おにぎり太郎(ジャンププラス原作大賞読切部門応募作品)

●1、おにぎり太郎
 昔々、ある所に「おにぎり太郎」という少年が居ました。
 太郎はおにぎりが大好きで、村のみんながそう呼んだのです。
 ある時、太郎が江戸川の土手で、スマホでTikTokを見ながらおにぎりを食べていると。
 (※本作ではTikTokを用いましたが、出版の際は状況に合わせて変更してください)
 誤っておにぎりを転がしてしまったのです!さあ大変!
 おにぎりは速度を上げてどんどん土手を転がって行きます。
 それを必死で追いかける太郎。ついに足がこんがらがり、藁をもつかもうと空に手を伸ばすと、誤ってスマホを空に放り投げてしまったのです!
「あーっ!」
 スマホはおにぎりを飛び越え先の方に落っこちました。
 そこへちょうど、おにぎりが転がってくると、何と!おにぎりがスマホの中へ吸い込まれてしまったのです!
「えーっ!」
 それを見て驚く太郎。しかし自分も足がこんがらがってしまい、ついにはコロコロ転がって、太郎もスマホの上へ転がって来てしまいました。
 すると何と!太郎もスマホの中に吸い込まれてしまったのです!

 ”ピューン!”

 太郎は起き上がり、辺りを見回しました。
「イテテテ…、ん?あれ?これってもしかして…、スマホの世界に入っちゃった!?どうしよう!?」
 驚く太郎。一体どうなるのでしょう?

 ●2、スマホの世界
 スマホの世界に入ってしまった太郎は、辺りを見回し、何とか脱出できそうな方法が無いか探しましたが、何も見つかりませんでした。
 途方に暮れる太郎。しかしそこへ、太郎へ呼びかける女性の声が聞こえました。
「困っているようですね太郎」
 太郎が驚いて声のする方へ振り向くと、そこには光に包まれた女神が微笑んでいました。太郎は驚いて訪ねました。
「え?!あなたは誰ですか!?」
「私はスマホの女神です」
「スマホの女神!?」
「おにぎりの女神です」
「え?!どっち?!」
「ともかく、太郎、あなたはスマホの世界に入ってしまいました。出たいですか?」
「うーん。ぼくはおにぎりが食べられれば結構どこでも暮らして行けるんですけど…」
「太郎、この世界には食べ物の概念はありません。つまり、あなたの大好きなおにぎりはもう一生食べられません」
「えー!そ、それは困ります!どうしたら出られるんですか!?」
「TikTokでバズるのです。そうしたら元の世界へ戻れます」
「なんですかそのルール!?誰が決めたんですか!?」
「そういう設定なのです。あなたのここでの面白い行動は全てTikTokに流れますからね。それでは頑張りなさい」
 女神はそう言うと、光と共に消えてしまいました。
「えー!ちょっと、何だよそれ!」
 太郎は女神を追いかけようとしましたが、姿を消してしまい、どうしようもありません。
「はあ。こうなったらやるしかないか…」
 諦めた太郎は、仕方なく、TikTokでバズる事を目指し、ダンスをしたり、一発ギャグをしたりし始めました。
 果たして太郎はバズって元の世界に戻れるのでしょうか?がんばれ太郎!

 ●3.海苔子の部屋
 所変わって、ここは現実の世界。一人の女の子が、自分の部屋で、鏡を見ています。
「私は、海苔子、地味な女の子。私は自分を変えたいの」
 海苔子は鏡を見ながら笑ったり、色んな表情を作っています。
 でも、可愛くなりたいのに、上手く行かず、海苔子は鏡を置いてスマホを見始めました。
「はあ。もう顔出しでTikTokでもやろうかしら?でもどんな動画がいいかな?うーん、そうだ!私、おにぎりが好きだし、おにぎりダンスなんてどうかな?ウフフ」
 海苔子は心の中でそうつぶやきながら、『おにぎりダンス』で検索してみました。すると、1件だけ検索結果が出てきました。
「え?!何この人?!」
 海苔子は驚きました。そこには何と、おにぎりダンスを踊っている、おにぎり太郎の動画があったのです。
「もうやってる人が居たわ。でも再生回数1だって。私が最初かしら?えーでも面白い。この人、顔もおにぎりみたいだし。ウフフ。それに、『バズらないと出れません』だって。面白い事書くわね。ウフフ」
 そうです。太郎は助けを求めて本気で『バズらないと出れません』と書いたのです。でも、海苔子は冗談だと思ったのです。
「変な人。ウフフ」
 海苔子は太郎のおにぎりダンスを気に入ってしまい、ニコニコしながら何回も再生してしまいました。
 果たしてどうなるのでしょうか?

 ●4.スマホの世界でがんばる太郎
「おにぎり~!おにぎり~!はい!おにぎり~!おにぎり~!」
 太郎が笑顔でおにぎりダンスを踊っています。でもすぐにガックリし、女神様に訪ねました。
「女神様。どうですか?バズりましたか?」
「うーん。相変わらずねぇ。そもそも一人しか見てないわ」
「えー!?たった一人!?」
「まあでも一人が沢山見ても良い事にしましょう。がんばりなさい」
「しましょうって何ですかもう…」
「私がこの世界のルールです!」
「わかりましたよ…やりますよ…」
 スマホの世界では女神の言うことは絶対なのです。
 ルールに従ってがんばるしかありません。
 太郎は一生懸命おにぎりダンスを踊りました。
 それを見て、女神はニコニコ微笑んでいます。
 太郎はバズる事が出来るのでしょうか?

