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特急小江戸の特異性 西武新宿線に根付いた特急文化の今後を考える

西武新宿線を走る特急レッドアロー小江戸
世界有数の巨大ターミナルである新宿と、埼玉県西部の2大都市である川越、所沢を結んでいる。

川越へのアクセスを担う観光特急としての面と、着席需要を担う通勤特急としての面を持ち合わせる。


特急としての存在意義の低さ

さも立派に書いてみたが、他の私鉄特急と比較して、特急レッドアロー小江戸の認知度やブランド力は大きく劣っている。これは、そもそも西武新宿線に特急を走らせること自体に無理があることに起因する。

終点が近い

まず、川越と東京は近い。都心から30kmしか離れていない。
同じ距離感の都市として、大宮、柏、千葉、立川、町田、横浜などの国道16号沿道都市が挙げられる。上野‐大宮間、新宿‐町田間、東京-千葉間のみで完結する特急、と考えてみると、いかに新宿-川越間での特急の運行が短いかが理解できるだろう。

速達性が低い

しかしながら、新宿‐町田間でロマンスカーを利用する人は多く、千葉駅に停まる成田エクスプレスも増えている。都心から30kmほどの都市でも、速達需要や着席需要は存在しているのだ。

ところが、特急小江戸は速達性が低い。
特急小江戸は、西武新宿から本川越までを45分で結んでいる。これが東武東上線の急行に乗ってしまえば、特急料金不要で、池袋から川越まで30分で行けてしまうのだ。

着席需要が低い

となると、頼みの綱は着席需要である。
西武新宿線は通勤通学用路線。そもそも、特急小江戸は朝夕の着席需要に応えるために導入された。
しかしこの路線、首都圏の他の路線と比較して、混雑率がそれほど高いわけではない。長距離な路線でもないし、高級住宅地が広がるわけでもない。どちらかというと、穴場な路線なのだ。

そもそも西武新宿線が悪い

つまり、西武新宿線が残念な路線であるゆえに、そこを走る特急もパッとしないのだ。

まず、残念なのがそのルート。新宿から川越まで大きく遠回りをしており、直角三角形で例えるなら、鋭角と鋭角を一直線に結ぶ東武東上線に対し、西武新宿線はわざわざ直角を経由して、2つの辺を通るように走るのだ。

もっとも、この遠回りがあることで、直角にある所沢を経由することができている。しかしそれ以上に欠陥なのが、都心側のターミナル=西武新宿駅である。他の路線の新宿駅と大きく離れており、もはや乗り換え駅として機能していない。そのため、山手線との乗り換えに便利な高田馬場駅が実質的なターミナルとなっているのだ。

一方で、郊外側のターミナル=本川越駅は、蔵造りの町並みが広がる観光エリアにもっとも近い場所に位置する。JR川越線や東武東上線と乗り換えられないのは不便だが、川越の観光客輸送に一歩抜き出ることができたのが唯一の救いである。

西武新宿線に根付いた特急文化

合理的に考えれば、川越へのアクセスは東武東上線の方が速くて安い。
しかし、休みの日になれば特急小江戸に乗って川越観光に向かう人は、けっこう多い。平日の通勤時間帯、車内はかなり混んでいる。意外にも特急の利用が根付いているのだ。

毎時1本、毎日運転

平日朝夕の通勤時間帯だけでなく、休日や日中時間帯においても、毎時1本以上必ず走る。通勤時間帯にしか顔を出さない〇〇ライナーや土日のみの観光列車ではなく、れっきとした特急列車として堅実に運行を続けている。

空気輸送と揶揄される日中時間帯の便であるが、見かける頻度が上がり、また1日中いつでも乗ることができる、利便性のアピールに大きく貢献している。
データイムがあってこそのコアタイムである。例えるなら、コンビニが売上の少ない深夜帯に営業をすることで、利便性をアピールして、日中の売上を伸ばすことと同じである。

