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"憧れの君"のはなし
こちらのページは書庫番様による非公式企画、
skyアドカレ2023参加記事です。
↓企画ページ
https://adventar.org/calendars/8533
投稿直前の私
(本当にこれでいいのか手を震わせながら投稿します…何かありましたら最後に置いておいたXの連絡先にご一報くださいませ……)
いつか書き留めたいと思っていた、
"憧れの君"の話を綴る時が来たのかな。
アドカレの企画を見かけてそう感じたので、筆を取らせていただきました。企画いただきありがとうございます。参加者様は名の知れた人ばかりで、そんな中でこんな文章を綴るのも…とも考えましたが、きっとこの文章を出すにはこのタイミングしかなかったのです。多分ね。
頭の中に浮かぶ情景を文字に起こすという行為をあまり経験してこなかったため、こいつは何が言いたいんだと思う文章も沢山あるでしょう。ただ、もしよろしければ、暇つぶしにでも眺めていただければ幸いです。
初めに。
"憧れの君"は今はもう別の空へ行ってしまったようで、姿を見ることもありません。"憧れの君"と一緒に空を飛ぶことができたのはほんの僅かな期間でした。もう3年以上も前のお話です。それでも。まだ空を飛び続ける私にとって、本当に大切で、唯一で、限りなく愛しい思い出です。
3年以上前、私がskyの世界に降り立って間もないころにとある野良フレさんとオレオの秘密の場所で出会いました。野良フレさん(今ではskyで一番付き合いの長い大切な友達なわけですが)と"そのほしのこ"はもともと別のゲーム仲間だったようで、私と友達が一緒に雨林を駆けていたところに突然黒子として現れました。野良フレさんと黒子はチャットをいくらか交わした後、どうやらその黒子が手を引く流れになりました。突然知らない人が現れて手を引かれることに驚きと戸惑いを感じながら、私は黒子と火を灯し合い、差し出された手を取りました。
不思議な場所につながる水色ケープ
背中には焚火
そんなほしのこ
それは、私の空の覇者でした。
空を飛ぶのが本当にうまかった。ずっと滑空状態で、木にぶつかることもなく、地に足付くこともなく、くるくる回って飛び続ける。空を舞い続ける。skyの世界に降り立ったばかりの私にとって、そのほしのこに手を引かれて飛ぶ空の景色は全く違うもの見えて。こんなにも優雅に、高い技術をもって、空を飛ぶことができるのかと、それはそれは驚きました。驚きと同時に、見ず知らずのほしのこが、"憧れの君"になりました。
"憧れの君"はとてもおしゃべりなほしのこで、出会ったその日にチャット開放に至りました。その日はくだらない話をして解散しましたが、もっと仲良くなりたいと、強く思いました。しかしよくある話ですが、どうにも、私にはワープをする勇気がありませんでした。あの時は、一週間に一回会いに行くのは邪魔じゃないよな。いやでも、もう一週間置いてから会いに行った方がいいかな?などど考え、二週間に一度くらいのペースで私から"憧れの君"のもとへワープする日々でした。というのも、"憧れの君"には自分よりも沢山フレンドさんがいらっしゃり、大所帯に交じるには少々、コミュニケーション能力が欠けていたと言いますか。ともあれ、私にとっては"憧れの君"でも、向こうからすればただのゲーム友達の野良フレンドに過ぎないもので、あまり頻繁に会いに行くことはしませんでした。
されど、私がワープをするといつも直ぐに気がついて名前を呼んで、必ず挨拶をしてくれた。そんな些細なことがとても嬉しかったのを覚えています。
ある日を境に、"憧れの君"のログインがパタリとやみました。
"憧れの君"は毎日空を飛ぶほど、空が好きなほしのこでした。沢山のフレンドに囲まれて、沢山のフレンドと手をつないで、色々なことを話しながら。だというのになぜ。一抹の不安と悲しみを覚えながら、私は"憧れの君"のいない空を飛び続けました。
星座を見上げる。"憧れの君"のログインはない。
星座を見上げる。欠片が送られてくる気配もない。
星座を見上げる。
…
…
そんな日々がひと月ほど続いた、とある静かな深い夜。私が星座を見上げると、"憧れの君"の星がきらめいていることに気が付きました。
他のフレンドと一緒に楽しく空を飛んでいるかもしれない、そこに水を差すことになってしまうかもしれない。
でも。それでも私はその時。この機会を逃せばもう"憧れの君"と二度と出会えない。そんな予感がしたのです。なんとなく。なのでありったけの勇気を振り絞って、私はワープのボタンを押しました。
ワープすることができません、なんて文字に阻まれることも無く、一面真っ白の視界の後、草原の景色が現れて。
見上げれば、”憧れの君”は空を飛んでいました。青々とした草が生い茂る、草原の青い空の中で。私の知らない黒子のほしのこと二人、綺麗な飛行機雲を描きながら。何故かそれだけで、私はそこはかとなく心がいっぱいになり嬉しくなったのを覚えています。
"憧れの君"が空を飛んでいる。
やっぱり空が似合うと、思いました。
私は声をあげず草原の空を眺めていたので。しばらく"憧れの君"は私に気づかず空を飛んでいたのですが、そこで少し、違和感を覚えました。その二つの影は一切の会話をしていなかったのです。先にも述べたとおり、"憧れの君"は沢山のフレンドに囲まれて、沢山おしゃべりをしているような、そんなほしのこだったので。
