機器認証試験の要求が航空機認証試験の要求を満たせない理由
1.背景
これまで投稿してきたいくつかの記事の中で、機器の認証を終えていても必ずしも機体へのインストールは認められないことを紹介させて頂きました。過去記事では、機体へのインストールには追加の証明が必要となる明確な理由を十分に記載していませんでした。今回は 、このことについてフォーカスしたいと思います。
機器レベルの認証が機体レベルの認証を必ずしも満足しないことの最も簡単な理由は、米国のアドバイザリーサーキュラーにそのように書いてあるからです。下記の英文は、FAA AC21-46Aの冒頭からの抜粋で、However以降に説明があります。参考までに、Airworthiness standardとは、PART23/25/27/29のことを指します。
Technical Standard Order (TSO) Definition.
A TSO is a minimum performance standard, defined by the FAA, used to evaluate an article. An article can be a material, part, component, process, or appliance. (Refer to Title 14 of the Code of Federal Regulations (14 CFR) 21.1(b)(2)). Each TSO covers a certain type of article intended for use on civil aviation aircraft and provides a baseline standard intended to support compliance with airworthiness or operational requirements. However, compliance with a TSO or multiple TSO cannot ensure the installation of the article will comply with airworthiness requirements. This determination is made during installation. Refer to Advisory Circular (AC) 21-50, Installation of TSOA Articles and LODA Appliances, for further information.
アドバイザリーサーキュラーにそのように書いてあるから、、、、を理由としても良いのですが、もう少し技術的な側面について考えてみることにします。色々と例示はできると思うのですが、最もこの考察に相応しいと思うものがDO160 section 22,Pin injection testです。本記事では、section 22にあまり深入りしない程度で機器認証と機体認証の関係について書いてみます。
2.PIN INJECTION TEST
機器認証試験とはTSOで要求される証明要求に対して行われる試験であり、詳細な証明要求はMPS,Minimum Standard Performanceとして定義されています。TSOには数多の証明要求が規定され、その中には環境耐性要求に対する証明要求も存在し、具体的にDO160 section 22, Category XXXXXXなどと記載されることがあります。(XXXXXXは6桁の英数字で指定される、例えばA3J3L3などように示されます。)
Pin injection testは、section 22を構成する試験の一つで、雷撃により生じるMagnetic effectに対する
電磁耐性の証明の一部を構成する試験です。電子機器には様々なコネクターがあり、コネクターには多数のPinが存在します。Pin injection testの目的は、この一つ一つのpinにmagbetic effectにより誘導される電圧/電流トランジェントに対して電子機器が損傷を受けないかどうかを判定するための試験となっています。
言うまでもなく 、電子機器は機器同士を電気配線で接続されています。その電気配線は、電気的にはPINに接続されています。単純化のために、PINが一つしかない電子機器をイメージし、それらが1本の電線で接続されている場合を考えて見ます。機器Aと機器Bは、下図のようになります。
上図に示すような構成のシステムが航空機にインストールされていたとします。機器Aのインピーダンスを50Ω、機器Bも50Ωだったしましょう。このシステム構成が機内のアビオニクスベイにインストールされている状態で、航空機が雷撃を受けたと仮定します。大きな大電流が機体の外板を流れていきますが、この大電流は機内に流れ込むことは想定する必要はありません。従ってアビオニクスベイは無事のはずで、当然この架空システムも無事のはずと考えたいところなのですが、機体外板に流れる大電流は、電流の進行方向に対して右回りの磁界を発生させ、この磁界が容赦なく機内に侵入してきます。仮想システムは、この磁界に曝されることになります。この仮想システムを良くみると、機器A-電線-機器B-グランドプレーンでループしていることがわかります。このループに磁界が鎖交するように侵入するとループには誘導起電力が生じることが理解できると思います。仮想システムにおいて、機器ABと機器Bの両方のインピーダンスが同じであった場合は、誘導される起電力は2分されます。仮にループ内で600Vの電圧が誘導されるならば、機器AのPINに誘導される電圧と機器BのPINに誘導される電圧は等しく300Vとなります。しかし、仮に機器Bの抵抗がゼロΩ(雷撃プロテクションである、サージ抑制ダイオードなどが装備されている場合)の場合、ループに生じる全電圧が機器AのPINに誘導されることになります。 つまり、接続先の機器のインピーダンスによって機器Aに誘導される電圧が違ってくるということを示しています。重要なのでもう一度言いますが、接続先の機器のインピーダンスの影響を受けるのです。
3.機器の製造者は接続先の電子機器のインピーダンス情報を知らない!
機器Aのpinに誘導される電圧は、接続先の機器のインピーダンスに依存し、300Vから600V(最大)まで変化します。機器の製造者は、自分達の開発した機器がどのような機器に接続されるのかをある程度は推定して試験を行っていますが、最終的には航空機側のインストラーにしかわからない情報であるということ認識していく必要があります。つまり、機器製造者としては300Vまでしか保証していない製品を場合によっては600Vにも達する環境に配置すれば壊れるのも当然です。一方、連接する機器BにTVSのようなものがなく、機器のインピーダンスが50Ω以上なら300Vまで証明された機器で十分なのです。DO160の解説書であるDO357には、サージ抑制ダイオードに関する説明があり、そこではtransient voltage suppressorという用語が使用されています。今回の記事では、このTVSを題材としましたが、他にも機体側の配線設計に依存するものとして、シールド配線、非シールド配線に関する考慮事項もありますので、あくまで一例の紹介となります。
4.まとめ
機器認証試験が航空機認証を満足しないことを紹介させて頂きました。アドバイザリーサーキュラーにも、それとなく記述はありますが、本記事では、電子機器は接続先の機器や接続配線の種類などの影響が無視できないからという点を強調する目的で記事を投稿させて頂きました。このように書くと、機器認証があまり役立たないと感じられるかもしれませんが、TSO認証を受けている製品は、型式証明において十分に有益で、機体OEMから見て、TSOの認証のない製品を使用することはリスクが高いと言えると思います。是非何かしらのMPSをご覧下さい。それに費やす時間を考えるとTSOの有効性が見えてくるように思います。
免責
記事の内容は、細心の注意を払って記載をしていますが、絶対的なものではありません。本記事の内容により生じるいかなる損害、不利益等についても責任を負うものではありませんので、あくまで参考としてご使用頂ければ幸いです。
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