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旗本ヒロさんへの回答

【0.はじめに】

この記事は、先日の記事「日本は本当に『原発を狙われたら終わり』なのか?」に対する、私のTwitterでの友人「旗本ヒロ」さんからの反論に
答えるために作成しました。

興味にない方は読み飛ばしてください。

旗本ヒロさんの反論は、こちらのツイートからのツリーを参照。

お待たせいたしました、それではこれより回答します。

【1.議論の前提】

まず前提として以下のことをご理解願います。

1)「主権国家は平等」が国際社会の原理原則
2)「自衛権」は主権国家に与えられた「正当な権利」
3)主権者である国民の「生命」「安全」「人権」を保障するのが主権国家の重要な目的
4)建前や原理原則を貫くのはあくまでも「手段」であり「目的」ではない

以上を踏まえた上で、疑問点に回答していきたいと思います。

【2.日本攻撃の「目的」】

『中国や北朝鮮が日本を弾道ミサイルで攻撃する「目的」はなんでしょうか?』とのことですが、現時点で北朝鮮が日本を弾道ミサイルで攻撃する目的は「ほとんどない」と推測します。
あるとすれば、韓国+アメリカとの間に本格的な戦争が勃発した際に、日本にある米軍基地を攻撃するぐらいだと思います。

中国に関しては「台湾有事」だと思います。
中国は「西太平洋地域で紛争(台湾有事)」が起こった場合、作戦領域への米軍の進出を遅滞させ、同領域での行動の自由を妨害する「接近阻止・領域拒否(A2AD)戦略」をとってくると予想されています。

その際には「弾道ミサイル」等で米海空軍の作戦基地等を「先制奇襲攻撃」して麻痺させるとともに、米空母の撃沈・無力化を目論むと予想されています。
当然、日本にある米軍基地も攻撃されると思われます。
したがって「中国が日本を弾道ミサイルで攻撃する目的」は、「台湾を軍事制圧するため」と推測します。

【3.国の重要な政策を変更するな?】

『辻本議員の言っているのはむしろ「国の重要な政策を変更するな」ということではないですか?』とのことですが、国の外交や防衛などの指針である「安保関連3文書」は閣議決定されました。
つまり「敵基地攻撃(反撃)能力の保有」は「国の政策」となったわけです。
当然防衛は重要ですから「国の重要な政策」になったと言えます。

もちろん「閣議決定でなんでもできる」わけではありませんが、防衛計画の策定は内閣が決定することです。
そして「現在予定している能力の保有」は日本国憲法にも国際法にも違反しないというのが政府見解です。
「どのような能力を持つか」と「その能力をどのように行使するか」で違憲・違法が決まるのです。

国際法学会HP 敵基地攻撃能力と国際法上の自衛権 より

【4.「敵基地攻撃能力の保有」と「原発の推進」は矛盾しない】

『「原発という弱点をなくすどころか増やそうとしながら敵基地攻撃能力を持とうとする矛盾」を批判している』とのことですが、「敵基地攻撃能力の保有」と「原発の推進」は矛盾しません。
隣国「韓国」はすでに「弾道ミサイル」を保有し、さらなる増強を計画しています。
そして現政権は原発も推進しています。

日本と似た状況の「台湾」も長射程の「巡航ミサイル」を保有しています。
そして一度は「脱原発」を決定しましたが、その理由は「事故への懸念」や「環境への配慮(再エネ推進)」であり「攻撃に対する脆弱性」ではありません。
すくなくとも表向きは。

台湾は2018年の住民投票により「脱原発政策」にストップがかかりましたが、これは「電力安定供給への懸念」が原因ですね。
現政権の方針は引き続き「脱原発」のようですし、今後の先行きは不透明です。

もしかしたら、台湾が住民投票により否定されても脱原発政策を進める背景には、原発の「攻撃に対する脆弱性」があるのかもしれませんね。
しかし台湾政府はそれを表向きの理由にはしていません。
これには原発攻撃は非現実的であり、「国際法違反の攻撃を理由にするのはまずい」という判断があるのかもしれません。

「国際法違反の原発攻撃」を理由に原発を廃止すれば、「国際法違反の攻撃が脅しとして有効」と知らしめることになります。
次に『ダムを攻撃する』『堤防を攻撃する』と脅されたら、ダムを廃止するのですか?堤防を廃止するのですか?
きりがありません。

