下山するまでが登山です


子どもが生まれてからめっきり登らなくなったが、恋人が突然登山に目覚めたのがきっかけで、二十代の頃、少しだけ山に登った。「毎回、この前よりは楽だよ」と言われ、ついていって後悔するのを繰り返したけれど、なんだかんだ思い出になった。

これは本当によくないんだけど、コース選定も地図読みも、何より行き帰りの運転を全て頼っていた。ただ、そのおかげで自分の体力では本来できない経験ができたと思う。それにしても、目が覚めたら登山口、あるいは家というようなことが何度かあったので、自分の頭の中に日本地図の立体感はあまりない。

装備は必要だけれど、特別な技術がいる山はないと思う。難易度はネットやガイド本とかにまとめられているので、個人的な感想だけ書いてみたい。最初と最後以外、順番は適当。


御嶽山


人生ではじめて登った高山だ。草鞋に白装束の御嶽教徒がスイスイ行く傍らを、六根清浄されてしまった重装備のデブが登山道に横たわってゲロを吐いていた。とにかく暑い日で、座り込んで動けなくなっている人が他にも何人かいた。

ゴリゴリのガレ場
山頂近くの雪渓

人生ではじめて、徒歩で雲の上まで行った。下山時、森林限界を過ぎてまた木陰に入ると、空気が冷たくなって、霧のような、薄い雲のようなものがいく筋も目の前を横切っていった。どれもはじめての経験だったから、感動して、死ぬ時に思い出しそうな景色だなあと思って、そういうことをずっと口にしていた。

登ったのは、2014年、土曜日の昼下がり。翌月噴火し、63名の死者・行方不明者を出しました。山は怖いですね。自分があの場にいたとして、生きて帰ってこれたと思えない。でも、一番記憶に残っている山だ。

天城山


山頂の景色はよくない。下りがひたすら長かった。しばしば視界が開けて富士山が見える。山を見るための山。あなたと超えたい天城越え、案外地味だなと思った。



蓼科山


蓼科山→霧ヶ峰→美ヶ原と移動した。
いかにも火山なゴロゴロ岩場の山頂はだだっぴろい。

怖い



霧ヶ峰

私は登ったけれども、リフトがある。
登山というより、ハイキング的な感じ。


美ヶ原

こちらも登山感はないけれども、最高点王ヶ頭はちょっと怖い。放牧地なのだが、柵を飛びだしてしまったであろう牛が元いた場所に戻れずに悲しそうに歩いていた。途中まで晴れていたが、突然雨雲が正面から襲いかかってきて走って逃げた。



仙丈ヶ岳 


登山口まではバスで向かう。混み合った車内で、異様に目のキラキラした男性が「気にせずぼくのザックの上に貴方の荷物乗せてくださいね!」と言ってくれた。人生で出会った人の中で最も溌剌としていた。赤いザックのお兄さんありがとう。見た目は完全にポケモンの「やまおとこ」。

今まで登った山で一番美しかったように思う。何よりこの日は体調がよかった。下山時は正面に甲武信ヶ岳が見える。「きったねぇ鳥」が常時私の周りをウロウロしていたようだが「きったねぇ鳥」ごとき特に報告する必要はないと思ったらしく、私だけ見損ねた。雷鳥である。

小仙丈ヶ岳を先に通る時計回りルートと反時計回りルートがあるのだけれど、前者の方がいいんじゃないかと思う。

正面に甲武信ヶ岳

帰りのバスの時間までに下山するのだけれど(早い方のバスに乗れた)、間に合わなかったらどうなるのか知らない。


大菩薩峠

なだらか。ご来光を見る山という感じ。



荒島岳


雨。案外、鎖場とかあるけれど、まあ大丈夫。
雨ゆえに山頂は真っ白の虚無だった。


木曽駒ヶ岳

途中から雨。稜線歩きは吹き飛ばされるかと思った。本来は初心者向けの稜線歩きを楽しむ山らしい。何も見えなかった。



瑞牆山


蜂に追いかけられて買ったばかりのサングラスをなくした。中学生の行列とすれ違ったが、遠足で登るにはきつい山だと思う。梅雨の晴れ間にあたり、売店のおばちゃんに「ついてる」と連呼された。山頂の景色のインパクトがすごい。珍しく晴れた山。

