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生きるのが仕事

のんちゃんは一般に「普通」って言われる人たちとは違う本数の染色体を持って生まれたんだって。しかも未熟児で生まれてきたから、小さい時からいつも病院に通ってばかりいる子供だったんだよ。

 のんちゃん自身は中学生の頃から「同級生達とはなんか違うなぁ」って思っていたらしいんだけど、それは未熟児だったし、きっといつかちゃんとした男の子になれるんだって思っていたらしいのね。まるで「はくちょう」のお話みたいだね。

 でもね、いつまでたっても周りの男の子のようにならなくって、学校で同級生が本を見て「あの子かわいい」とか言っているのを聞いても同じようにはならなかったし、女の子を見てもドキドキしなかったんだって。まぁ一つの個性なんだってのんちゃんは思っていたのね。

 そうして社会人になったのんちゃんは、意を決してお医者さんに行くのです。

 「先生、のんちゃんは何かおかしいような気がするんです」

 お医者さんは言います「どれどれ。。。んーん。これは。。。ちょっと検査してみましょうか」って。検査をしたら、クラインフェルター症候群っていう名前で「子供は作れない」って言われてしまったんだ。

 のんちゃんは将来、決して裕福ではないにせよ、奥さんと子供がいるささやかな家族を夢見ていたんだよ。それが無理って言われて、一人でどっかに行ってしまいたくなるような気持ちになって、そうして10年が経ったんだ。

 10年後に偶然、シングルマザーのきこちゃんと出会って、まぁちゃんとあっちゃんと家族になることができたんだよ。しかも、1年持たないと周囲から言われていたのに、もう16年め。のんちゃん、きこちゃん、凄ぉい。

 さて、インターネットという言葉が世の中に現れて、パソコンも登場して世の中が超便利になったある日、クラインフェルター症候群がどういうものかがわかってきたんだ。そこに書かれていたことは、のんちゃんが長い間経験してきたそのものだったんだって。そして、同じことで苦しんでいる人との出会い。

のんちゃんは目の前に自分そのものがいたように思えてショックを受けたんだ。

 身体の中が男の子に成りきれていないだけでなく、女の子の要素もある。

「性分化疾患」ていう言葉も知った。そう言えば、心も男の子に成りきれていないものもあった。

 会っていく人たちの中には、女の子になっちゃったり、女の子の服装でいることを望んでいる人たちがいて、話を聞いていくと、のんちゃんも思い当たることが多くって、自分もそうなっていくんではないかって思ったりしたんだ。LGBTという言葉も覚えた。後でのんちゃんはどれにも該当しないってことがわかったんだけど、大きく動揺したんだ。

 のんちゃんの中で、何かが変わったんだって。

 今まで我慢して封印していたものを少しずつ開いて、殺してきた感情なんかも少しずつ解放してあげたりしたんだ。

例えば、のんちゃんは昔っから可愛いものが好きだったみたいで、買い物をしていても、可愛いと思ったものを「可愛い」と口に出すようにしたり、身につけてみたりしているんだって。ぬいぐるみだって大好きなんだ。いつも抱っこしていたいぐらいに。

 クラインフェルター症候群には、死なない程度の身体の不具合がたくさんあるんだ。手術も何度もしたよ。輸血に支障があるとか、薬の調合に細心の注意が必要だとか、これからだって、考えたくないほどの病気の予備軍を持っているのをのんちゃんは知っているんだけどね、どうにもならないの。

 小さい事もね。臭いに敏感だったり、常に緊張しているからすぐに疲れちゃうとか、街中でどうしても立ってられない場所があったり、手術後の痕が痛みだしたり、筋肉がつかなかったり、手の震えが酷かったり、そして、日々の重圧に押しつぶされそうになりながらも、なんとか働かなければ、って思っているんだよ。

 生きるのが仕事みたいだって、のんちゃんはいつも言っているんだけど、通常、それには給料が出ないんだよね。


* 2013年6月24日 記載