うみねこのなく頃に 感想(ネタバレ含)(3/20 追記)

1/15からEP1を遊び始め、本日(3/19)EP8において「魔法」の扉を開いて最後まで読み終わりました。

結論

結論から書くと、サウンドノベルとして大変楽しめて満足しています。

キャラクターはかわいかったり愛嬌があったり意外な男気があったりとみな個性的で、キャラクター同士の関係性に心がときめくことも多く(楼座と真里亜、ベアトリーチェと戦人、古戸ヱリカと戦人、ラムダデルタとベルンカステルが特に好きです)(ここの名前順はいわゆる”受け攻め”を意味しません)、キャラクター同士、あるいはEP間の対比構造なども見事で、本当にいい作品だったと思います。
密室殺人や碑文などの謎解き要素も手ごたえがあり、とくに碑文は一週間それのことばかり考えて過ごしていた時期があったくらいでした。
シナリオやキャラだけでなく、立ち絵と音楽も物語の良さを引き立てる素晴らしい出来でした。竜騎士07先生の絵が昨今の人気イラストレーターのそれと比べて技量の面で劣らないとは口が裂けても言えません。しかし絵自体の出来ではなく、絵によって表現されるキャラクターの感情の動きが大変見事だと思います。差分芸がすごいとでも言えばいいんでしょうか。私がとくに感動したのはベアトリーチェと古戸ヱリカの表情差分で、両者ともテキストと噛み合わない部分がほぼなく、ときにテキストに書かれている以上の情報を伝えてくれる差分で、「ノベルゲーの立ち絵」としては白眉の出来でしょう。

読んでる最中のログ

@kimehito のツイートは消してしまいましたが、読んでる途中のまとめは一部ですが以下に残っています。

・EP2終了段階 https://fusetter.com/tw/eKbdFQpg
・碑文についての予想(EP3冒頭段階) https://fusetter.com/tw/PIEDvyZK
・EP3終了段階 https://fusetter.com/tw/L1AP0Tc3

各EPのプレイ期間は以下の通りです。

EP1 1/15-1/17
EP2 1/17-1/19
EP3 1/18-1/22
EP4 1/22-1-24
EP5 1/24-1/28
EP6 1/28-2/17
EP7 2/19-3/12
EP8 3/13-3/19

EP6をやってる最中にちょっとしたトラブルがあってプレイを中断していましたが、なんとか完走することができました。
ちなみに、碑文の謎解きに挑む際によちよち歩きのpowershellを使っていたのですが、親切な方がPythonで私のやったことを書いてくれたようなので紹介させていただきます。


読み方

年末年始(12/27-1/3)にひぐらしをプレイしましたが、あちらはアプリ版をiPadで遊び、肩ひじ張らずに寝転がって読んでいました。
ひぐらしを読み終えてから「もっと真剣に謎に向き合えばよかった」と思い、うみねこではPC版を購入し、襟を正して真剣に読んでいます。結果論で言えばこれは正解で、作中で「ちゃんと真剣に読んでくれ」という作者の訴えを感じ、自分なりに真剣に読んできたことに安堵の気持ちを抱いた瞬間もありました。ただし、「私は本当にちゃんと読めているのか?」といった疑問は常に頭の片隅にこびりついていましたし、結局最後まで読んでわからなかった点も多いので、真剣というのは態度に限った話で成果が真剣かというとそれはそうではありません。

序盤は魔法を否定して全部人間説で説明してやろうと考えてあれこれ穿って読んでいましたが、EP4で右代宮真里亜さんの魔法について理解するにつれ、真実ではなく登場人物の心と生き方のことについて考えながら読むようになりました。トリックについては自分なりにいろいろ考えて説明らしきものをでっちあげましたが、動機や人物の背景、歴史を知りたい欲求が強くなり、おかげさまでEP7を読んでいる最中は本当に幸福でした。お茶会を読むまではでしたが。

ウィルが出てきたときは「うわっArcadiaとかハーメルンのオリ主みたいなのが出てきたな」と身構えましたが、彼が真剣に愛をもってゲームに臨んでくれたおかげで最後にはウィルのことも大好きになりました。商業のコンテンツにせよWeb小説にせよ、視点人物が変わることでだるくなって読む気が失せることが多いのですが、EP7は抵抗なく読めたのでここは素直に作者がうまかったんだと思います。ひぐらしを振り返っても、赤坂や鷹野の視点に変わって最初はだるく感じましたが結局はのめり込むことができたので。ただ、祭囃し編については否定的な友人もいましたから、もしかしたら作者の技量うんぬんより相性の問題かもしれません。