 ●5.江戸川の土手
 ここは、太郎がスマホを落としてしまった江戸川の土手の近くです。
 そこへ、一人の女の子が、スマホを見ながら、辺りをキョロキョロ見回して歩いてきました。
「うーん。この辺かなあ?」
 そうです。その女の子とは、海苔子でした。海苔子は太郎の動画を見続け、その再生回数はついに9999回になったのです。そして、海苔子は確信していました。この動画を見ているのは自分だけだと。そして海苔子は、この動画の場所を見つけ出し、記念すべき1万回目の再生を、同じ場所でしようと思ったのです。
「えーと。あの風景。江戸川の土手の側に、取水塔があった。だから絶対にこの辺だと思うんだけど…」
 海苔子がキョロキョロしながら、動画と同じ風景を目指して歩いくと、ついに、全く同じ景色の場所に辿り着きました!
「あった!ここだわ!」
 海苔子は満面の笑みを浮かべました。何千回も見た動画の風景と全く同じ場所に居るのです。
「ついに辿り着いたわ。ウフフ。あの人もここで撮ってたのよね。ウフフ。じゃあ、記念すべき1万回目の再生を、ポチッとな!」
 海苔子は心の中でそう言いながら、太郎の1万回目の動画の再生ボタンを押しました。
 すると突然、周囲が輝き出したのです!
「えー!何?何が起きてるの!?」
 驚く海苔子。周囲の輝きはますます増しています。一体どうなるのでしょう?

 ●6.スマホの世界から脱出!?
 海苔子の周り、現実の世界で起こった世界のきらめきは、スマホの中でも起こっていました。
「え?え?何?何?世界が輝いてる!?何が起きたの!?」
 驚く太郎に、女神が優しく語りかけました。
「おめでとう太郎。ついに1万再生です。がんばりましたね。元の世界に帰りなさい。もう戻ってきちゃだめよ。ウフフ。さようならー」
「え?え?何?何?戻れるの!?」
 太郎が訳も分からずあちこち見回していると、上空から光の柱が差し込んで来て、太郎はその中に吸い込まれて行ってしまいました!
「うわー!」
 太郎は元の世界に戻れたのでしょうか?どうなんでしょう?

 ●7.江戸川の土手。太郎と海苔子
 ここは江戸川の土手。太郎の落としたスマホのある場所です。そのスマホが今、輝き始めました!その光に驚いて、海苔子が振り返りました。
「えー!今度はスマホが光ってる!どうなっちゃうの!」
 海苔子が驚いて光るスマホを見ていると、光の柱が立ち上りました。そして光が収まると、そこには何と、おにぎり太郎の姿があったのです!
「はっ!戻れた?!元の世界だ!やったー!」
 太郎は両腕を上げ、飛び上がって喜びました。それを見ていた海苔子は驚いて声を上げました。
「えー!?おにぎり太郎さん!?スマホから出てきた!?あの話って本当だったの!?」
 海苔子に気づき、自分の動画の話だと察した太郎は答えました。
「あ!はい!本当です!動画がバズってスマホから出られました!いやー、一人しか再生してなかったっぽいんですけど、それでもオッケーだって。いやー、よかった。それにしても、誰なんだろうなぁ…」
 そうです。動画の再生者はたった一人。それが誰かを太郎は知りません。そこへ、海苔子が打ち明けました。
「あの…それ…たぶん私です!太郎さんの動画再生数一桁の時から見てて、面白いなって思って一人でずっと再生しちゃって、それで、1万回目の記念に、どうしてもこの動画の場所に来たくて、それで再生したら、太郎さんが突然…」
 驚く太郎。そうです!今、目の前に居る海苔子こそが、太郎をスマホの中の世界から救い出してくれた女の子だったのです!
「じゃあ、君が、僕の命の恩人…。あ、ありがとう!君の名は?」
 太郎が照れながら、海苔子の名前を訪ねると、海苔子は恥ずかしそうに答えました。
「海苔子…」
「海苔子ちゃん…へへ」
 二人はとても良い雰囲気になりました。しかし不器用な太郎は照れるばかりで何も言い出せません。海苔子も同じく恥ずかしがり屋で何も言い出せません。
 しかし、そんな中、海苔子が意を決して太郎に話しかけました。
「あ、あの!もしよかったら、今度2人でおにぎりダンス動画撮りませんか?コンビでTikTokerみたいな…」
 海苔子の急な提案に、太郎は驚きながらも嬉しくなり、こう答えました。
「オッケーおにぎり!」
 なぜだかわかりませんが、頭の中に急にそんな言葉が浮かび、太郎はそう答えました。
 その言葉を聞いて、海苔子は笑ってしまい、楽しくなって、こう返しました。
「オッケーおにぎり!アンド海苔子!」
 その言葉に、二人は可笑しくなって、何度もその言葉を繰り返しました。
「オッケーおにぎり!アンド海苔子!あはははは!」
 こうして2人はすっかり意気投合し、手を繋いで帰って行きました。

 それから2人は、人気TikTokerコンビになり、幸せに暮らしましたとさ。
 めでたし、めでたし。おにぎり、おにぎり。<おわり>


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