見出し画像

9月は「多嚢胞性卵巣症候群啓発月間」

こんにちは!産業保健師のきりんです🦒
急に涼しくなったなぁ…と思いつつ気が付いたら夏が終わり(?)9月になりましたね。

今月は、皆さんご存知!(知らない方も今回でバッチリ)
『多嚢胞性卵巣症候群啓発月間』です。

多嚢胞性卵巣症候群(たのうほうせいらんそうしょうこうぐん)
カミカミになりそうですが、婦人科では
「Polycystic Ovary Syndrome」⇒「PCOS」(ピーシーオーエス/ピーコス)
と略されて噛まずに話せます!

この疾患(病気)をどうして、皆様に知って頂きたいかって?🦒
今回も、最後までお読み頂き、
「あぁこれは知ってて良かった」と思えるような内容にしたいと思いますので、取り合えず最後までお付き合い頂けますと良いかもしれません!
本日も、どうぞよろしくお願いいたします。

1.そもそも「多嚢胞性卵巣症候群」って何ですか?

まずは、そこから参りましょう!
月経不順で婦人科に行った時、ボソッと産婦人科医の先生から言われたことがある方もいらっしゃるかもしれません。
名前が仰々しいので、ビックリしてしまったり、何か重大な病気かも?
と思われたかもしれません。

しかし!この疾患。

「生殖年齢の5~8%に発症するのです!」
(日本産科婦人科学会ガイドライン婦人科外来編2020より)
100人集まれば、5~8人。
多いと感じますか?そうでもないですか?

そして、それがあるだけで何か今すぐに命に関わる問題が発生することはないです。

この疾患は、月経不順以外に自分で気が付くことはあまりなく
(サインはいくつかありますが、コレ!とすぐに気が付くものはあまりないと思います)
婦人科の敷居が高い方にとっては放置しがちなものかと思います。


しかし、「多嚢胞性卵巣症候群」は
【不妊】や将来的な【子宮体がん】のリスク因子となるものです。
是非、産婦人科を受診しつつ、ご自身なりの上手な付き合い方を見つけて頂きたいと🦒は思います。

では、いつどのように発見されるのかなどを、早速見て行きましょう!

2.発見されるのは大体月経不順での受診

そうなのです。
まず、女性が婦人科に受診するのは、下記の理由が多いのではないかと思います。

・不正性器出血 (生理じゃないのに出血しちゃう)
・月経不順 (生理が規則的にこない)
・月経困難症 (生理痛が重くて生活ができない)
・月経をずらしたい 
 (ホルモン剤で、旅行や試験、試合と違う日に生理を起こしたい)
・赤ちゃんが欲しいが、なかなかできない (不妊かも?)
・結婚を考えているので今調べられる事を調べたい 
 (ブライダルチェック)
・デリケートゾーンのお悩み (かゆみ等)
・子宮頸がん検診 (2年に1回のクーポン!貰ったから行く)

上記の受診の中で、「月経不順」があり、
経膣超音波やホルモン検査をする機会があれば『多嚢胞性卵巣症候群』と診断される場合があります。

医療機関や診断する医師によって実施する検査は異なる可能がありますが、
日本産科婦人科学会のガイドライン2020(学会による診断基準/2007)では

1.月経異常
2.多嚢胞性卵巣 
3.血中アンドロゲン高値、あるいはLH上昇かつFSH正常
上記の3つが全てあてはまる場合。

とされています。
では、1つ1つ見て行きましょう!

3.診断基準のアレコレ

1.月経異常
そもそも、周期的に月経が来ない時に、
「どこまでが正常でどこまでが異常なのかあまり良く知らないわ!とりあえず、早すぎるのも、全然来ないのも良くないとは聞きますが…。」
という方もいらっしゃるかもしれません。
(私も、看護大学以外で教わった記憶があまりないです)

まずは、そこから見て行きましょう!

早速、異常を知る前に正常から🦒



正常な月経周期(生理と生理の間隔)は『25日~38日』とされています。
(この幅の中で変動が「6日以内」)
※数え方は、月経初日を1日目(Day1)とし、次の月経の開始日前日が25日目~38日目(Day25-38)と数えます。

概ねこの範囲での変動であれば、正常と判断しても良いかと思います。
まれに、この周期でも実は無排卵だった!
という場合もります。
ご自身で無排卵を知る為には「基礎体温」を付けてみるのも1つの手です。
婦人科に行かれる際にお持ちいただけると診療の一助になります
👆どこかで、測定の仕方や表の見方は別途記事にしますね。
※ごくごく稀に基礎体温が二相性でも無排卵(黄体化未破裂卵胞/LUF)というのもありますが…

では「月経異常とは」どのような物があるのでしょうか?

