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小型飛行機に関するL/HIRFのFAA POLICY STATEMENT,PS ACE 23-10

1.背景

本投稿では、2017年に発行されたFAA PS ACE 23-10について紹介します。Policy Statement、PS ACE 23-10, HIRF/Lightning Test Levels and Compliance Methods for 14 CFR Part 23 Class I, II, and III Airplanesは、subjectのとおり小型機飛行機のType CertificateやSupplemental Type certificateの適合性証明のMOCとして使用することができ、AC20-136BやAC20-158Bには記載されていない別途のMOC(Means of Compliance)が記載されています。MOCが記述される媒体としては、Advisory Circularが有名ですが、PSは、FAA職員向けに指示されている文書という位置付けではあるものの、しっかりとMOCが記述されており、しかもその内容が既存のMOCを代替できるものとなっています。

参考1
このPolicy Statementは、2017年に14 CFR PART23-64で発行されたPART23の新規則、sec.23.2515と2520にも適用することができます。既存のMOCであるAC29-136BやAC20-158AのMOCを一部代替えする内容が含まれています。

参考2
2022年5月-7月において、AC20-158Bのopen commentがなされ、その改定案には、今回紹介する PS ACE 23-10の内容が含まれていました。一方、AC20-136Cに関する情報は今のところ聞こえてきません 。

参考3
Policy statementとAdvisory Circularは、類似の性格を持つドキュメントで、いずれも米国規則に対するAcceptable Means of Comlianceを示す場合に使用されることがあります。両ドキュメントともMOCを説明している場合は、あくまでMOCであり、しれ自体は規則を構成するものではなく、他のガイダンス(例えばAC)を打ち消したりするものでもありません。

参考4
EASAが提供するVTOLに関するsoecial conditionのMOCと比較すると、証明方法としてのコンセプトは全体的に類似していますが、個々の証明要求レベル等にかなりの違いが存在します。

参考5
このPSは、ASTM F3264、F3367とほぼ同等の内容が規定されてます。これらのASTMは規則Part23-64の直系のMOCとなっていますが、
ASTMは、多数の小さなドキュメントで構成されているため全体像が掴みにくい印象があります。しかし、このPSの内容と前述のASTM文書の技術要件は、ほぼ同じですので、ASTMの内容を掌握する意味においても本PSの内容を知ることは有益です。

参考6
本記事に関する裏付けが必要な場合、FAA発行のSAILなどもご覧下さい。

2.Policy Statement, PS ACE 23-10の入手先

このドキュメントは、FAAの下記のURLにアクセスし、Search Current Documentsの検索ボックスに、PS ACE 23-10を入力するで見つけることができます。

https://drs.faa.gov/

3.PS ACE 23-10の概要

このPSは、前述のように小型飛行機のIEL(Indirect Effect of Lightning)とHIRFの規則のMOCとして適用可能であり、AC20-158Aに規定された適合性の証明手法よりも簡便な方法での証明方法が示されています。HCL/LCL=Aに分類されるシステム(レベル(Aシステム)に対して、従前までは必要とされていた全規模航空機試験に代えて機器レベルの試験だけでも適合性を示すことを可能とした点が変更点となります。また、この方針の変更に伴い適用される試験レベルに関する試験カテゴリも記述されています。

4.Service experianceとSafety objective

FAAは、本PSの発行に際し、lightningとHIRFの双方のケースとも、過去の運航実績、つまり飛行実績データの分析してを行い、safety objectiveとの関係を最評価しています。safety objectiveは、AC23.1309-1Eに規定されています。lightningについては、運航実績データから航空機の大きさ(翼幅x全長)毎の被雷データをグラフ化し、被雷確率が飛行機の大きさに比例することを冒頭に説明しています。このデータから小型のClassの飛行機の被雷率は、一層と低いことが明らかにされました。航空機の設計要求は、safety objective満たすように設定されることから従来よりも緩和されたMOCが採用されています。もう一方のHIRFについては、HIRF規則やSpecial conditionが設計要求に含まれていなかった古い時代の飛行機、言い換えると、HIRFに関するプロテクションがほぼ存在しない時代に設計製造された飛行機であっても、HIRFに起因する事故等がほぼ発生していないことを理由に緩和されたMOCがPSに採用されています。

5.PART23の飛行機に適用可能な雷撃試験レベルとHIRF試験レベル

ある特定の条件を満たしたと考えられる場合は、各飛行機のClass毎に下表の試験レベルによる証明方法の適用が可能とされています。

補足1
Lightningのカラムに示したA2J2L2などの表現は、DO160 sec.22で規定される試験カテゴリ。一般には、機体構造の種類、金属又は複合材と配線種別、シールド配線又は非シールド配線によって選択されるカテゴリ。

補足2
HIRFのカラムには、基本的にCS試験のカテゴリとRS試験のカテゴリが規定されている。Class-1の場合は非常に単純にcategory-RRであることが示されています。この試験レベルは、従来のコンセプトに従えば、レベルBシステムに適用されていたレベルですが、本PSに従えばレベルAシステムにも条件次第で適用可能とされています。

6.適用条件

ACに記述されていた従来の証明方法においては、PART23の飛行機と言えども、フルスペックの証明方法を選択する以外に方法はなく、大型飛行機の証明方法と大きな差はありませんでした。しかし、本PSにおいては、上表に示すように、機器レベルでの試験証明でも適合性証明が可能とされているClassが存在することが分かると思います。これは非常に大きな変更点であり、飛行機の開発者に大きなメリットをもたらすはずです。ただし、無条件でこうした証明方法を選択できるわけではなさそうで、レベルAシステムを従前までのレベルBやCシステムのごとく、機器試験のみで証明ができるのは、レベルAシステムのHIRFやIELに対する挙動が相応に予測できるケースであるとさてています。つまり、それらの脅威に対するシステムの応答が不安全なものにならないと判断できるケースにようです。このような条件が当てはまるには、レベルAシステム自体が非常にシンプルなシステム構成であるだけでなく、相互接続配線も比較的短い配線であり、複雑なバンドルをしないようなケースなどが想定されますが、実際の証明ではdiscussionが必要なエリアのような感触を受けます。

何にしても、統合システム試験や全規模航空機試験を行わずに証明できる可能性はありますので、DERなどの協力を得ながら証明を進めていくのではないかと想像できます。この点に注意しながら原文を見て頂くと幸いです。

7.まとめ

  • PS ACE 23-10は、従来のAC20-136BとAC20-2158Bを一部代替えをします。

  • PS ACE 23-10は既存のMOCと比べると緩和された証明方法が示されています。ただし、緩和での証明方法の適用は、証明しようとするシステム次第となる可能性があり、証明を受けようとするシステムのL/HIRFの挙動について十分に把握しておく必要があると思われます。

  • PS ACE 23-10は、PART23-64のMOCであるASTMとほぼ同一内容です。

  • EASAが発行したVTOLのMOCとは、対象となる航空機の違いもあるものの証明要求の試験レベルは大きくことなります。

免責
記事の内容は、細心の注意を払って記載をしていますが、絶対的なものではありません。本記事の内容により生じるいかなる損害、不利益等についても責任を負うものではありませんので、あくまで参考としてご使用頂ければ幸いです。

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