日本海沿いの「海と山しかない町」

2泊3日の稚内旅行の帰り、札幌へ向けてひたすら南下する途中で、とある日本海沿いの町に立ち寄った。
以前から目星をつけていた「海と山しかない町」。平たく言えば、AIRの舞台となったような光景を求めてのことだ。

近年の数多くの作品と違い、AIRの舞台は具体的な場所が設定されていない。個々のモチーフが各地に点在している。
舞台を包括するようないわゆる「聖地」は存在しないのだ。
観光地というわけではなく、海と山しかなく、鉄道は廃線になり、それでいて高校があり、生活には困らない程度の町。
このあたりが、20年以上も日本各地の人々の「あの夏」の光景でありつづけるゆえんなのかな、と思う。

この町には廃駅があり、小さな商店街があり、10年ほど前まで高校があった。
生活には困らない規模で、隣町はそこそこ遠く、コンクリートの波打ち際がある。
ここまでが事前情報。

まずは廃駅に立ち寄る。劇中のようにただの物置き場となっている…なんてことはなく、「廃駅」として観光向けに整備されている。
駐車場には道外ナンバーの車やバイクがあり、鉄道好き世代がしきりに写真を撮ってまわっている。ぼくも同じ「廃駅」を求めてやって来たのではあるのだけど。

駅前から続く小さな商店街。時刻もあって開いている店はほとんどないが、シャッター街という感じでもない。
開いている店を覗き込む。地場チェーンの小綺麗な居酒屋。その隣には(開いていないが)小綺麗で観光地でよくみるタイプのカフェ。

1、2分ほど歩いて海沿いに出る。
コンクリートの波打ち際、その先の浜は消波ブロックもしくは岩場。とうてい海面に降りられそうな場所ではない。
キャンプ場のほうへ少し移動するとようやく降りられそうな砂浜がすこしだけある。足を濡らす気分でもなかったので遠巻きに眺める。キャンプ客もまあまあいる。

30分ほど歩き、空腹を覚えたので町を出る。町はずれの海沿いのバス停を探す気力はなかった。


仮に原作の制作時に(実際の設定年代はもっと古いらしい)AIRの光景が具体的に実在したとして、2023年においてはそこそこに観光地化している。
当然といえば当然の話だ。予想もしていた。町だってただ衰退していく理由はない。

海と夕暮れが美しかった。町の雰囲気や街並みも期待していたものだった。
九割の満足感と一割の満たされなさ。でもこれは都会からやってきた感傷的なオタクくんが勝手に思っているだけの話。町には一銭も落としていない。
再訪するかは…どうだろうなあ。

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