高強度放射電磁界(HIRF)の証明に関する証明フロー


1.背景

過去記事で、HIRFの証明に関する概要的な投稿をいくつかしてきましたが、今後の投稿においては既存の航空機に適用されてきたHIRFの要件だけでなく小型飛行機のHIRF/Lightningに対して特別に適用されるPS(Policy Statement),
PS ACE 23-10や欧州が設定したeVTOLのspecial conditionに関するHIRF/Lightningについても取り上げていきたいと考えています。必要に応じて参照されるASTMに関する要求などの紹介も含めていきたいと考えています。

PS ACE 23-10やeVTOLのMOC或いはASTMは、簡潔に記述されているのですが、それらの文書からだけではHIRF全体の証明を想像するには情報不足です。これだけ簡潔な文章体系となっている背景は、従来の証明方法からの相違点のみが記載されているからです。

今回の投稿では、将来的に記載する予定の準備投稿として、現在適用されているMOCであるAC20-158Aの証明フローを紹介したいと思います。

2.証明方法の詳細が記載されているドキュメント

HIRFの法定要求は、過去記事に紹介してきた14 CFR part 2X.1317などですが、この要求に対するMOCは、AC20-158Aです。型式証明では、AC20-158Aだけでは情報不足なので、次のドキュメントが主に使用されます。(補足:エンジンは別にあります。)

  • 航空機レベルの証明:SAE ARP 5583A

  • 装備品レベルの証明:RTCA DO160 sec.20

上記に示した2つのドキュメントがHIRFの証明のほぼ全てであり、これを前提とした場合には、PS ACE 23-10やeVTOLのMOC或いはASTMの内容が、それらの技術要求の延長線上にあることが理解できるはずです。しかしながら、SAE ARP 5583AやDO160 sec.20に記載されている内容は非常に難解であることから、FAAが提供するアドバイザリーマテリアルであるAC20-158Aに記載されている証明フローについて紹介したいと思います。

参考
FAAは、最近、AC20-158Aの改訂を狙ってOpen commentを募集していましたが本記事を執筆している2022年9月の段階でもまだAC20-158Bの発行はされていません。

3.AC20-158Aに記載される証明フロー

AC20-158Aに記載される2つのフローのうち、本投稿ではレベルAシステムに関する証明に使用されるfig.1について紹介致します。原文にアクセスすて頂き、Figure.1と以下の記述を対比してご覧ください。

参照先
https://www.faa.gov/documentLibrary/media/Advisory_Circular/AC_20-158A.pdf


STEP1,System Safety Assessment 

航空機レベルの安全性解析(AC23.1309-1E、AC25.1309()又はSAE ARP4754/4761)を活用して、レベルAの機能を特定するステップ。言い換えるとその機能を失った時に航空機レベルでCatastrophicとなる機能を実行する電子機器や電子システムを特定する活動。普通の言葉でいうと、航空機が飛行する上で必須となる機能を実行する電子機器、システムを特定すると活動。より詳細については過去記事を参照してください。

補足

  • レベルB/Cに分類される機能しか持っていない電子機器に場合には、FAA AC20-158AのFig.2のフローが適用となります。

  • レベルD/Eに区分される電子機器、システムの場合には、証明は一切存在しない。

STEP2, Define Aircraft and System HIRF Protection

レベルAの機能を実行する電子機器、システムに使用される保護機能の特定。ここで言うプロテクションには、窓ガラスなどに使用される導電性ガスケット等の電磁シールドや電気配線のシールド線などが対象です。こうしたプロテクションを特定する目的は、航空機の運用期間全体(おおよそ30年)を通じて、そのプロテクションが経年により劣化しないことを保証する活動が要求されているからです。この活動はProtection Assurance PLanと呼称される経年劣化を特別に監視するプログラムを指し、TC Holderにその要求が課されることになります。

補足
一般の飛行機のオペレーターが使用するInstructions for Continued Airworthinessとは異なり、監視対象機は非常に制限されるもので、PAPの結果が思わしくない場合はICAにおけるメンテナンスが強化されたり、場合によっては設計変更なども想定されます。

3.STEP,Select System Assessment

システムアセスメントとはSTEP1で特定されたレベルAシステムを統合した統合システムのHIRFによる感受性の評価を、試験又は類似性の評価のいずれの方法により証明を行うのかを問われています。
ここで言う選択肢の一つである類似性による評価方法とはSimilalityと呼ばれる過去の証明資産を活用して証明を行う方法で過去の証明との類似性を示すことができればコストのかかる試験証明を回避することができます。

STEP4,Equipment Test

AC20-158Aでは、この機器試験をoptionとしています。このため機器試験(DO160 sec.20)の実施の選択は申請者側の判断となります。

航空機に搭載される電子機器、システムでレベルAの機能を実施する全ての電子機器、システムが、個々の機器単体或いは個々のシステム単体でHIRFに対して感受性がないこと証明するのではなく、それらの機器、システムを連接した状態で、つまり統合システムの状態でHIRFに対して感受性がないこと示す必要があるのですが、この時、統合システムの一部を構成する単体のレベルA機器やシステムに対して機器レベルの試験であるDO160 sec.20の試験を統合システム試験を実数する前に必ずしも実施する必要がないとFAAは述べているのです。しかしながら単体試験でfailする場合は、統合システム試験においてもFailするので、このSTEP4をバイパスするのは極めて高リスクであり、一般には統合システム試験の前までに機器レベルの試験が成功裏に完了しているのが普通です。