希発(きはつ)月経・・・月経周期が39日~3か月以内と延長した状態。
 ⇒あんまりきちっとは来てないけど、とりあえず全く月経がない状態ではないというイメージ。
この状態の方は、面倒な月経もあまりないけいど、とりあえず来ることもあるから…。と放置しがちになっていないでしょうか?

無月経・・・3か月以上、月経が来ない。
 ⇒3か月以上月経がない場合は、放置せず婦人科を受診して欲しいですね。

頻発月経・・・月経周期が24日以内に短縮し、月経回数が増加した状態。
 ⇒あまり月経が来ないだけでなく、早すぎるのも異常です。
 ※しかし、排卵期出血もあるので、いつも月経と月経の丁度間の時期に1-2日出血する方は、排卵期出血かもしれません。
この場合も、基礎体温を付けると良いですね!

上記3つの中に無排卵周期症があり、月経周期が19日以内の頻発月経の60%、51日以上の希発月経の30%は無排卵であるという報告があるそうです。

そして、月経異常のうち
「無月経」「希発月経」「無排卵周期症」のいずれかが、あった場合に、『多嚢胞性卵巣症候群』の診断基準の1つを満たすことになります。

2.多嚢胞性卵巣(PCO)

これは、経膣超音波(エコー)での見え方です。
「多嚢胞」という言葉からも連想できるように、「嚢胞」が沢山あるのです。
(そのままじゃん!とツッコミたくなりますよね)
下記、婦人科・乳腺外科疾患ビジュアルブック(初版97ページ)より画像をお借りしました。
写真からも分かるよう、黒い粒粒が並んで見えるので、別名:ネックレスサイン(真珠のネックレスみたいなイメージ)とも呼ばれます。

画像1

以前のnoteで、卵子は1回の月経でほとんどが1個排卵するために、選ばれて成長するというお話をしたと思います。
(じゃないと、双子や三つ子等の多胎妊娠になってしまい、人間の子宮のサイズ間的に無事に妊娠出産するのが難しい)

しかし、多嚢胞性卵巣症候群の方は、一度にギュウギュウ卵巣に卵子が成長しようと、「おしくら饅頭状態」なんですね。
これが、エコーで確認できると、多嚢胞性卵巣と判断されます。

※正式には、超音波断層検査で両側の卵巣に多数の小卵胞がみられ、少なくとも一方の卵巣で2-9㎜の小卵胞が10個以上存在する


3.血中アンドロゲン高値、あるいはLH上昇かつFSH正常

ここは、ちょっとホルモン動態の話になるのですが、分かりやすい
「LH上昇かつFSH正常」という所から見てみましょう!

そもそも『FSH』さんは『卵胞刺激ホルモン』という名前で、脳下垂体から放出されるホルモンでしたね。

以前のnoteでお勉強した「ホルモンの流れの図」です。

画像2

思い出して頂けた方もそうでない方も図を、見つつ復習です。
『FSH』は卵巣に作用し、卵胞(イメージは卵子でOK)の発育を促進する働きがあります。
先程の写真にもあったように、PCOSは卵巣の中で卵胞が「おしくら饅頭状態!」ですので、



FSHは積極的に放出されなくてヨシッ☚=「FSH正常」(または、LH>FSHの場合もあり)

では『LH』はどうして高値か考えて行きましょう。

ちょっと復習から行きますね。



『LHサージ』
「卵胞」の成長に伴い「卵胞」からは『E2』(エストロゲンのうちのエストラジオール)が放出されます。
その数値が一定のレベルに達すると、ポジティブフィードバックにより、『LH』が大量にドーンと分泌され排卵の態勢に入る。
⇒この、“ドーン”が『LHサージ』です。

この”ドーン”という勢い程ではなく、「LH」ちょい高状態持続なのが、PCOSの特徴です。

さて、話を戻して、、、、
PCOSは卵巣の中で卵胞が『おしくら饅頭』でしたね。
通常は1つの卵子が選ばれて大きくなって排卵するものが、選ばれずに中途半端な量の『E2』を放出し続けることで、一定量には全然達さず、、、

