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2021年度慶應義塾大学文学部一般選抜小論文模範解答例


2/15に行われたばかりの慶應義塾大学文学部の模範解答例です。問題はこちら

設問Ⅰ この文章を320字以上400字以内で要約しなさい。

吉田兼好の「徒然草」を主題とした論争があった。国文学者による、「つれづれ」とは自己内省の状態であるとした西洋的な思想の影響を受けた論考がある。それに影響された評論家たちは「つれづれ」の態度に芸術家・批評家としての自己内省や人生観照の精神を見出した。こうした見方には、「徒然草」という作品の多様性や複雑さを根拠にした批判が国文学者から見られる。現代では教科書の影響も学生のうちに見られる。このようにひとつの言葉をとっても、その時代ごとの思想や文学観を反映した解釈がなされる。今後も世界観や美意識が変容すれば解釈は更新されうる。解釈とは正解に揺らぎがあるものであり、それを考える意義には疑問符もつきうる。しかし、正解がないからこそ古典は古典として語り継がれてきたのであり、むしろその時代を見つめなおすきっかけとしての、正解を求める行為自体に意味があるといえる。(378字)

設問Ⅱ 正解の出ない問題に取り組むことの意義について、この文章をふまえて、あなたの考えを320字以上400字以内で述べなさい。

正解の出ない問題に取り組むことには、森羅万象に揺らぎを認める鷹揚な姿勢をもたらす意義がある。あらゆるものに正解が存在するとする考え方は、物事に白黒をつけなければならないという強迫観念を伴う。正解が出ないことは論証に瑕疵があることと同義だとみなされるからだ。一方、正解が出ない場合があることを認めつつもその問題に取り組むことは、物事にはある程度の濃淡があることを受容することに他ならない。この姿勢を保つことは、仮に自身の納得のいく正解をもたらすものでなかったとしても、その事象が現に存在することを確認することにつながる。これは物事をありのままに受け入れることを可能にする営みである。そしてそれは有形無形に現前する事物を、世代を超えて引き継ぐゆとりを保つことでもある。このように、物事をそれそのものとして自分へと包摂し、自身が無限の幅を持った存在としてあることを可能にする意義がある。(390字)

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