、私が出てくるまで待ってから、私に断られたら彼の時間は無駄になる。そのシチュエーションになれば私も、今断れば、ここで待っててくれた彼に無駄な時間を過ごさせたことになる、と思うだろう。だから、一緒に帰ることを選択する確率は上がる。それはフェアじゃないってことかしら。意外に彼、公正なところがあるのね。女子更衣室に入ってきたのは規則に反するけど、そこまで気を回してくれたんだし、今回は不問に付すことにしましょうか。これは彼女の思考の本道を通っていたものではなく、ふわっと思考の端を一瞬かすめた考えにすぎない。だから、こういう批判は彼女には酷かもしれないが、しほの考えは見当外れだったと言うほか無いだろう。彼女は藤木という男をほとんど理解していなかった。彼は強い性欲に突き動かされていただけなのだから。)

 

「え、何急にどうしたの?いつも一人で帰ってるし、これくらいの時間になることも全然あるけど。」

 

先輩の柔らかい声が反響する。しほ先輩の口調には、またさっきとは違う種類の緊張感が混じり出した。

 

「いやー、急に先輩がかわいく思えてきてしまって。」

 

かなり長い沈黙がある。頑張って返事を考えているのが伝わってくる。

 

「わ、私も女だってことを、思い出したわけね?さっき私に言われて。」

 

先輩は自虐的に返す。

 

「ま、そんな感じです。」

 

「でも、本当に大丈夫よ、お気遣いありがとう。私、徒歩圏内だから。」

 

「いえ、このまま返すわけにはいきませんよ。今日は絶対うちまで送ります。」

 

「もしかして、さっきのミスのことまだ気にしてるの?」

 

「・・・いえ」

 

「何?笑 そんなのいいよ、部下の教育も私の仕事なんだから。あれは私の指示が不明瞭だったせいでもあるんだから。」

 

彼女はいつもの上司と部下の会話にもどすことで、落ち着こうとしていた。この異様な状況を打破しようと無意識が彼女にそうさせていた。

 

「本当、送りますよ」

 

「いいよ、気持ちだけ受け取っておく、藤木くんも早くしないと終電無くなっちゃうんじゃない?」

 

「そんなのどうだっていいですよ!」

 

俺は叫ぶ。思ったより大きな声がでた。

 

「え?」

 

「そっちいっていいですか?」

 

「え、いや、本当に送ってくれるつもりなら、外で待ってて、すぐ服着るから」

 

「今いったらダメですか?」

 

「ダメっていうか、ごめん、今私すっぽんぽんなんだ。」

 

「そんなことくらい知ってますよ、」

 

先輩の受け答えはやはり変だ。シャワー中だから裸なのはあたりまえ。いつもの先輩ならこんなちぐはぐな返答はしない。

 

「いや、だって、え?」

 

「僕だけ服を着ていて、先輩だけ裸だから不公平だって言いたいんでしょう?」

 

「え?いや、その不公平とかじゃなくてさ、」

 

「それなら、安心してください、僕もすっぽんぽんです!!」

 

しばらく間があく。

 

「は?」

 

「ええ、すっぽんぽんです!おそろいのコーデですね!」

 

「ねえ、もう冗談はよして?私のことを家まで届けたいって思ってくれてるなら、もうそうすればい。好きにしなさい。でも、とにかく、早く外に出て。私、ここから出られないじゃん。」

 

「別にいいじゃないですか、」

 

「いや、だって、」

 

「どうせ、ガリガリなんだし!」

 

「ねえ、私上司よ?笑」

 

「25キロなんですよね?ガリガリじゃないですか!」

 

「ねえ、怒るよ?」

 

先輩は怒るというよりは、実際には焦っているのが声から伝わってくる。表情が見えないのに相手の考えがこんなに伝わってくるのが不思議だ。いや、むしろ声だけだからだろうか。

 

「先輩、仕事のこと以外では怒らないですよね?俺、気づいてますよ。」

 

「何?私の裸でもみたいわけ?」

 

彼女はなんとか笑いながら言う。

 

「え、いいんですか!!」

 

「冗談に決まってるでしょうが!私、あなたの上司よ?評価下げられたら、とか思わないわけ?」

 

