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「ベイジルタウンの女神」 観劇記(松下洸平さんを中心に)

★  ↑   PR用公式動画。オープニングを聴くだけで心が浮き立ちます♪ぜひご覧ください\(*ˊᗜˋ*)/♡

1、ケムリ研究室no.1「ベイジルタウンの女神」概要

★2020年9月13日~10月10日(東京、兵庫、北九州)
★作・演出:ケラリーノ・サンドロヴィッチ
★キャスト:マーガレット:緒川たまき/王様:仲村トオル/ハム:水野美紀/ハットン:山内圭哉/にんじん:高田聖子/スージー:吉岡里穂/ヤング:松下洸平

★観劇日:いずれも世田谷パブリックシアター
9月13日(初日)、9月16日、9月25日、9月27日(東京千秋楽)
生配信視聴:9月22日

★松下洸平さんを中心にした感想、ネタバレあり
★2020年10月10日、大千穐楽の日にTwitterにアップした記事です

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2、しなやかで力強い、ハッピーなおとぎ話

オープニング。乞食が1人そろそろと這い出してきたと思ったらわらわらと大勢出てきて中央に集まり、私たち観客をじろじろと見据えた。何?と思ったら場面転換。緒川たまきさんらが颯爽と登場し、ひと笑いさせてくれた後、タイトルとキャスト紹介。音楽も軽快で洒落ていて心がウキウキする。さぁ今日も始まったと…
2回目の観劇からは手拍子をしたくなった。配信を自宅で観たときは実際に手拍子した。
プロジェクションマッピングが噂通り素晴らしい。アメリカンオールドムービーのような雰囲気があり、アニメも可愛い。そして、たまきさんがそっくりである。ステージングも素晴らしい。場面転換がよくできていて、キャストがはけても暗転しても舞台から目が離せない。パネルを動かしたりするのはキャストも皆やっているそうだ。

ストーリーは明快。コメディでハッピーエンド。笑って泣いて見終わった後は幸せな気持ちになるおとぎ話のような作品。本当の悪人が出てこないので安心して観ていられる。
緒川たまきさん演じるお金持ちで世間知らずのマーガレットは、ビジネスを語るときはテキパキして一見できる女風だが、「長屋を縦長にしたらいい」と言い放つなど天然。土地を手に入れるための賭けで、貧民窟のベイジルタウンで1カ月暮らすことになったが、高飛車ではなく天真爛漫さが勝っていて、乞食たちにも自分を偽ることなく直球で飛び込んでいき、いつの間にかなじんでしまう。

こういう人、実際にいるよなぁと思う。現実世界で一番強いのはマーガレットのようなタイプだったりする。適応力・順応性があるしなやかな強さだ。
マーガレットはベイジルタウンで暮らし人々と触れ合ううち、変わってゆく。いや、昔の自分を思い出してゆく。小間使いのにんじんと一緒にイチゴジャムを食べた子どもの頃の自分を。そして、乞食が安心して暮らせる街にしたいと願うようになるのだ。
恋人に裏切られていることは観客には早々にわかるのだが、同時に仲村トオルさん演じる王様が存在感を放つ。25平方メートルの第10地区が王様に関係あるだろうと気付くのも観客の方が早い。それにしても、まさか石油が出るとまでは思わなかった。この大団円がたまらなく愛おしい。

「乞食」、「きちがい」など放送禁止用語がバンバン出てきて最初は戸惑ったけれど、敢えて使っているのだろう。コメディなのだけど、ケラさんらしいシニカルな風刺はちらほらと挿入されていた。
終盤、マーガレットの正体を書いたビラが「赤紙」だったのは息をのんだ。
乞食はゴミは漁るけれど盗みはしないという、乞食の矜持が描かれているのも良かった。