30年間沿線価値向上に貢献していた

西武鉄道の特急は、当初は西武池袋線・秩父線系統でしか運行されていなかった。西武新宿線に特急が走り始めたのが、今から30年前の1993年である。

近年、通勤通学路線での有料着席車両や通勤ライナーの導入が相次いでいる。
客単価を上げつつ、利便性を高め沿線価値を向上させることが目的なのだが、実際はすぐには利用は定着しないし、沿線価値向上にも時間もかかる。

そう考えると、30年も前から特急を走らせてきた西武新宿線は、先見の明があった。意外と特急が利用されているという状況は、毎時1本、毎日、30年間運行を続けてきたことの賜物なのだ。

特急レッドアロー小江戸の将来を考える

そんな特急レッドアロー小江戸も、そろそろ新型車両への置き換えが検討される時期にきている。

西武池袋線・秩父線系統では、既に新型特急車両ラビューが導入されている。その一方で特急小江戸には従来の車両が使用され続けていることから、西武新宿線用の特急新造に二の足を踏んでいることが伺える。

LCカーや一部指定席車両の可能性

経済性を考慮すれば、普通列車としても使用できるLCカーを導入して、通勤時間帯の通勤ライナーと、土日の観光ライナーを走らせるのがいいだろう。あるいは名鉄特急のように、編成の一部を指定席車両とする手もある。

しかし、本当にそれでいいのだろうか。

特急の運行コストは抑えられるかもしれない。しかしその一方で、グレードを下げるということは、わざわざ追加で特急料金を払ってくれる層の切り捨て、ひいては沿線価値低下にも繋がりかねないのだ。

3両編成×3両編成の新型特急車両導入案

特急車両の新造には多大なコストがかかる。それに見合った需要を喚起するためにも、3両編成×3両編成の車両を導入し、新たな運行形態を構築することを提案したい。

需要の大きさに合わせて、6両編成または3両編成で運転する。また通勤時間帯には、新宿方面からの列車を所沢で分割させて、川越方面・飯能方面それぞれに向かう列車を設定する。土休日には、新宿方面・池袋方面それぞれからの列車が所沢で併結し、秩父方面を目指す。小平で分割して、西武園ゆうえんち方面に向かうのも良いだろう。

停車駅を増やす

もう1つ、現実的な需要喚起策として、、新所沢駅と田無駅を新たな停車駅とすることを提案したい。

新所沢駅は、埼玉県内では所沢、本川越に次いで利用者数が多い。通勤急行や快速急行も停車しており、全特急列車が停車するだけの需要はあるだろう。
田無駅は都心と近いが、西東京市の中心駅であり、利用者数も抜きん出ている。朝夕の便を停車させることで、需要を獲得したい。

実際、2013年に東村山駅が特急小江戸の新たな停車駅となったことからも、可能性は十分あるだろう。

西武鉄道の2大幹線の1つとして

これらの提案は、決して夢物語ではないと思っている。なぜなら、西武新宿線は西武鉄道の2大幹線の1つであり、ここへの投資は会社全体の利益に大きく関わるからだ。

最初の項で述べたように、そもそも西武新宿線に特急を走らせるのには無理がある。にも関わらず運行を始めたのには、前述のような思いがあったのではないだろうか。
西武鉄道では、2大幹線を軸に経営を進めている。だからこそ、その交点である所沢で重点的な開発を進めており、ここで分割併合するような特急列車ができれば、所沢の拠点性はますます大きくなるだろう。

終わりに

私は、幼少期から大学進学まで西武新宿線沿線で生活してきた。
鉄道ファンの私にとって、特急小江戸は数ある特急列車の中の1つに過ぎなかったが、沿線の一般人にとっては【特急】とその他の普通の電車では全く違う認識であり、その【特急】で一番に思い浮かぶのが【小江戸】であった。

車窓に目をやると、こちらに手をふる子供が多い。やっぱり、特急はかっこいい存在なんだなと改めて感じた瞬間だった。

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