STEP5, Integrated System Test

統合システム試験。HIRFの証明において最も困難な試験で、前述のように単体のレベルA機器やシステムを複数接続した状態で試験を行う。航空機の全体システムは巨大であるため、統合システム試験もある程度の数に分割されるもののそれでも評価対象の統合システムは巨大な構成となる。しかも、この評価対象の統合システムは、純粋なレベルA機器やシステムからだけで構成されるものではなく、より低レベルの機器、システムも連接される必要が出てきます。この理由は、レベルBやレベルC等の機能の喪失がレベルAの機能に悪影響をもたらす可能性があるからとされています。

また、この統合システムに対して適用する試験レベルは、Internal HIRF environmentで規定される電界強度や電流レベルでHIRFに対する感受性が試験評価されます。ここで述べたinternal HIRF environmentとはDO160 sec20で規定される幾つかのカテゴリを指しています。例えばcategory WFのような表記となります。このinternal HIRF environmentで規定されるどのカテゴリで統合システム試験を実施するのが良いのかは難しい判断で、あまりに低レベルで試験して合格させても意味はありませんし、かと言って過剰な試験レベルで評価しても無駄になるだけです。つまり、統合システムの評価は仮のHIRFレベルでとりあえず中間的な評価するようなものです。仮の試験レベルが適正であったかどうかは、後述するSTEP13において最終的に判定されるからです。

STEP6, System Similarity Assessment

類似性評価。これは、航空機を改修するような場合で、既存システムを新システムに変更するような場合を想定したもので、類似性を緻密に評価することによって行われる。一般にその適用の判断は難しいものとなります。

STEP7, Select Aircraft Assessment

航空機レベルのHIRFの評価をどのように行うのかの選択。航空機レベルのHIRFの評価には3つの手法がありますが、何もその目的は同じで、external HIRF environmentで規定されるHIRFを機体外部から照射し機体内部に配置されたレベルA機器、システムの配線インターフェースにどれだけのHIRFが誘導されるのかを測定する試験となります。

この航空機レベルで実施された試験は、実際に外部からHIRFを照射した時(つまりexternal HIRF environment)にどれだけのHIRFがレベルA機器、システムの配線インターフェースに誘導されたのかを示す絶対的な値となり、STEP5で実施した統合システム試験の仮レベルの試験が適正であったかどうがをSTEP13で評価される手順になっています。

STEP8, Aircraft Test Decision

航空機レベルの証明で機内のレベルAの配線インターフェースに誘導されるHIRFの誘導レベルを確定する上で試験実証を行うと申請者が判断した場合において、高レベル試験と低レベル試験の2つの選択肢が申請者にはあり、何を選択するのかを問われます。

STEP9, Aircraft High-Level Tests

航空機レベルの証明を試験証明すると申請者が判断した場合の選択肢の一つである高レベル試験。この試験は、文字通りの高レベル試験を行うもので、HIRF規則のAPppendixに規定される試験レベルで証明を行うもの。概念的には単純であるものの、オープンフィールドでそのような試験を実施するのはFCC的にも難しい。一般に小型機に対して適用されることがある。チャンバー内で試験できる程度の超小型の航空機の場合は、この証明は有力な選択となり得る可能性があります。

STEP.10, Aircraft Low-Level Coupling Tests

STEP9に対するもう一つ別のアプローチで、低レベル試験の選択がある。型式証明では通常はこの方法が用いられる。モダンな証明は全てこの方法であり、Amendmen TCを行うような改修が発生する場合に有利。

STEP11,Generic Transfer Functions / Attenuation

航空機の機内に配置されたレベルAシステムの配線インターフェースに誘導されるHIRFを解析的に導出する方法。レベルAシステムの中でも特にLevel A Display syatemに分類される機器にはGeneric transfer function等を用いて誘導レベルを決定して良いとするもの。

この方法によるメリットは試験が不要となる点。一方、Genericカーブを使う感点から正確性に欠ける点や過剰要求になる傾向も否定できない。普通に試験証明をするという選択もある。

STEP12, Aircraft Similarity Assessment

航空機レベルの試験に代えて類似性により機内のレベルAの機器、システムの配線インターフェースに誘導するHIRFを推定する方法。申請者が過去に同様の試験を行っている場合等の場合で、今回証明しようとしている航空機に対するHIRFの結合レベルが推定できる場合にもちいられる。例えば航空機をストレッチする場合などのケース。類似性の適用は高度な判断が求められる適用が難しい場合がある。

STEP13,Assess Immunity

統合システム試験で実施した仮レベルのHIRF試験の強度が適正であったかを評価するステップ。
Lightningの証明との違いは、マージンを不要としている点

STEP14, Corrective Measures

必要に応じて是正処置

STEP15, HIRF Protection Compliance

全てに問題がなければ合格!

4.まとめ

今回の記事は将来投稿予定のFAA発行のPS ACE 23-10や欧州発行のeVTOLに関するHIRF/lightningの証明方法等の紹介させていただく上での準備投稿として既存のHIRFの証明方法の概略を記載しました。

免責
記事の内容は、細心の注意を払って記載をしていますが、絶対的なものではありません。本記事の内容により生じるいかなる損害、不利益等についても責任を負うものではありませんので、あくまで参考としてご使用頂ければ幸いです。





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