乞食のいでたちはおとぎ話の小人のように見えた。最後ににんじんが語ったエピローグに「だれも知らない小さな国」というフレーズが出てきたので(ハムのその後のことを語ったとき)、私は子どもの頃に夢中になって読んだ佐藤さとるの「コロボックルシリーズ」を懐かしく思い出した。

身分違いの2つの恋…マーガレットと王様、ヤングとスージー。女同士の友情…マーガレットとハム、にんじん。ドクターとサーカスの寄り添い。さらにはマーガレットを慕うミゲールや、にんじんを支えるコブ、ハットンとチャックの掛け合いなど、登場人物とその関係性が際立っている。
水道のハットンの独特のありようも(わかる人にはわかる特徴)、ベイジルタウンの人々に受け入れられていることがわかる。
ヤングの「今日はダメだな。もっとわかり合えるときもあるのに」と笑顔で語りかける様子。パニックになったハットンに王様とハムが「水道のことだけを考えるんだ」と言うシーン。適格な理解とかかわり方でしんみりした。

ヤングとスージーは若者代表として描かれ、皆に見守られている。伝道所を手伝うスージーは一見優等生なのだが、母親に反発してヤングとの恋を貫いたり、「いちゃいちゃしたいんだよっ!」と悪者の方のハットンに叫んだりする姿が、いきいきとして魅力的だ。

3、ワイルド洸平ヤングの魅力

そして我らがヤング!
すべてが良かった。これまで栗山民也さんなどシリアスな作品が圧倒的に多かった洸平さん。同じ事務所であるケラさんの作品に出るのは初で、洸平さんならケラさんのアクが強い作品でも難なくこなせそうだけれど、今回のヤングも良かった。

まずビジュアルが良い。ロン毛が似合う。きれいなオデコが際立つ髪型だった。ストールをしているのも、昔の洸平さん(実際にヤングの年齢だった頃)を彷彿とさせた。
初見はワイルドな容貌や所作にときめいたけれど、何度も見るうちに、ワイルドさよりも若気の至りのようなやんちゃさが勝っているように感じて可愛かった。
スージーへの一途な思いが切なくて、思いが叶ってからはスージーから片時も離れたくなくて肩を抱いたり手を繋いだり、「とにかくくっついていたいんだよ!」って心の声が伝わってくるようだった。

ささいなことだけれど、スージーの母親を皆で帰れコールをして追い返すとき、ヤングはコールしなかった。若さゆえか盗みなど悪いこともするのに、スージーに対しては誠実なヤングが素敵だ。

ケラさんは当て書きされたのだろうが、ヤングに関してはドキドキポイントが満載だった。
まずはヒヤリとした点。スージーの母親からのラブレターは、洸平ファンの年齢層の高さをひやかしているの?と…。でもヤングは恐らく20歳前後(18歳位?)の設定だし、好きな女性の母親に告白されたら「変な気持ち」になるのは当然ということでスルー!
スージーを閉じ込めて見張るいとこの数が8人(ハチ!)というのも、単なる偶然かもしれないがスカーレットの八郎さんを彷彿させて嬉しかった。
休憩明け第2幕で、ギターを持って舞台にいる姿を見て、歓喜で叫びそうになった。洸平さんはダンスも上手いから火を囲んで皆と踊っても素敵だっただろうけど、スージーのために一生懸命練習したという設定で指に絆創膏を巻いて、実際に舞台で弾いている姿はとても楽しそうだった。前方の座席のときはギターの音がちゃんと聴こえた。

そしてエピローグで、ヤングは警察官を目指していると語られた。洸平ファンしかわからない笑いのツボ。洸平さんがテレビドラマで警官役が多かったことまでケラさんが知っているとは思えないので、偶然なのか?それとも洸平さんと相談したのか?舞台裏の話を聞いてみたい。

9月25日に観たとき、スージーの母親からの手紙を読もうとして階段下に落としてしまうハプニングが! 洸平さんはさっと身をひるがえして階下に走り手紙を拾って何事もなかったかのように軽やかに階段を駆け上って手紙を読み始めた。東京千秋楽目前で疲れもピークに来ていた頃だったのだろう。声も少しかすれているときがあった。こうしたことも舞台ならではの醍醐味だ。