「わかってますよ、先輩そんなことで評価下げないでしょ?そのくらい僕にもわかりますよ。」

 

「ねえ、ホントに無理だって!!」

 

しほは、もうほとんど冷静さを失っていた。

 

「いいじゃないですか、どうせガリガリなんだし!」

 

「確かに、私の体にそこまでもったいぶる価値なんてないかもしれなわ。それに、私が男性社員に裸を見られた、なんて訴えでたらとんだお笑い草よ。あら、林田さんはセクシーで大変ね、なんて皮肉を投げられるのが関の山よ。それは藤木くんの言う通りだわ。認める。」

 

「いや、だれもそんなこと・・・」

 

「でもね、もし藤木くんが、興味本位でガリガリな体を見てみたいっていうんなら、毎日それを見てる専門家の立場で言わせてもらうけど、おすすめ出来かねるわ。少しもエッチなところなんてないし、最悪トラウマになるわよ、絶対後悔する。」

 

「大丈夫ですよ!」

 

「ねえ、お願い、早くそこから出て。あなたにみて欲しくないの、わかって。」

 

「大丈夫ですよ、僕も脱いでますから。」

 

「ねえ、本当に見られたくないの。コンプレックスなんだってば!」

 

「痩せすぎがですか?」

 

「そうよ!私、本当にすごく痩せてるのよ、数字だけじゃうまく想像できないと思うけど。」

 

「知ってますよ」

 

「だから、あなたが思ってるよりも痩せてるんだって!」

 

「気にしませんって」

 

「もう、早くそこをどいて!本当に見られたくないんだってば!この際だから正直に白状するわ。私は自分のことをそこそこハイスペックな人間だって思ってる!学校の成績は優秀だったし、いい大学も出てる。仕事にも熱心で手を抜けない性格だし、顔も美人って言ってもらえることが多い。腰の位置だって高いし、肌のトラブルも少ない。それで近寄ってくる人間も正直少なくはないわ。でもね、私の痩せたからだを見ると、みんな一気に興味をなくすのよ!男だろうと女だろうと関係ない。極端に痩せた体は、否応なしに、その個体が弱く無意味な存在であることを人々に印象付ける。私への興味を失った人たちは、だんだんと舐めた態度を取り始める。でも、舐められるだけならまだマシな方。私が本当に我慢ならないのは、何をしていても、哀れみの目でしか見られなくなってしまうということよ!そういうの、あなたにわかる!?」

 

彼女はこれだけのことを一息に言ってしまった。

 

「今までの私の人生経験を鑑みるに、藤木くんも私のことを尊敬してくれているのはわかるわ。私の勘違いだったら謝るけど。」

 

「いえ、尊敬していますよ。」

 

「ありがと、でもね、私の体を見たらそうはいかない。これはなにもあなたが差別主義者だって非難してるんじゃない。それは、生き物として自然な反応なのよ。お願い、これは、後輩にはまだまだいいかっこしたいっていう私の単なるエゴよ。お願い、早くそこから・・」

 

俺は先輩が入っているブースの前まで行き、カーテンをさっと開けた。



 

えっ。俺は言葉に詰まってしまった。

 

「ごめんなさい、ごめんなさい…」

 

先輩は何故かしきりに謝っていた。中にはタオルなどの身体を隠せるものがなかった。

 

「ね、わかったでしょ。ね、ほらだから、お願いだから、外に行って、」

 

先輩は目を瞑って、体を少しでも隠そうとしているのか、体を色々な方向にくねくねしていた。その度に、身体中のすじがビクビク動くのがわかった。いつもはクールで誰よりも頼りになる先輩が、ミスをしても大丈夫だと、絶対の安心感を与えてくれる先輩が、とても頼りなく見えた。彼女は俺が今までみた誰よりも痩せていた。

 

「ねぇ、お願いだから、これ以上私をいじめないで、・・・」

 

「え、ちょっと・・」

 

俺はようやく、言葉を発する。

 

「ごめんね、落胆させて、お願いだから…」

 

「ガリッガリじゃないですか。」

 

俺は掠れた小さな声でそう呟く。

 