「原発を狙われたら終わり」であり、敵基地攻撃能力の保有と原発推進が矛盾するなら、世界各地で「原発攻撃を理由にした原発廃止」が行われると思いますが、私の知る限りそのような例はありません。
また「原発攻撃を理由にした弾道ミサイルや巡航ミサイルの廃止」も聴いたことがありません。

したがって「敵基地攻撃能力の保有」と「原発の推進」は矛盾しないと考えています。

【5.「専守防衛」を変更する?】

『「国際法違反の攻撃に脅えて専守防衛という重要方針を変える」ことの方が外交上の悪影響が大きいのではないでしょうか?』とのことですが、「専守防衛という重要方針」は変えていませんよ。
これは「安保関連3文書」にも明記されています。

2022年12月16日 朝日新聞の記事より

これは従来の政府答弁からも変わっていません。
つまり「敵基地攻撃能力の保有」は合憲であり、従来からの政府答弁とも矛盾しないというのが政府見解です。

2015年3月24日 安倍内閣における「専守防衛」の定義に関する質問に対する答弁書

これを覆すには最高裁で「敵基地攻撃能力の保有は違憲」との判決が必要です。
もしくは主権者である国民の「民意」で政府見解を変更させるかですね。
しかし現時点では「専守防衛という重要方針は変わっていない」という政府見解が有効です。

そして敵基地攻撃能力を保有するのは「国際法違反の攻撃に脅えて」ではありません。
「自衛権」は主権国家に与えられた「正当な権利」です。
自衛のための防衛計画策定は主権の範囲です。
さらに「主権国家は平等」が国際社会の原理原則です。

つまり国際法違反の手段によって防衛しない限り、どのような手段を講じるかは各国の自由です。
尚、「国際法違反の手段」とは「核不拡散条約に加盟しながら核武装する」ようなケースです。
上記のようなケース以外は、他国が防衛政策に対して文句をつけることはできません。

もちろん「同盟国からの要請」というケースはあり得ますが、主権によってその要請を突っぱねることもできます。
要は「国家戦略」しだいですね。

【6.「国家戦略」に基づいて考える】

現在、日本のアジア太平洋地域での国家戦略は『「自由で開かれたインド太平洋」というビジョンの下、法の支配に基づく自由で開かれた国際秩序の実現、地域の平和と安定の確保』を目指すものです。

2022年12月16日 朝日新聞の記事より

それを実現するための防衛戦略が「国の総合的な国力と同盟国・同志国との連携」ですね。
つまり台湾、アメリカ、オーストラリア、インド、韓国などと協力・連携することです。
これは「国際法に基づく国際秩序の推進」という国際社会の「建前」「原理原則」と矛盾しません。

一方、中国はお世辞にも「民主主義国」とは言えません。
一党独裁で「皇帝型秩序」と親和性があり、自由や民主主義とは違う価値観を持っているようです。

また台湾への「直接的軍事行動」を国内的に合法化した「反国家分裂法」を制定しています。
さらに国際法も軽視しています。
国家間紛争の仲裁・調停を行う「常設仲裁裁判所」が「領有権の無効」と裁定した南シナ海人工島の「軍事基地化」を進めています。

また中国は国連安全保障理事会の「常任理事国」であり、ロシアの例を見る限り「国連による集団安全保障」も期待薄です。
つまり「台湾有事への歯止め」は、「国際世論」と実際の武力を用いた「抑止力」しかないと考えます。

日本の敵基地攻撃能力は、この抑止力の一環といえます。
具体的には台湾、アメリカらと連携し、中国の「接近阻止・領域拒否戦略」を妨害して台湾侵攻をやりにくくする。
つまり「台湾+アメリカ+日本+α」の「拡大抑止」によって、『もし台湾に侵攻しても目的を達成できないぞ』という「拒否的抑止」を実現することにあります。

「リアリズムと防衛を学ぶ」ブログより

ここまでが私の考える、日本が「敵基地攻撃能力」を保有しようとする理由です。

では、日本が現時点で敵基地攻撃能力を保有せずに「国際法に基づく国際秩序の推進」に貢献できることはなんでしょうか?
私にはなかなか見つけることができません。

現在の政府の方針を見直すとすれば、下記のようなことが考えられます。

・国家戦略的に言えば「自由で開かれたインド太平洋(FOIP)」というビジョンの見直し
・防衛戦略的に言えば「同盟国・同志国との連携」の見直し
・戦術で言えば「侵攻国の航空基地や港湾に対する攻撃」の見直し