終わり方(一なる真実が明かされなかったこと)について

私個人としてはこれで満足です。結局のところ、EP8の最後に「この物語を、最愛の魔女ベアトリーチェに捧ぐ」と書いてくれたので、そこで腹落ちしました。ベアトリーチェのための物語であるなら読者に大して懇切丁寧にすべてを書いてあげる必要なんてまるでないわけですから。
ただし、真実を明らかにしない終わり方には異論がありませんが、真実を明らかにしない理由を述べる過程は大変わかりづらく苦痛でした。EP8(EP7もその役割を担ってはいますがあくまでEP8がメインでしょう)がなんというか……あまり物語としてスマートでないというか、かなり読みづらくてとっちらかっていたため、プレイ中は「真実を確定させないことに感情的には賛成だけど、話がごちゃごちゃしていて作者がどういう筋道で何を言いたいのか読みづらい」みたいな状態になっていました。
ボトルメールにしても偽書にしてもある程度推理可能だなと思って読み進めてましたし、実際ウィルやEP7お茶会が見せたもので充分だという納得がありました。高校数学の証明問題で、前提も解き方もあってるけど途中式がいくつか書いていない回答みたいになっていて、省かれた部分は十分に類推可能でしょうし、うみねこがその詳細を詰める物語かというとそうではないな、と私は感じたので。ただ、この書き方がストレスであることは間違いなくて、私がわざわざ「省かれたが問題ない」などと御託を並べているのは自分のストレスを供養するためでもあります。そういう観点で見ればやっぱりEP8って不親切だし読者を無駄に試してますよね。

また、EP1からEP8まで一貫して右代宮戦人くんに肩入れして読んでいたせいもありますが、縁寿に肩入れする方向に心が動いた瞬間が本当に少なくて、EP8は終盤まで「なんで縁寿は早く戦人の願いを察してあげられないんだ」といらだっていました。未成年でつらい境遇にある少女がスマートに生きる方が難しいのは完全にその通りで、縁寿に戦人の願いを察しろというのははっきり言って無理筋のクレームだと思いますが、単に私の感情の話だけをすると縁寿に肩入れして読める部分は本当に少なかった。だからこそ、終盤になって縁寿と戦人が理解・共闘し、縁寿の選択肢がプレイヤーの選択肢となったときのカタルシスはとても大きく、読後の満足感につながるところが大いにあったとも感じます。

以下、作中で特に印象的だった部分をあげていきます。

古戸ヱリカについて

このゲームで一番かわいいのはベアトリーチェですが(信仰告白)、それはそれとして私の心を最も強く揺さぶったのは古戸ヱリカさんでした。初登場のEPでは最初こそ印象最悪でしたが、元カレに浮気されて知的強姦の快楽を覚えた経緯にぐっときて、戦人との結婚式やEP8を通じていつのまにか大好きになってしまいました。感情が高ぶると戦人のことを「ぶわっとらさあああん!」(うろ覚え)みたいに呼ぶところなんか本当によくて、醜いなあと感じながらも執着むき出しのところに強く心を惹かれます。
また、好き嫌いとはちょっと違う観点ですが、「知的強姦者」を自称しているところが何よりリスペクトできる点だと思います。自覚的であれば悪行が許されるかと言えばそんなことはないのですが、他人の秘め事を暴く行いの非倫理性を自覚しながらその快楽を追い求める倫理のなさ、自己中心的なところが大好きです。倫理があまりなくて自己中心的なのに、知的強姦が大好きなせいで他者と関わりに行ってしまう、他人を必要としてしまう構図も面白いし。忘却の彼方に追いやられることなく、敬愛する主人の手駒として復活出来てよかったね……と祝福したい気持ちがあります。

真里亜・楼座親子について

最高!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!! 一番好きな関係性です!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!
まず作中の描写では楼座ってネグレクトしてるし明らかに問題がある親に見えるわけですが、そこを魔法によってどうにかして自分を守り続けた真里亜さんは本当に偉大な人物であるわけですよね。そういった真里亜さんの善性、偉大さをさんざん描写した後にさくたろう殺しからの楼座殺しが描かれたことの衝撃はすさまじく、読んでる最中はずっとうめき声が出続けていました。真里亜のネグレクト描写が本当にすごくて、事情をある程度察した地域住民のやさしさに救われながら生きていくも、鍵を失くして家に帰れずおでんが冷めていく事件からの人形破壊、さくたろう殺しが実写ドキュメンタリーかそれ以上の大迫力、強すぎる実在感をもって描かれていて、こんなに児童虐待を上手く描けるのは竜騎士07先生だけではないかって今でも思っています。