「ねえ、これで分かったでしょ?だから、お願い、もうこっち見ないで…」

 

先輩は、ようやく目を開けて俺の顔をちらっと見た。

 

「ねえ、お願い、これ以上私をいじめないで・・・」

 

と俺を両手で押してきた。その時、先輩は顔を下に向けた。俺の立ち上がったペニスの真ん前に先輩の目があった。

急に先輩は俺の体から離れた。

 

「ちょっと、何これ?」

 

「何って、ちんこじゃないですかね。」

 

先輩に見つめられた俺のペニスは、何故かさらに大きくなった。

 

「ええ!?」

 

俺は二歩、先輩に近づく。

 

「ちょっと、これ、まずいよ、藤木くん、こんなの。」

 

「まずいのは先輩じゃないですか・・・こんなガリッガリで・・・」

 

俺は先輩のわきのしたに手を挟んで、体側に沿って手をゆっくり下に滑らせた。肋骨の起伏に合わせて、指が浮いたり沈んだりした。

 

「ねえ、藤木くん、恥ずかしいよ、そんなに見ないで・・・」

 

「可愛いですよ、しほ先輩。でも、流石にまずいんじゃないですか、こんなに痩せちゃったら・・・」

 

「わかってるよ、ねえ、なんで、どんどんおっきくなってる・・・」

 

「だって、こんな体・・・痩せすぎなんてレベルじゃ・・・・・・」

 

俺は両手で先輩のウエストに手を回す。両掌にすっぽりとおさまってしまった。

 

「細すぎですよ・・・」

 

「ねえ、やめて・・・恥ずかしいよ・・・」

 

「やめないです・・・」

 

ほぼ直角にそそり立った陰茎はその亀頭を先輩の恥骨あたりに触れさせていた。

 

「先輩、確かに骨盤の位置高いですね、さっき自分で言ってましたけど。」

 

「うん、ねえ、これすごく熱い。まずいよ、こんなの」

 

「自分でどければいいじゃないですか。」

 

「ダメだよ、こんなところで・・・間違ってる・・・」

 

「もう場所の問題だけなんですね?」

 

「え、だって、そもそも私、君の上司だよ?分かってる?いま、上司に無理やり・・・」

 

「先輩、好きです。」

 

俺は先輩に口付けをした。数回に分けて、軽く触れる程度のから、だんだん舌を入れていった。先輩も舌を絡ませてきた。その動作は不慣れな感じこそしたものの、率直な性欲に任せた本能的で自然な動きだった。

俺は左手で、先輩の胴体を支え、右手で先輩の乳首の周りを撫でた。左手にはゴツゴツとした背骨の感触があった。

 

「こんなガリガリでごめんね・・・」

 

背骨の感触に俺が引いたと思ったのか、先輩は囁く。

 

「そんなこと言わないでください。」

 

先輩はキスしながら、俺のペニスを両手で掴んだ。その太さに一瞬怯んだように見えたが、右手を睾丸の付け根あたりにあて、左手で陰茎本体を掴み、ゆっくりと動かし始めた。ペニスはすでに我慢汁でツルツルになっていた。先輩の冷たい手は、中手骨が手のひらから浮き出ているせいで、余計に裏筋を刺激した。

 

「あ、ちょっと、やめてください、イキそうです。」

 

俺はそっと先輩の手を、ペニスから離す。

 

「入れていいですか?」

 

「入るかな、そんな大きいの・・・」

 

俺は先輩の胴体を掴んでそっと背面を向かせる。まず、指を入れてみる。

 

「ちょっと、ヌルヌルじゃないですか・・・」

 

先輩は、恥ずかしそうに頬や耳を真っ赤にそめ、口元を押さえている。シャワーの水のせいで最初よくわからなかったが、愛液は彼女の太ももの内側まで垂れ出てきていて、また全体をべったり濡らしていた。

 

「入れますね。」

 

彼女はコクリと頷いて、向こう側の壁に手をつき、両膝を曲げて、陰道口の位置を下げた。お尻が突き出したことによって、骨盤の形がよりくっきり浮かび上がった。尾てい骨や、その周りの筋肉をゆっくりと撫でる。

 