⚪︎⚪︎⚪︎


恵那山


その日は体調が悪く、到着次第ゲロを吐いた。なお彼氏においていかれ、登山道に入りそこね、ひとり直進、二時間ロスした。帰るものかと思っていたが登山は続行される。藪漕ぎあり。山頂は展望なし。途中、キレて泣いていた記憶がある。


丹沢山


この中ではしんどかった山ナンバーワン。とにかく距離が長い。登山口に、「低山だけどなめるなよ」的な看板が立っていた記憶がある。普通は「塔ノ岳」で降りるらしいが、丹沢山まで行った。道中はしんとしていて、谷を見下ろしながら何故か人類が滅亡した後のことを考えていた。こちらも山頂は展望なし。下山直後のサブウェイが身に染みる。


伊吹山


雨で撤退を繰り返したが、三度目の正直で登る。

山頂からは、白山が見えた。


四阿山

深田久弥の百名山にあるのは四阿山だけど、山頂は地味である。そこから「根子岳」までの景色が素晴らしいので周遊するのがいい。

根子岳に至る登り



焼岳


雨。山頂は真っ白だった記憶しかない。晴れていると景色が良いらしい。

下山時「クマが出たよ」とすれ違う人が悉く忠告してくれたので、この中で真っ先にやられることはないだろうという考えのもと、見知らぬ老人グループに紛れ込んで歩いた。下山しながら、サンダルで「ほんとに行ける?」「帰ろうよ」と言いながら歩く若い女性たちや、Tシャツ短パンで「Hi!」とにこやかに挨拶してくれた白人男性とすれ違ったが、彼/彼女らは無事山頂までたどり着いたのだろうか。


乗鞍岳


焼岳に続いてその日のうちに登山。引き続き雨。ダブルピッケルのムキムキのオジサンから、腰の高さまである階段を泣きながら登る幼児までいた。一瞬だけ途切れた雨雲から見える景色が素晴らしかったので、晴れていれば美しいのだろう。


バエない白さ



御在所岳


中登山道を行く。登山口に「この人探しています」の立て看板があった。途中、ロープウェイに乗っている人たちから「物好きな…」と見下ろされる。最後はロープウェイ/リフト組と合流するので、なんだか異文化交流している気持ちになる。山頂はやたらとカップルが多かった。

エノキダケの根元みたいな霜
帰りはロープウェイを使った



大仙(鳥取)


雨。とにかくそこかしこに白い花が咲いていた。山麓に神社があるのだが、そこの神職がめちゃくちゃ感じが悪い。口コミでも神職がめちゃくちゃ感じが悪いと書かれていたのでまあそうなのだろう。今もいるのかな?


白山


雨。初めての山小屋泊。星空見られず。個室が取れず、男女混合の雑魚寝であったが、夜いつまでもスマホを見ている人や、ヘッデンをつけて何度もトイレにいく人に囲まれて心底ストレスが溜まった。晴れていると、山頂でご来光に合わせ万歳三唱が行われるらしい。下山時は少し晴れ、高山植物が霧の中に見えた。


立山


到着するまでに、ケーブルカー、トロリーバス、ロープウェイと各種乗り物に乗る。その中でやたらと「破砕帯」について聞いたり読んだりする。

予定の日は雨。一泊し、スッキリ晴れ渡ったところを翌日登った。夏場は山頂に神職が常駐しており、時間ごとに祈祷してもらえる。雄山から大汝山までの景色が綺麗なので、最高峰まで行ったほうがよいと思う。そこでオコジョが岩の奥にかけていくのを見た。

なお某山荘でローストビーフを食べたところ、カンピロバクターになった。そもそも何故ローストビーフなのだろう。味は良かった。

雄山と大汝山の間から見た(多分)


ここを最後に、山は登っていない。

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