楼座についても、昭和の社会背景を考えればシンママやりながら女性社長をやって会社を存続させている(楼座が金を必要としたのはあくまでも連帯保証人関連ぽい)というの、かなりすごいことですよね。右代宮家であることによって得たアドバンテージもあったのでしょうが、1人で子育てと社長を両立するのって本当にすごいことだと思います。いやネグレクトしてたから両立できてないんだけど。でもまあ大した病気やケガをさせた様子もなく子どもをあそこまで育てるのって本当に大変なことだと思うので、女手1人でそれを成し遂げて会社も潰さずにやっていけてるってかなりすごいですよね。
それはそれとして公衆の面前で真里亜をひっぱたいたり、物を壊したり、量産品を手作りと偽ったりするのは許せないなと思いますが……しかし許せないっていうのはあくまで私の感情で、楼座にも同情すべき点はたくさんあるんだよなというのがうみねこの味わい深いところですよね。人間関係、とくに親子関係について最初に出したものをひっくり返して裏側から描き、もう一度ひっくり返し、みたいなことを繰り返してどうしようもなさを演出するのが本当にうまい作品です。
これは邪推ですが、兄弟にいじめられて育った楼座が男を選ぶときって絶対に兄弟を彷彿とさせる人物は選ばないじゃないですか。それって要するに、蔵臼のように責任感があったり、絵羽のように努力家であったり、留弗夫のように要領がよかったり(犯罪まがいのビジネスをする性根を要領の良さで片づけていいかどうかは疑問ですが)する男を選べないんじゃないかということで、クズ男にひっかかって逃げられるのも運命だったんじゃないかと思ってしまいますね。これはあくまで私の邪推で、本編の描写に基づいた読解ではありませんが……
昭和の男社会で女社長をやりながらワンオペ子育てをできる強い人間の楼座でも”女としての幸せ”が欲しくなって真里亜を投げ出したり否定したりしてしまうつらさというか、中年女の生きづらさみたいなものを執拗に描いてあるのがうみねこの好きなポイントの一つです。夏妃、絵羽、霧江、楼座のそれぞれが違った苦しみを抱えていて、でも真里亜と楼座が最終的に互いに手を取り合ったかと思えば譲治と絵羽は決別という形になったり、いろいろな親子関係があることだなあ(小学生並みの感想)といったところですね。

うみねこの親子関係で一番心を抉られたのは真里亜と楼座のあれこれですが、一方でEP7お茶会の霧江による発言もとてもよかった。
「言ったでしょ、(子は)かすがい、って。留弗夫さんがいなくなった今、縁寿は私にとって、必要なものじゃないわ。」
「私たちって、子供が欲しくて結婚したの? 違うでしょ? 好きな男と一緒に暮らしたいから、結婚したんでしょ? そして、結婚したんなら、その男を一生、手放したくないと思うでしょ? 子供は、そのための武器じゃない。」
ここは本当に最高で、所詮子供なんて血縁があって法的に縛られてるだけの他人であるって思想もちゃんと紹介してくれてるんですよね。多様な親子関係の一つとして。完全に私個人の自分が足りですが、私も近い考えを持っていて人間全員が親(子)に思い入れを持っていることを押し付けられるのが何より嫌いでそういう思想自体も大嫌いなので、霧江さんのこの発言には大変胸がすく思いでした。作者がどういう意図をもってこのセリフを書いたのかはわかりませんが、私はこの部分を読んだときから救われた気持ちになっています。

安田紗代について

私は紗音/嘉音/ベアトリーチェ/安田紗代という存在について、Twitterで複数アカウントを使い分けてるようなもんだと理解しているのですが(どれが真とかではなくて全部がそれぞれ人格だし一つの肉体で共存しうる)、なんというか安田紗代のことを考えると逆にEP8で一なる真実が細部まで暴かれなくてよかったと思うんですよね。そもそも心を大切にするウィラードが探偵役のくせに安田紗代(≠クレル)に全然踏み込まなかった時点でなんか察する部分があるというか……この時代ならともかくうみねこ発売当時のオタクなんてどうせろくに恋愛経験なさそうだし(偏見)うみねこの真犯人の動機は複雑な恋心(という言葉ではとても片付けられないんだろうけど)に由来しますって言われても納得しないだろうしそこまで暴くのは知的強姦でしょう。
最初に惚れたのが戦人(しょうがなくはあるけど約束を忘れる)で次に惚れたのが譲治(子が産めない紗音/安田紗代に無邪気に子だくさんの未来を語る)ってのがまず不運だし、あと戦人の無責任な約束のせいで白馬の王子様待ち体質をこじらせてしまった、言い換えると人格形成をゆがめられてしまったのは本当に不幸なことだった。全部戦人が悪い。でも戦人くんだって未成年だし安田紗代も自分から約束を確認するコミュニケーションを模索してもよかったのかもしれない。未成年同士のコミュニケーションの事故、誰が悪いとかどうすればよかったとか考えるのも不適切なのでこれ以上は何も書きませんが……しかし本当に不幸な人だ。EP8がベアトリーチェに捧げられたことがわずかでも慰めになってくれればと思います。