(卵巣さん)「え、もういつ排卵したら良いのか分からないわ~」

となり、「じゃ、いつでも良いからLHさん宜しく~!」と、
『LH』を放出させる方向に作用し続けるのです。

その結果、『LH』高値状態が続く。

のですね。

そして、『LH高値状態が続く』ことで、 『LH 』が莢膜細胞でのアンドロゲン産生亢進する。
というのが、『アンドロゲン産生亢進』に繋がると考えられています。
(ここは、そこまで突っ込まなくても良いかも知れませんね)

『アンドロゲンが亢進』は、
「多毛」「にきび」「低音性」という所見で表れることも多く、それが悩みになる方が婦人科でPCOSと診断を受け、治療をされる場合もあります。自覚症状の1つですね。

4.治療方法のアレコレ

さて、最初の方でコレだけがある場合には『命に関わる病気ではない』とお話しましたが

「不妊」や「子宮体がん」のリスク因子になる。

というお話をしたと思います。
そう....ですので治療が必要な場合もあるのです。

では、治療法について見て行きましょう!

まずは、治療の開始!の際に大切なのが

「今スグ妊娠を希望しているか?」「希望していないか?」

です。

とても、シンプルですが、
『妊娠を希望している場合⇒排卵出来る状態に持って行く。』
(なかなか上手くいかない場合は、体外受精も検討)
※体外受精の場合は、排卵誘発に十分な注意を要します。
ここでは割愛しますが、OHSS(卵巣過剰刺激症候群)のリスクが高いので要注意!
これに関しては、また別の項目で細かくお話しますが、「おしくら饅頭状態」で排卵が上手くいかないので、その状態を回避すべく『排卵誘発剤』というお薬を使い、その人に合った量で調整しながら、1つまたは2つ程度の卵が育つようにコントロールします。

『今すぐ妊娠を希望しない場合⇒ホルモン療法で定期的に月経を起こす』
これは、「子宮体がん」を予防する等の観点から必要になります。
「おしくら饅頭」から『E2』が微妙な量放出され続けた結果、排卵の時期を見失い月経が止まります。(止まらない時もありますが、不順になる)

以前別のnoteでも書いたように、月経は妊娠に至らなかった場合、月に1回子宮内膜に張った「赤ちゃんのBED」を剥がす役割をします。

それが、剥がれずに居続けることで将来的な『子宮体がん』のリスクをあげると考えられています。
ですので、定期的に「BEDメイキング」をすることで、リスクを下げることが出来るのです!!

『月経不順』ってその時はあまり、影響がある気がしませんし、面倒な出血が無いことで「楽チンだなぁ~」と思う事もあるかもしれませんが、
将来的な病気のリスクに繋がる😨と考えると、是非今からメンテナンスしておきたいですよね。

また、番外ですがPCOSの患者さんは「インスリン抵抗性」がある場合、その治療を行う事で、正常な排卵を起こすことが出来る場合や、肥満の場合はダイエットをすることで、改善する場合も有ります。

ですので、どの治療が今の自分に一番良いかは、
【産婦人科医】に相談して、一緒に選択して欲しいです!

ポイントは、『放っておかない事!』です🦒

5.まとめ

本日は、臨床でも良く出会う『多嚢胞性卵巣症候群/PCOS』について、超簡単にまとめてみました!

いつも着地点は同じですが、
『月経不順は放っておかずに、産婦人科に相談して欲しい』
という所が伝わっておりましたら幸いです。

皆さんも、月経不順がご自身にあったり、逆にお友達や職場で相談に乗る事があるかも知れません。

そんな時、身体に起きている事を知り、その後のリスクを知った上で、自信を持って
「産婦人科で相談してみませんか?」と言えると良いですね。

今月も、後半に入りましたが、、、、
(初旬から書き始めたのにな....🦒おや?)

皆様に、『多嚢胞性卵巣症候群』を知って頂く月になっていたら嬉しいです!

今後も、良く相談を受ける病気の仕組みを知りたい!
というリクエストがあれば、コメントを頂けるとありがたいです!

『婦人科の敷居をバリアフリーに🦒』
を合言葉に、まだまだnoteは続きます!

ありがとうございました!

参考文献

産婦人科診療ガイドライン 婦人科外来編2020 (日本産科婦人科学会)
はじめての婦人科看護 MCメディカ出版
婦人科・乳腺外科疾患ビジュアルブック 第初版 学研
病気がみえる vol.9 婦人科・乳腺外科 第2版 メディックメディア

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?