草原の空を見上げてしばらくすると、さすがに"憧れの君"が私の存在に気づき、羽を下ろして私の前へ降り立ってくれました。
(気づいておりてきてくれてありがとう)、(あなたが空を飛んでいる姿を見ることができて嬉しい)、(けれどフレンドさんといるなら邪魔をするつもりはない)、(でも本当に、本当に貴方が空を飛んでいることが、嬉しい)。私はそんな感情をエモートに込めて、ひとつ、お辞儀をしました。なんとなく、言葉を発しませんでした。
それに対して"憧れの君"は、
口を開く気配すらありませんでした。
まぁ、私が喋りかけていないから。
でもいつも向こうから、話しかけてくれるのに。
ちよっとした、違和感。
こちらのお辞儀に対して、"憧れの君"もお辞儀をしてくれました。それがうれしくて、フレンドさんもいることだし、そろそろ去るべきだと思いました。でも、やっぱり、なんとなく名残惜しくて。もう会えない気さえして。バイバイのエモートをしたくせに、"憧れの君"の方が飛び去ってくれるのをただ待っていました。
そして
"憧れの君"は、私に手を差し伸べました。
言葉のない、手の差し伸べるエモート。バイバイのエモートをしたくせに立ち去らない私に、手が差し出されたのです。一緒に空を飛ばないかい?と言わんばかりに。
その手に対してどんな感情を抱いたか、もう覚えていないけれど。
私は、差し出された手を取りました。
そこからは言葉のない旅でした。ホームに戻ることを挟まず、草原から雨林、峡谷を抜けて、夜が更けてきました。峡谷の出口あたりで、この言葉のない旅の同行人(最初から"憧れの君"と旅をしていた黒子のこと)が手を放し、あくびのエモートをしました。寝るということなのだとわかりましたが、その同行人は終止言葉を発さず、それに対して"憧れの君"も何も発さず、ただエモートのみで挨拶をした後、同行人はアプリを落としました。果たして仲間が一人減ったわけですが"憧れの君"はまだ旅をつづけるようで、ここからは言葉のない二人旅が始まりました。
捨てられた地の最終エリアに差し掛かった時、私と"憧れの君"の共通のフレンドさんが、ワープをしてきました。そのフレンドさんは久しぶりに"憧れの君"がログインしていたことに気づいてワープしてきたようで、私たちに『話し』かけてきました。
この旅に、初めて『言葉』が落ちました。
久しぶりに会えたことを喜ぶ言葉でしたが、"憧れの君"はエモートでは反応しても、一切言葉を返しませんでした。
フレンドさんは私にも挨拶をしてくださったので、私は彼女に対して『挨拶の言葉を交わし』ました。しかし"憧れの君"が話し始める気配はなく、これは言葉のない不思議な旅だということを感じ取った彼女は、別れの言葉を告げてすぐに去ってしまいました。姿が見えなくなると、再び沈黙の旅が始まりました。
そこからしばらくして
『疲れた』
『げんき?』
何がトリガーとなったのか。書庫に入ろうとしたとき、草原から一言も零さなかった"憧れの君"から言葉がこぼれました。
「おつかれさまです」
「私はげんきです」
「急に飛んできてしまってごめんなさい」
その二言が引き金となって、言葉の無い旅で私がずっと感じていたことがぽろぽろ零れ落ちました。どこまでいくつもりか分からない、喋る気もないのに私なんかの手を引いて。邪魔だったんじゃないか。そんな私に"憧れの君"はこう言うのです。
『自信をもって』
『素敵な人なんだから。』
『私は嬉しい』
涙があふれて止まらなかった。
言葉のない旅、ではなくなってからも旅は続き、言葉をぽつぽつと交わしながらついには原罪直前の洞窟にまでたどり着いた。もう深夜2時くらいの話だったと思う。その場所で草原から広げ続けていたケープをたたみ、腰を下ろして雑談をする流れになった。私は"憧れの君"に、あなたに憧れているんだ、あなたが空を飛んでいるのを見るのが本当に好きなんだ、という気持ちを包み隠さずすべて伝えた。"憧れの君"は少し驚いた様子を見せながらも、何度もありがとうを伝えてくれた。
そんな会話の中で、"憧れの君"はこんなことを話してくれた。SNSやskyに疲れてしまって、距離を置きたかった。フレンド全削除しようとしてそれは出来なかった。名前を変えて1から一人で飛ぼうと考えた。……でも。今確信したことは。このアカウントを消さなくてよかったなということだよ。ありがとうーーー
そう言って"憧れの君"は、私の名前を呼んだ。
インターネットに疲れて、それでも空に焦がれて、みんなが寝静まった夜に羽を広げた"憧れの君"。
そんな貴方の何かを感じ取って、言葉の無い旅の同行人となった私は少しでも寄り添うことができたのだろうか。
この日から"憧れの君"は、よく私のところへワープしてきてくれる、大好きで大切な、"私の隣にいてくれるほしのこ"になった。
2人で沢山空を飛んだ。
時にはいつもと同じ景色を。
時には少し道理を外れた景色を。
時には小さな私の演奏会を開いて。
時には夜遅くまで語り尽くして。
…
もう一度言う。
"憧れの君"は今はもうこの空から去ってしまったから、これから先の未来で再びその星が点ることはもう無いだろう。一緒に空を飛ぶことができたのはほんの僅かな期間で、これはもう4年近い昔の話だ。それでも。まだ空を飛び続ける私にとって、本当に大切で、唯一で、限りなく愛しい思い出のひとつなのだ。
この思い出は、ノンフィクションである。
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@tehy_sky