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信頼できる定点

ものを考えるのに、
ふらふらと動かない定点が欲しい。
白峰村と僻村塾はぼくたちにとって
信頼できる定点の一つである。

白山麓僻村塾理事長 池澤夏樹

白山麓僻村塾ウェブサイト

息の長い活動を続けている「白山麓僻村塾」は、作家・高橋治さんによって設立され、現在は池澤夏樹さんが理事長を務める。年10回ほど講義があり、白山麓に住んでいた頃はよく通った。

霊峰白山を望む会場は、公共交通機関では行けない辺鄙な場所にあるが、見方を変えれば、純粋に僻村塾への参加だけを目的にそこへ行くという「巡礼」めいた場所でもある。こじんまりとした会場で、池澤さんはじめ、辻原登さん、塩野米松さん、湯川豊さん、そしてかれらが連れてきてくれるゲスト(伊藤比呂美さん、角田光代さん、平松洋子さん、などなど)の話を間近で聴ける。街のトークイベントとはちがう時間が流れている。

こんな辺鄙な場所にすごい作家たちが通ってくれることを、若い頃は不思議に思っていた。けれど、そこが「思考の定点」であるという池澤さんの言葉を目にしたとき、腑に落ちた。

私にもそういう思考の定点が少なからずある。そのひとつが、小名浜の「さんけい魚店」だ。2021年に福島県立博物館のプロジェクトで訪れて以来、何度か足を運んでいる。この1月も、福島浜通りの伝承館調査の後、立ち寄った。

店に並べられた魚を見ながら、三代目の幸子さんと話をする。魚のこと、息子さんたちのこと、地元の海、そして処理水放出。何気ない会話に、ここでしか得られない感覚がよみがえる。もちろん、「いわき常磐もの」もたのしみのひとつだ。