上記の見直しを行った上で「国際法に基づく国際秩序の推進」を目指すわけです、しかも「事大主義」に陥らずに。
そうしないと国際社会の「建前」「原理原則」を貫けません。
私程度の知識では、『ごめんなさい、こんなのムリです』と言うしかありません。

素人には無理ですが、専門家ならこの「無理難題」を解決できるのでしょうか?
野党第一党の「立憲民主党」の防衛戦略も日米安全保障条約を基調としています。
立憲民主党が見直しを行っても、おそらく現在の政府の方針から「微調整」する程度と推測されます。

因みに現在の日本は、ある程度の敵基地攻撃能力は保有しています。
例え「トマホーク巡航ミサイル」を導入しなくとも、「F35戦闘機」等の航空機で反撃を行うでしょう。
反撃が自衛権の範囲であり、軍事的・政治的合理性があれば、保有済みの能力で反撃することに問題はありません。

では「日本共産党」ではどうか?
日本共産党の防衛戦略は日米安全保障条約を基調とせず、むしろ「日米安全保障条約の廃棄」を公約に掲げています。
そしてFOIPにも反対していますので、国家戦略から大きな見直しを行うと推測されます。

しかし、それでは「同盟国・同志国との連携」に支障をきたすことが懸念されます。
その結果、中国に対する「拡大抑止」が成立せず、台湾有事の勃発を早める可能性もあります。

日本共産党が推奨する「ASEANインド太平洋構想(AOIP)」や「非同盟諸国首脳会議」への参加は、台湾有事の勃発を防ぐ抑止力の代わりとなりえるのか?
私にはまだ見えてきません。
AOIPや非同盟諸国首脳会議が具体的にどういうものなのかよく分からないからです。

例えば、紛争を防ぐまたは解決する仕組みはどのようなものなのか?
また、紛争を起こした国にはどのようなペナルティが与えられるのか?
今まで紛争を解決した実績は?

少し調べてみましたが、やっぱりよく分かりませんでした。
ここはやはりAOIPや非同盟諸国首脳会議への参加を呼びかける日本共産党に説明していただきたいと思います。

その上で、まず立憲民主党と公開の場で「突っ込んだ防衛政策の議論」を行うのはどうでしょう?
「野党連合政権」による政権交代を目指すなら、そのパートナーである立憲民主党との政策協議は欠かせないと思います。
総論的なものではなく、本質を突いた本格的な議論を期待したいですね。

【7.結論 「枝葉末節」にこだわらず、大きな視点から本格的な議論を】

ここで最初に戻ります。
主権者である国民の「生命」「安全」「人権」を保障するのが主権国家の重要な「目的」であり、建前や原理原則を貫くのはあくまでも「手段」という認識です。

国民の生命・安全・人権の保障よりも、建前や原理原則を優先するのは「本末転倒」と感じます。
かといって国民の生命・安全・人権の保障を優先するあまり、建前や原理原則を放り投げるのは「事大主義」の誹りを受けるでしょう。
建前や原理原則と、現実的な力(抑止力)との整合性をギリギリまで追求した苦心の作が「安保関連3文書」だと感じます。

これで政府からの「立論」が終わりました。
『立論に対して反論があって、それを議論して昇華させて、結論に持って行く』本当にこの通りだと思います。
「反論」がないと議論が行えませんので、野党には「F35は欠陥機」や「トマホークは不良在庫」など枝葉末節にこだわった反論ではなく、安保関連3文書に見合うだけの本格的な「論」を練り上げていただきたいと思います。

ありがたいことに世界各国は日本の「戦後75年の平和国家としての歩み」を評価して、高い好感度や信頼を感じてくれています。
そして同時に、日本が「地域や国際社会の平和や安定に積極的に貢献する」ことも期待されています。
「台湾有事への対応」は、日本が国際社会の信頼に応えられるかの「試金石」となるでしょう。

日本が取り得る政策にどのようなものがあるか、本格的な議論を通して探求していきたいと思います。

外務省HP 海外における対日世論調査より

以上、ありがとうごいました。