この舞台では、一人が何役も兼ねている。洸平さんは物乞いの老女の前を通り過ぎるビジネスマンの役も演じている。オープニングの乞食の中にもいたはずなのだけど、5回見ても確信が持てない。DVDで要確認だ。

板の上の洸平さんはキラキラと輝いていた。身のこなしが素早くキレッキレで、トオルさんにも身体能力の高さを褒められていた。声にも張りがあり、大御所俳優がたくさん出演しているにもかかわらず、存在感は抜群だった。といっても悪目立ちするわけではなく、やんちゃなヤングとして立っていた。
洸平さんにとって「ホーム」である舞台。テレビドラマでも観たいけれど、舞台でもまた観たいと強く感じた。

4、舞台は生もの、毎回感動

コロナ禍でなければ兵庫も行く予定だったが、私は東京公演だけ4回観た。コロナで途中打ち切り、あるいは中止していたが日程途中から開演、などいろいろな状況を想定して序盤、中盤、終盤とチケットを取った。春から多くの舞台が中止になり、洸平さんのライブも中止になっているなか、私は何が何でもこの舞台は観る、という決意だった。配信も買った。結果としてすべて観ることができた。

感動の初日(13日)。コロナ禍で観客を50%に抑えての決行だ。開場も遅くフライヤーも置き忘れていたり劇場全体が緊張している感じだった。私たち観客も同じで、笑う場面もマスクの下でこっそりと。感染対策から思い切り笑うことさえ周囲を気にしたのだ。しかしカーテンコールは3回あり、これは初日特権だと後日わかり嬉しかった。

次は16日ソワレ。初日よりも自然に皆が笑っているようだった。既に劇評などで高評価だったので様子を知ってから観に来ている人もいたのだろう。カーテンコールは2回で会場に照明がついてしまった。これは毎度のこと。密にならないように席順に規制退場となるのである。

22日に配信を自宅で観て、25日ソワレ観劇。このときは会場のノリがかなりよく、初回カーテンコールの後の拍手が手拍子に変わった。キャストが再度舞台に登場した時、会場の手拍子がすっと止まる。キャストの挨拶か何かを期待するかのように。トオルさんは、ん?と一瞬戸惑った表情。それを受けて次の瞬間、会場は割れるような拍手を再開した。生の舞台でこその感動だった。

そして27日の東京千秋楽。2回のカーテンコールが終わり会場に照明がついても拍手は鳴りやまず。すると3回目の挨拶に、ケラさんがたまきさんと一緒にまず登壇された。満を持してのスタンディングオベーション! ケラさんも立っていいよというように手で促してくださった。そして4回目のカーテンコール。感涙だった。

洸平さんは、どの回でも、お辞儀は深く美しく、そして必ず2階席3階席までまんべんなく見て、退場時は手を振ったりしていた。心根が美しい人なのだとしみじみ思った。

5、カタルシスを明日の力に

コロナ禍で春から他の舞台が次々と上演中止になっていくなか、ベイジルタウンの女神は無事初日を迎えることができた。東京の後、兵庫、北九州と上演して10月10日の大千秋楽まで完走できた。
コロナと闘い、北九州入りでは台風とも闘い、上演できることが当たり前ではないのだと、舞台を観ることができた私たちはとても貴重な時間を享受しているのだと、改めて感じ入った。
コロナ禍だからこそ明るいストーリーが有難かった。これぞエンターテインメント! カタルシスを得ることが、明日を生きる力となる。生活に必要なものなのだ。
全公演ができたのは、単純な奇跡などではない。私たち観客も含めた多くの人々の努力の賜物だ。すべての関係者の皆さまに感謝と敬意を表したい。ありがとうございました。

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