Business Origami® によるあたらしい対話の話

今回は、IDLが複数のプロジェクトにおいて活用しているデザインの手法として、株式会社日立製作所 研究開発グループが開発したBusiness Origami®︎に焦点を当ててご紹介したい。

もし記事をご覧いただいて興味が湧いた方は、近々下記のイベントがあるのでぜひご参加いただければ幸いである。

2023年2月10日(金) 18:00-19:30
Event|関係を生み出すデザインーBusiness Origami®の可能性
https://tub.tamabi.ac.jp/tcl-lab/3124/

僕の出自はグラフィックデザインである。ある時ウェブデザインに興味を持ち(この話は別でしようと思う)、今はデザインリサーチ、コミュニケーションデザインの分野にどっぷりとその身をつけている。ウェブデザインを生業としていたときは、クライアントの課題解決に合う、ユーザー像に合うであろうインターフェイスを検索して探し出し、それらを参考として実際に自分で手を動かし作っていた。だから、というわけではないし自分が不勉強だっただけではあるが、デザインをする際には、リサーチツールはほとんど使わずに、自分の勘所を頼りにやっていたと言っていい。だからこそ、デザインツールというものの存在を知った時には狼狽えたし実際に使ってみた時の思考の広がり方に驚いたものであった。

そこで今回は、株式会社日立製作所 研究開発グループが開発した Business Origami® を紹介したいと思う。

このBusiness Origami®︎は、デザインツールの存在をほとんど知らなかった時、随分と前に丸山さんから直接ご指導いただいたものである。

ただし、ここで紹介する事例や方法は、必ずしもBusiness Origami®︎ の全ての力を引き出した使い方ではないのでその点を留意の上読んでいただきたい。なお、概要や具体的な使い方は、開発者の丸山さんが動画であげていらっしゃるので、以下動画から始まる一連のBusiness Origami®︎ 解説動画を見てほしい。

僕は、Business Origami®︎ を、サービスを立体的な視点で捉えて構造を可視化し、全体像を理解して課題を発見、共有するツールと捉えている。それは新しく考えるサービスプロトタイプだけではなく、現状のサービスも対象になり得るし、僕の場合は後者を対象に使うことがほとんどである。主な使い方は、現状のサービス(もしくはビジネス)のステークホルダーとその関係性、取り巻く人や企業・チーム、情報、使うツールの可視化である。

可視化というと思い浮かぶのは、ワークショップで模造紙に付箋を貼る、miro でデジタル上のホワイトボードに付箋を貼るなどの、ある程度固定化することを前提としたツールが代表的である。可視化とは、その言葉の通り見える形にするということだが、ここでBusinessOrigami®︎を利用して行うことは、それぞれを静的な記号として捉えることではなくアクター及び資源が相互的かつ時間を経て及ぼす影響自体またその度合いや変化を可視化することである。付箋は貼り直す貼り替えることを想定して作られてはいるが、相互性や変化を直接的に可視化することに特化して作られてはいないと思うし、コマではなく、どちらかというと静的な捉え方をするツールである。共創価値において価値は普遍ではなく文脈を通じて変化していくものであることを考えた上での可視化を考えると、ステークホルダーの背景や個々人の意味、そのコミュニケーション間をつなぐモノやコトの意味は常に変化するものであり、現状のサービスをリサーチするにあたりそれは静的ではあり得ない。
アクターの解像度をあげて、その文脈・変化をより立体的・多次元的に捉えるためには、同じように立体的・多次元的なツールが必要であり、視覚的にボードゲームもしくは人形劇のようにアクターや資源を目に見えるコマとして扱うことができるBusinessOrigami®︎はそれが成し得るツールであり、今までになかったあたらしい視点での対話のためのツールと言えるだろう。

事例

ここからいくつかの事例をもとにその成果を提示する。

人と情報のインタラクションの可視化

このプロジェクトでは、ある学校のITシステムを中心とした情報アーキテクチャ全体の最適な状態をデザインすることがゴールであった。情報アーキテクチャというと、コンピューターシステムが中心となるが、このプロジェクトではそこから出る成果物にフォーカスした上で、デジタル上のデータのみならず、それらを使う人とシステムの関係性、情報・データの流れを洗い出し、情報流通の全体像を整理し、再設計方針を明らかにした上で、ITシステムアーキテクチャ全体の最適な状態を描き出した。

<デザインプロセス>
・現状のITアーキテクチャ関係性の可視化
・ペインポイントの特定と仮説方針
・検証・システムポリシー明文化

最初の関係性の可視化ステップにおいてBusinessOrigami®︎を利用し、ITシステムアーキテクチャ全体像を、プロジェクトコアメンバーによって可視化。成果物を扱う人や部署、使っているツール(PCやスマートフォン、紙などのアナログツール)、流通している情報を洗い出した上で、それらの関係性や情報流通経路、情報自体の変化、人と人または人と情報とのコミュニケーションを、BusinessOrigami®︎のコマを参加者全員で動かしながら明らかにしていき、以降に続く詳細把握のための土台となる、各システム・領域の関係性、扱う情報・データ、仮説としての課題、を明示した。

BtoB製造業におけるサービスラインの可視化

このプロジェクトでは、自動車産業に関わるコンベア、工場などの物流設備、フォークリフトなどの「もの」を運ぶ機械など、ものを輸送することにまつわる製品の製造やサービスの開発・販売を行うBtoB事業部において、課題であるデジタルからの売上を達成するために、デジタルマーケティングコミュニケーション戦略をデザインした。

<デザインプロセス>
・現状理解
・課題発見、課題設定
・理想的な状態の可視化
・施策具体アイディア

BtoB事業部におけるサービスラインをテーマとして、ワークフロー・情報流通経路などを特定しながら、BusinessOrigami®︎を利用して洗い出し、そのライン上における具体的な「課題や問題」を抽出。多種多様な製品ラインや、セールス・マーケティングにおけるコミュニケーションとそのツール、その中で起こっている事柄を紐解き、課題を特定。人・ツール・製品・行動を立体的、かつ時間軸も含めて可視化することで、実際に起こっていることの解像度をあげ、コミュニケーションで起こっている問題を可視化。事業部の主要なメンバーと共に、本プロジェクトで解くべき課題として設定した。

終わりに

多様なステークホルダーを巻き込んだサービスデザインなど開発現場での議論に課題を感じている方にとって非常に有効な手法なので、近い領域で活動されている方は是非今週末のイベントでその可能性の大きさを体感してほしい。
2023年2月10日(金) 18:00-19:30
Event|関係を生み出すデザインーBusiness Origami®の可能性
https://tub.tamabi.ac.jp/tcl-lab/3124/

BusinessOrigami®︎はアクターや資源をオープンかつ俯瞰的な視点で捉えながらサービス全体像を見て、時代・状況に応じた、仮想ユーザー、仮想サービスとそれを現す体験とのあたらしい文脈での対話方法を生み出すツールである。

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