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フォークリフトの免許を取りに行った話(3/4回)

前回のつづき)

講習3日目(実技2日目)

講習も半分が過ぎ、実技も2日目となった。
早く始めれば早く終わるので、予定時間の10分前には全員が集まっており実技講習がスタートできた。
月曜~金曜の間に誰もインフルエンザにかからなかったのが幸いである。

おっちゃん先生も元気そうで、出欠をボソボソと取ってからタバコを吸い始める。

そしてこの日からフォークリフトで持ち上げる荷物を使う実技講習となった。

パレットというフォークで扱いやすい板の上に1トンのコンクリートの塊が載っている。
これが実技で使う教材らしい。試験でもこれを扱うので、しっかり扱いを勉強せねば。


参考画像。荷物が乗っているのがパレット。この隙間部分にフォークを差し入れる。

まずは地面に置かれたパレットの隙間にフォークを差して持ち上げる練習。
ハンドル横のフォークレバーを操作して上げ下げするのは面白い。

次の実技は持ち上げた荷物を抱えて走る練習。
90度のカーブを上手に曲がって戻ってくる。
フォークリフトは小回りが利くのでこのへんはすいすいできる。

相変わらずおっちゃん先生は2回ほど見本を見せてボソボソ解説してプレハブでくつろぐライフスタイルを送っていた。

しかしこのあたりから難易度がアップする。
荷台への荷物の積み下ろし、通称『二段取り』『二段積み』が始まった。
学校にあった朝礼台みたいなところの中心に教材用の荷物を中央に置くわけなのだけど、始めたばかりだとこれが難しい。
なぜ二段かというと、荷物を置く場合にしても、まずは荷台の端っこに置き、フォークの位置をずらして再び持ち上げて中央に置き直す。(二段積み)
荷台から取り出すにも、いったん端に置いて再び持ち上げる。(二段取り)
実技で使用する荷台の上は色分けされており、中央部に載せないとズレが一目瞭然となっている。

フォークに載せた荷物がまっすぐになっているか、それをズレなく台へ載せることができるのかどうかの空間把握能力が問われるようになったのだ。
同時にこれは実技試験に近づいているということでもあり、これをクリアできれば合格にも一気に見えてくる。

さすがに難しくなり、一時期減っていたおっちゃん先生の雷も再び増え始めた。
一人がこなす作業も長くなったので、早い人でも4~6分、ゆっくりペースの人は二段取り、二段積みの動作に8~10分ほどかかることになる。
そのため自分の番が回ってくるのは1時間に1回程度になり、極端に暇になったのもこのころだ。
しょうがないので同じ班の人と世間話をして時間をつぶしたりする。
それから荷物の積み下ろしを2回ほどやってからこの日は解散となった。

明日は試験と同じコースをひたすら乗って、試験のルートに慣れてタイムを縮める練習をするという。
1トン以上の重さを扱った緊張感からか、この日は家に帰るとぐったりとしてすぐ寝てしまった。

明日はいよいよ最終日。無事に免許はもらえるのだろうか。

講習最終日(実技試験の日)

4日間の講習会も今日でラスト。
やる気のある我々は今日も早朝から集合しており、5分早く講習をスタートさせた。
集合時間厳守は社会人参加者が多い講習ならではといったところか。

おっちゃん先生のやる気のない出欠のあと、改めて今日の予定が発表される。

「試験と同じコースをひたすら走れ」
「とにかく走って6分以内にしてくれ」
「あとは教えたとおりにやれば大丈夫だ」

フォークリフト試験のルートはこんな感じ。

スタートしてすぐに直角に曲がり、荷台へ。
荷台から荷物を二段取りしてフォークを調整して抱え込む。
抱え込んでから切り返しを行い、コースを走る。
走って3回曲がった先に別の荷台があるので、そこに荷物を二段置きする。
置き終わってからバックで切り返して指定位置に停車。

発車前の安全確認、バック時と発進時の左右確認声かけもしっかりしなくてはいけない。

制限時間は6分。(細かい部分や制限時間は主催団体や教習所によって違うらしい)

これを午前8時から1日かけて覚えてタイムを縮め、午後5時から試験になるという。
フォークリフトの実技試験は減点式であり、100点からマイナスされていき、70点を下回ると不合格となる。
最もわかりやすく点数が引かれてしまうのが6分の制限時間オーバーで、30秒超過するごとに3点引かれる。もし10分を過ぎてしまうと合格することはほぼ不可能になる。
とにかく安全に合格するためには6分以内に走りきることが大事となるわけだ。

センスのいい子や会社でフォークリフトをいじったことがある人はタイムも良好で、最終日朝の段階で4分を切るレベルになっていた。運転がおぼつかない人でも6分程度。
つまり、タイム的に見ればほとんどの人は問題なしで合格は結構固いのだ。
それでも本番のプレッシャーで、1分近く練習よりもタイムは遅くなるらしい。
だから速いタイムを安定して出せるようになることが大事だという。