「先輩、ほんとガリッガリですね・・・」

 

「やめてよ・・・」

 

「すごく可愛いです。」

 

よくこんな体で毎日働いてるもんだ、と労る気持ちで、お尻にキスする。

 

「先輩、知ってました?」

 

「?」

 

「お尻って、人間の体の中で、一番痩せにくい部位なんですよ。それでこんだけ骨が見えるのって、ほんとガリガリなんですね」

 

「ねえ、」

 

「後で体脂肪率とか測りましょうね、ジム行って。」

 

先輩は右手で自分のクリトリスのあたりをいじっていた。

 

「じゃあ、入れますね。痛かったら言ってくださいね。」

 

コクリ。まずは亀頭の先を陰道口の中に少しだけ入れる。ものすごく熱くなっている。時間をかけてゆっくりと半分ほどを入れ終わる。意外にも、ものすごく強い締め付けだ。

 

「んっっっ!」

 

彼女は口おおさえて喉の方で声を出した。

 

「大丈夫ですか?痛くないですか?」

 

「うん、おっきいね。」

 

俺は残りの部分を入れた。根本が入りきらなかったが、亀頭がポルチオに到達した感触があった。一応入ったようだ。それをなじませるために、しばらく時間をおく。

 

「すごいキツキツですね。」

 

「ねえ、」

 

と指か何かで、ペニスを触られる感触がある。

 

「こっちから触れるんだけど・・・」

 

なんと彼女の骨盤の前部には俺のペニスの形がくっきりと浮き出ていた。彼女はお腹の側から、分厚い布の上からペニスを触る要領で俺のペニスを触っていた。

 

「おっきすぎだよ、ほんと、」

 

「いや、先輩が痩せすぎてるんですよ。先輩、マジで痩せすぎですよ。大丈夫ですか?」

 

「心配してる人の硬さじゃないよね、これ。」

 

いや、信じてもらえないかもしれないが、この瞬間、俺は本気で心配したんだ。それに、陰茎の上面ははっきりと背骨の硬さを感じていた。本当にこんな体で大丈夫なんだろうか。

 

「ちょっと、動かしますね。」

 

少し動かすだけで、イキそうだったが、すぐに出してしまっては情けないと思い、必死に我慢していた。

 

「ダメです、もう出ます・・・」

 

「うん、、いいよ。」

 

俺はゆっくりと出し入れした。彼女は俺の陰茎の動きに呼応させて、お腹の上からも、さらに指で効果的に圧力を加えて、膣圧をかつてないものにまで高めていた。手コキとセンズリを同時に受けているようなものだ。それに、それを実行するのが、しほ先輩だなんて!

 

 俺はありったけの精子を中に出してしまった。陰茎や、陰道、睾丸、全体が熱を持って、精子を絞り出すことに全力を出していることがわかった。腰を振るたびに、体の深淵から性液がどんどんと無尽蔵に送られてきた。ビュッ、ビュッという、周期が十回は繰り返され、その一回一回でとんでもない量の性液が移動しているのがわかった。最後にはかなり乱雑に腰を振ってしまっていたと思う。陰茎の周りの肉が、彼女の尾てい骨に何度も当たって後でヒリヒリと痛んだからだ。どうやら、彼女も、俺の性液のポンプの周期が八回目あたりに突入したころに、オーガズムに達していたらしい。俺が陰茎を抜き取ると、彼女は全身を痙攣させて、自立できない状態になっていた。俺は、彼女をゆっくりと床に座らせ、俺もその隣に腰を下ろした。だが、ふと思い直して、彼女を俺の上に座らせた。ここのアスファルトの床では、彼女の骨だらけの体には痛いだろうと思ったからだ。その姿勢になると、代わりに俺の腰に彼女の骨が刺さって痛かった。だが、彼女の代わりに俺がその痛みを引き受けているんだと思うと嬉しくなった。彼女の陰道からは、ドロドロと、あり得ない量の性液が流れ続けていた。彼女はまだ身体全体をビクビクと痙攣させている。あまりの快楽に顔を歪め、安定しない身体を動かしている。俺等はそれから、永遠とも思える時間、そこに座り込んでいた。







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