機内でのPortable Electronic Deviceの使用に関する米国規則

1.背景

航空機の機内において乗客が使用する携帯電子端末(PED, Personal Electric Device)は、その端末から発せられる意図的な、或いは非意図的(スプリアス放射)な電波(電磁波)は、航空機の航法、通信システムに代表される電子機器への干渉要因となることが知られています。

現代の航空機のモダンな設計では、機内でのPEDの使用を前提とした設計がなされ、必要な証明も行われているので、こうした航空機の場合にはPEDの使用制限は必要とされていません。

PED耐性の証明要求は、RTCA DO307Aに規定され、PEDによるback door及びfront door couplingから航空機の電子機器を保護することが必要とされています。PEDの機内使用に対する航空機の電磁耐性の証明、即ち、PED耐性の証明の一部となるback door couplingにはHIRFによる脅威に対して実施される証明(DO160 sec.20,RS testing)を活用することができます。これに加えて、front door couplingに対する証明も必要となってきます。PED耐性の証明の中心となるfront door couplingの対策としては、機体構造の電磁的プロテクションを高めることにより、基準となる干渉経路損失(Interference Pass Loss:IPL)を上回る減衰量を確保することでPED耐性の証明要求に適合させることができます。PED耐性の証明は、このようにHIRF規則に対する証明と重複する要素があり、HIRF証明機は、PED耐性の証明の半分が完了しているとも言えます。

今回の記事では、オペレーターに課せられている航空機のPED耐性証明要求と型式証明ホルダーの関係を中心にPED規則との繋がり織り交ぜた紹介記事となります。

2.米国の規則要求に関連するドキュメント

はじめに、PEDに関する規則要求に関係する主要ドキュメントを列記します。

  • 14CFR Part 91 Sec 91.21,Portable electronic devices.

  • AC91.21D,Use of Portable Electronic Devices Aboard Aircraft

  • RTCA DO-307A,Aircraft Design and Certification for Portable Electronic Device (PED) Tolerance

これら以外にも関連文書がありますが、今回は概要を紹介するのが目的となりますので上記の3つに絞ります。

3.PEDの規則要求

14 CFR,PART91. sec.91.21の規則大要は次のとおりです。

米国国内で航空機を運航するAir carrierとcommertial のoprationを担うオペレーターは、規則、Part91.21(b)項で明示されているようにボイスレコーダーなどの一部のPEDを除き、運航中に乗客がPEDを使用することを制限しなければなりません。それ以外の航空機を運航するPICなどがオペレーターとなる航空機の場合にはIFRに限ってPEDの使用が禁止されています。裏読みすると、前者のケースでは、VFR及びIFRのいずれの場合でもPEDの使用が禁止されていることになります。

上記の原則を理解した上で、それぞれの機体を運航するオペレーターが機内でのPEDの使用を意図する運航を行いたい場合、PEDの機内使用が航空機の航法システムや通信機器その他の電子システムに悪影響を与えないと判断する場合に、その他のPEDの使用が認められます。

どのようなPEDが悪影響を及ぼすのか、そのための指標は何であるのかは気になりますが、実のところ、個別のPEDを調べていくのは大変なので航空機が持つ電磁耐性能力を評価する方法が用いられます。PED耐性を有する航空機かそうでないかです。具体的にはACを見て判断していくことになります。

4.Advisory Circular (AC) 91.21-1D

AC91.21-1D,Use of Portable Electronic Devices Aboard AircraftにはPEDに関連して発行されきた数々のドキュメントが参照されています。orderやNotice、policyなど様々です。本来であれば、そうした参照文書を一つづつ
紹介すべきなのですが、誌面の都合上、概略の紹介となります。そこで、今回はPED耐性の証明概要に関する文書構成にフォーカスしているので規則要求を直接説明しているsection 7, TECHNICAL SUBSTANTIATIONの内容に触れたいと思います。このACは、PART91の解釈マテリアルなのでオペレーター視点での記述となっていますが、事実上、型式証明ホルダーのタスクといっても過言とはならない内容となっています。

