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言語AIの進化史①チューリング・テスト

今回から言語AIの進化史のシリーズを開始します。第一回で取り上げるのは「チューリング・テスト」です。これを取り上げたのには理由があります。

チューリング・テストを発案したのは、イギリスの数学者アラン・チューリング(Alan Turing)です。彼は、コンピュータ科学や人工知能などの分野において非常に重要な貢献をしました。

映画「イミテーション・ゲーム/エニグマと天才数学者の秘密」でその名前を知った人も多いでしょう。第2次世界大戦中に、チューリングはナチス・ドイツのエニグマ暗号機を解読することで連合国の勝利に大きく貢献しました。

また、2015年のスティーブ・ジョブスの映画でもチューリングについて言及されており、後世への影響の大きさが伺えます。

さて、チューリング・テストは、アラン・チューリングが1950年に『Computing Machinery and Intelligence』で発案した人工知能に対するテストです。単純化した説明をすると、人間が見えないところにいる相手と会話をして、その相手がコンピュータだと見破れなかったら、そのコンピュータには知能があるとするというものです。

話し相手は、人間か機械か

その知性を判定は、文字のみでの交信に制限されます。よって、会話はキーボードとディスプレイのみといった状況で行われることを想定しています。

ちなみに、このテストが発案された当初は、初期の電子コンピュータは存在していました。たとえば、1946年のENIAC(Electronic Numerical Integrator and Computer)などが有名です。しかし、現在のような高性能で広く普及したコンピュータはまだ存在していませんでした。

チューリング・テストは、機械の知能を評価するための理論的な枠組みを提供しています。しかし、機械がどの程度知能を持っているかを実験的に証明するための直接的な方法ではなく、知能の本質についての議論を促すためのものと捉えられます。

特に興味深いところは、言語による受けごたえを知性の判断基準としていることです。「話をして機械だとわからないのであれば、それはもう人間のような知能を有する」というアプローチであり、言語を理解し生成する能力は知性なくしては可能ではないという考えが根底にあると言えます。

一方でしかし、判断するのはあくまでも人間による主観に過ぎません。よって、チューリング・テストや似たようなテストが不十分であるという意見も多くあります。このことは、知性の評価の難しさを意味しています。

なお、現在の大規模言語モデル(LLMs)でも、会話の自然さや質問に対する適切な応答能力は重視されています。よって、チューリング・テストが設定した基準は、LLMsの開発という文脈においてもある程度の重要性を持ちます。

そのため、このシリーズの初回の記事としてチューリング・テストとそれに関連した概念の解説を取り上げました。


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