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珍しい笑顔


「えるちゃんが、笑ってる!」

高校生。わたしは教室で本を読んでいた。

休み時間、本からふと目線を上げたとき、ふざけて遊んでいるクラスメイトが目に入った。

その光景が面白くて、思わず頰が緩んだ。

目があったクラスメイトたちが騒ぐ。

「こっち向いて!わぁ、ほんとだ。えるちゃんが笑ってる!」

ただ笑っただけなのに、どうして?

なんだかよくわからないけど、みんなが笑ってるし、いいや。

その時は、クラスメイトの発言の意味がわからなかった。


私は休み時間、本を読んだり窓の外を眺めるのが好きだった。

友達がいない、とかではない。

私にとっての友達は、休み時間ごとにおしゃべりをしたり、一緒にトイレに行ったりするようなものじゃなかった。

群れることが苦手だった。

どこかのグループに所属するのも嫌だったから、一対一の関係を作っていた。

それでもそんな私をみんな受け入れてくれていたし、そんなポジションにいれるのがありがたかった。

そんなわけで、仲の良い友達の前以外で私が騒ぐことはあまりなかった。

だから、珍しかったのかもしれない。

私が笑ったことに喜ぶクラスメイトを見ながら、

動物園みたいだな、と思っていた。


この間、たまたま駅のトイレに入ろうとしたら高校のクラスメイトが出てきた。

私がニコっと笑うと、少しびっくりしながらも笑みを返してくれた。

会話をしたわけでもない。

近況を話すような仲でもなかった子だったけど、
なんだかほかほかと嬉しかった。

昔の自分がちゃんと存在していて、
今の自分の中に生き続けている。

過去は遠くなればなるほど、あやふやになってくる。

だからこそ、ただの記憶じゃなくちゃんと私を覚えている人がいるのが嬉しかった。

そして、なんの躊躇もなく微笑み合うのがなんだか新鮮でもあった。


今、私の笑顔は珍しくない。

それがとっても嬉しい。




言葉を綴ることで生きていきたいと思っています。 サポートしていただいた分は、お出かけしたり本を読んで感性を広げるのに使います。 私の言葉が誰かに届きますように。