このACのsection 7では、オペレーターはRTCA,DO307Aに従ってPED耐性の証明を行うか、PED耐性の証明が十分でない場合にはDO363に基づくエンジニアリングジャッジで証明を補うことができることが記されています。後者のケースは、安全性解析による定性的な分析などを用いて証明を補完することが意図されています。オペレータ目線で言えば、PED耐性の証明がなされた航空機とは、DO307Aに適合した機体のことを指し、307Aに完全に準拠していない航空機を運航する場合には、自らがDO307Aの要求に対する不足分を証明する必要がでてきます。つまりオペレーター視点では、DO307Aに適合した機体でないと使いにくいということになり、新規開発される航空機では型式証明の時点でPED耐性の証明が考慮される時代になっています。ところで、DO307Aに完全適合している機体の候補としてはfull HIRF compliant aircraftを挙げることができ、TCDSのcertification basisにおいて2X.1317等が含まれているかどうかで判断することができます。この手の航空機の場合はfront door結合に対する証明だけを実施すれば良いことになります。一方、Partial HIRF compliant aircraftである場合は、HIRF規則への証明が完全ではないない、設計の古い航空機のことを差し、HIRF規則の前身であるspecial conditionで証明がなされた航空機ということになります。この場合、DO307A適合のためには、front door couplingの証明に加えてback door couplingの証明も必要となります。

DO307Aの要求に基づくPED耐性が証明できれば、全ての飛行フェーズでPEDの使用が許可されます。

これであらゆるPEDが全飛行フェーズで飛行可能となるのと言いたいところですが、若干の例外もあり、それが携帯電話機による通話、データ通信の機能の活用です。これは、FAAというよりFCCの要求に起因する禁止事項となっています。

AC91.21-1Dには他にも多くの内容が記載されていますので、型式証明に挑戦される方は、原文の確認をお勧めします。またこちらのブログでも機会を見てもう少し具体的なな内容を紹介したいと思います。

5.RTCA DO-307A

PED耐性の証明のための実質的な基準はDO307Aとなっています。機内でPEDを使用するには、PED耐性を証明する必要があることを述べてきましたが、PED耐性の証明にはfront door及びback door couplingからの電子機器の保護のことであると述べてきましたが、それぞれについて少し補足すると、front door couplingとは、乗客が持ち込んだPEDのスプリアス放射が、キャビンの窓などの電磁的開口部から漏れて機体外部にマウントされたVHFアンテナなどの各種アンテナを経由して受信機の希望受信帯域内にPEDからの不要波が飛び込む現象のこと指します。back door couplingとは、PEDから発せられる意図的な電波が、キャビン内、コックピット内などに設置されている電子機器にアンテナなどを介さずに筐体内の電子機器に直接作用する現象です。前者のfront door couplingに対する証明はIPLと呼ばれる干渉経路損失を一定以上に確保することにより証明が達成でき、具体的な要求はDO307Aの4章を説明があります。

もう一方のback door couplingに対する証明はDO307Aの3章に規定がありますが、実質はHIRF.規則の証明と同様の要求であるDO160 section 20のRS testingと同様でmとなっています。個々の証明要求については、時期を見て記載をしていきたいと思います。

6.まとめ

本記事では、PED耐性の証明に関する主要なドキュメントの概略を紹介しました。
PEDの証明はオペレーターの責務で行うことになっています。これは規則要求にそのように記載されているからですが、ビジネス上の観点から型式証明ホルダーが強く関与していることを紹介しました。
back doorとfront door couplingについて紹介しました。

免責
記事の内容は、細心の注意を払って記載をしていますが、絶対的なものではありません。本記事の内容により生じるいかなる損害、不利益等についても責任を負うものではありませんので、あくまで参考としてご使用頂ければ幸いです。










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