ベアバト(カップリング)について

終始萌え萌えでした。ここでいうベアバトはEP2以降の盤上世界でやりあってるあいつらを主に指しますが、それが全てというわけではありません。EP7のクレルの語りや雛ベアトの振る舞いを念頭にEP1から読み返したらもっと萌え萌えになるんでしょうね。読み返すのが楽しみで仕方ありません。ちなみになぜベアバトと書いたかというと、ベアトリーチェに男性器を挿入できるかどうかは定かでないなと思ったのと、全裸家具戦人を見てなんだかんだでこいつらのセックスって戦人を責める方向に向かいそうだなと思ったからです。そんなことがあったかどうかは知らないけど恋が成就してベアトと戦人が結ばれるカケラがあったとして、男性器を女性器に挿入するセックスができない身体であることをベアトが打ち明けた場合、戦人がどう出るのかってまだはっきりとしたことが言えないんですよね。これから考えていきます。

残っている謎、これから考えていきたい部分

・縁寿周りの時系列。メタ世界の描写やカケラ移動?と思しき描写などいろいろ入り混じっているので整理しないと理解しづらい。ここは正直雰囲気で読んでいたのでまだよくわかっていない。
・フェザリーヌと八城幾子の関係性。古手梨花とフレデリカ・ベルンカステルみたいなもんかと思ったけどよくわからない。
・ベルンカステルとラムダデルタの因縁。ひぐらしのなく頃にで対決してたっぽいのはわかるけど、地獄のループに閉じ込められた古手梨花≒ベルンカステル(賽殺し編を見ると厳密にはフレデリカベルンカステルは古手梨花から零れ落ちた別存在っぽいけど)がラムダデルタを「愛する」ようになるのがよくわからない。これはたぶんうみねこをどれだけ読んでもわからなさそうというか、いまやってるらしいキコニアのなく頃にで明かされるのかもしれないと期待している。カップリングであることはわかるけど何がどうなってカップリングになったのかをね、オタクは知りたいんですね。

総括

本当に面白いゲームだった。薦めてくれた皆さんには感謝してもしきれません。ひぐらしとうみねこで竜騎士作品が好きになったので、いろいろ手を出してみる予定です。彼岸花と幻想牢獄がいまのところ優先順位高めで見ていて、それらが終わったらキコニアを読もうと思います。その前に「手品」の選択肢を見ないといけませんが……

「手品」の扉について(3/20追記)

こんなに急に強い百合カプが誕生することあるんだ。そして、縁寿さんを見くびっていて本当にごめんなさい。心からお詫び申し上げます。

私は「うみねこのなく頃に」を読み、自分自身の決意をもって「魔法」の扉を選択したので、わざわざ手品を選んでその先を見ることに何の意味があるのか……と思っていましたが、複数の信頼できる方々から「手品」も見てねとお願いされたので拝見させていただきました。

「手品」の扉を開く前までは、魔法を否定して生きていけるだけの強さが縁寿にあるのか、自殺まではいかないにしろセルフネグレクトに満ち溢れた人生を送ることになるのでは……? という懸念を持っていました。完全に縁寿を舐めていましたね。EP4で魔女にひき肉とされて悲鳴さえ上げなかった彼女の強さを忘れてしまったこと、本当に謝らなければいけないと思います。

「ひぐらしのなく頃に」では竜宮レナさんと園崎詩音さんが好きなのですが、「手品」の縁寿は完全にその系譜(レナさんと詩音さんは明確に別人格ですがある種似た因子を持っていますよね?)というか……頭が回って並外れた実行力、倫理を凌駕する意思がある女性は最高。

そして、そんな縁寿の旅の道連れとして古戸ヱリカが登場するのが予想外だったけど考えれば考えるほど納得させられるというか、絶対に相性はよくないけど一緒にいることに違和感はないというか……同じカップリングを推してて解釈も一致するけど心の底では人格の不一致を感じているような関係性とでも言えばいいんでしょうか。この二人がちくちく皮肉を投げ合いながら事件あるところに颯爽と現れて探偵をするスピンオフとかないんですかね?
「うみねこのなく頃に」のカップリング萌え要素、ベアバトは揺るぎありませんが「手品」の縁寿・ヱリカが急にランクインしてきちゃいました。縁寿とヱリカのカップリング、萌え萌えなので……

結局のところ私は自分自身の考えをもって「魔法」の扉を開いたし話としては「魔法」のほうが好き、でも「手品」には良いカップリングがあるし縁寿の人格は後者の方が私の好みだな、というところに落ち着きました。心が二つあるよ~。

てか書いてて思ったんですけど「手品」の縁寿って最終的に航海者の魔女になってる可能性ありますよね? 絶対に見たいのですが……

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