試験のルーチンをいかに早く正確にするかという部分に来ているので、おっちゃん先生が口を出してくることはめっきり減った。
そして、午前の部も終わりに差し掛かったころにストップウォッチを持ってそれぞれのタイムを計り始めた。気になる私のタイムは4分半ほど。あとは本番でこの力を発揮するだけだ。

お昼前に「もうこの時点で皆さんは大丈夫だけど、もしフォークに落ちたら一生会社で言われるよ」と、お前たちに教えることは何もないという感じにまとめられ、ついでに釘を刺された。
もし不合格が会社にバレると一生いじられるという。それだけフォークに落ちる人は本当に珍しいらしい。

午後になると最後の追い込みとばかりに、試験のコースを走る。
皆のスピードアップも顕著になっていて、1時間に1回の順番が40分に1回ほどになっていった。それぞれが1~2分タイムを短縮していることがうかがえた。
この辺になると自分も体が覚えてくるレベルに到達してきたので、変に意識することなく走ることができるようになった。
それでも不安なのが、最後の関門である二段置き。
ちゃんとまっすぐにおける確率が2割程度なのだ。
この部分だけはいつまでたっても上達しないまま試験の時間を迎えた。

試験開始は午後5時。12月で日も落ちた中で会場のライトの明かりを頼りにコースを走ることになる。
練習をしていた日中とは勝手が違いそうだ。

おっちゃん先生から試験の注意事項を申し渡される。
他の人への助言は一切してはいけない。発覚した時点でその人は失格となる。
それまでの助け合いの精神で、同じ班の人へは「サイドブレーキしてないですよ」「荷物おろしてないですよ」という声掛けが行われていた。当然だが試験中の助言は一切禁止のようだ。

こうして試験が開始され、番号の若い人からスタートしていった。
さすがにこのときばかりは、おっちゃん先生はフォークリフトの近いところを歩きながらチェックをしていく。
ところがおっちゃんはあまり熱心にフォークリフトを見ていない。
声出しの不徹底やハンドルの握り方などは減点対象になるはずなのだが、その辺はほとんど見ていないようだった。
何を見ていたかというと、二段置きしたあとの荷物のずれだけは念入りにチェックしていた。自分が最も見られたくないところなのに……と不安になる。

そしてとうとう自分の順番がやってきた。
現在の仕事ではフォークリフトに乗ることはないので、もしかするとこれが人生最後のフォークリフト乗車だ。前方ヨシ!右側ヨシ!と大きな声で安全確認をして乗り込む。

サイドブレーキを下ろして発進。
二段取りは荷台の真正面に運よく停まれたので、スムーズにフォークに積み込むことができた。
抱えて走りやすい状態してコースをアクセルを踏んで走っていく。アクセルを要所で踏むのが合格への近道だ。
そして最後の難所、二段置きの荷台へとやってきた。
自分なりに調整して荷物を置くときになって気が付いた。
あれ?めっちゃズレてる!!
前後は問題ないのだが、右方向に15cmほどズレていたのだ。

数瞬思案をする。

・ズレを修正するためにフォークに荷物を積んだまま前進・バックで位置を修正する
・15cmのズレをそのままにして時間内にゴール

のどちらが良いことだろうか。

私は後者を選んだ。
おっちゃん先生は制限時間以内にゴールをすることが大事だと言った。
修正のためにウロウロして変に減点されて時間をオーバーするよりも、
多少のズレはそのままでヨシ!
とにかく制限時間内に走ればヨシ!
と脳内の現場猫がささやいたのだ。

15cmのズレを残したままバックで切り返し、所定位置に停車。

こうして私の試験は無事(?)終了した。
おっちゃん先生は私が置いた荷台をチェックしていたので、ズレはバレバレだったはず。
それでもほかに大きなミスもなく、制限時間内に走れたと思うので大丈夫だという気持ちはあった。

最後の人が終わると、おっちゃん先生がB班全員を集めた。

「エー皆さんの気になっていること先に言うとね、みんな合格よ」

あっさりすぎる合格発表に拍子抜けするとともに、うれしさがこみあげてきた。
簡単な資格といわれるフォークリフトだけど、座学を含めてまる4日間通って頑張ったことがしっかり評価されたのは単純にうれしく思った。
見ていてB班の人たちは大きなミスもなく、しっかり走れていたので全員合格も当然だった。

おどろくことに、同じ人数のA班よりも10分以上先に全員試験が終わっていた。ひとりあたり1分以上早い計算となる。
ということは、もしかすると手取り足取り教えていたA班の先生よりも見て覚えろを地で行くB班のおっちゃん先生の方が優秀なのかなと思ったけど、それは気のせいだと思うことにした。

合格発表後に座学をしていた教室に戻り、修了証の授与が行われた。
この修了証がフォークリフト免許になる。

A班B班も全員合格でめでたしめでたしとなった。
教室を出てからB班の人たちにお疲れ様でしたと言葉を交わし、すっかり暗くなった町中を家路についた。

(つづく)