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たぶん、わたしと背中合わせの世界|『ラストマイル』感想

さあ、ついについに!待ち望んだ”シェアード・ユニバース・ムービー”こと、映画『ラストマイル』が8/23より全国公開となりました!!!!!

ここでは、ムビチケを握りしめ、公式本とパンフレット、即完売だったトートバックも抜かりなく購入。そんな、気合いは十分、初日の一番早い回で鑑賞してきた私が、一人ではどうにも抱えきれない感想を殴り書き(殴り打ち?)します。宜しくお願いします。

先に忠告しておきますが、この感想はめちゃくちゃネタバレを含みます!たぶんネタバレしかしません!!そして、この映画はぜっっっったいにネタバレなしで観てほしいので、未鑑賞の方はこの先に進まないでください。私からのお願いです。また、パンフレットや公式本などの内容にも触れていますが、そこはご了承ください。



まず、この映画を観終えた時、ストーリーの本筋云々より先に、率直にこれまでの自分の人生が肯定された気分になった。それは、私が『アンナチュラル』や『MIU404』というドラマが大好きで、これらのドラマを大切に思っているからだと思う。所詮、私なんてただのドラマ好きな、どこにでもいるフツーの大学生だ。でも、人よりは多くのドラマを観てきた自負も、好きなドラマを何十回と繰り返し観ている自覚もある。だからこそ、本作の劇中に勝俣くん(『MIU404』より)や白井くん(『アンナチュラル』より)が出てきてくれたのは嬉しかった。2人とも、過去に過ちを犯してしまったからこそ、許されるように、変われるように、今と自分を大事に生きているんだなというのがもの凄く伝わった。あの子もこの子も、みんなちゃんと生きてる。生きていれば、何度だってやり直せる。

あとやっぱり、『アンナチュラル』や『MIU404』のメンバーが変わらずこの世界に生きていることが、自分でもびっくりするくらい本当に嬉しかった。「デリファス」のイントネーションで小競り合いをしているミコトと東海林、「クソ」が封じられた中堂さんと、おかげで生き生きしている坂本さん、UDIにこそいないものの、別の場所で、研修医として頑張る六郎、”きゅる”を報告する伊吹とそれを解説する志摩、変わらず頼りになる桔梗隊長や陣馬さん、伊吹の”野性の勘”を受け入れる機捜の人たち、etc… みんな大きくは変わらないけれど、それでも間違いなくあの頃から時は流れているし、そこに確実に積み重ねられてきた日々がこれでもかと伝わってきた。嬉しかった。そして、私はこの人たちがどんな過去を背負って、日々どんなブーメランを喰らいながら生きているかを知ってるから、変わらずに、この世界でそれぞれの仕事をしていることが、それが分かったことが、やっぱり何よりも嬉しかった。『アンナチュラル』と『MIU404』を好きになった自分でよかった!と心から思った。ドラマが好きでエンタメに生かされてきた私には、大きすぎるプレゼントだ。

さて、ここから本筋の感想に移る前に、どうかこれだけは言わせてほしい。

中村倫也が出るなんて聞いていませんが??!?!!?!??!?!!?

中盤、エレナが見ている人物データが映り、その人物を「中村倫也だ」と脳が認識した時、映画館で思わず立ち上がりそうになった。これはまじで聞いてない。しかもなんか全然喋らないし。どんな贅沢な使い方!?この映画、出演者のギャラだけでよく予算尽きなかったよなあ。…とまあ、とにかく、中村倫也が出るなんて完全なサプライズだったわけで。でも、ロッカーの鍵を無気力にガチャガチャやっている、あの焦点が合わない"目"と、飛び降りたあとベルトコンベアが再び動き出したのを見た時の、あの全てを悟った"目"の芝居で、中村倫也の真髄を見たと思った。流石だった。しかも、本作が『石子と羽男』(本作と同じく新井×塚原作品)のすぐ後の撮影だったらしく、羽男とは全然違う役どころで気恥ずかしさがあったらしい。普通に信じられない。

そして、野木さんの脚本は伏線回収が天才的に上手い。本作でも見事だと思ったものがいくつもあったが、中でも特に、冒頭のエレナと孔が吹き抜けにネットを張らないのかという会話で、「転落防止」と言った孔に食い入るように「飛び降り防止」と言ったエレナを見て、漠然と「あ、これも今回制作陣が伝えたいメッセージの一個なのかな~。」なんて思った時は、これが後のバカデカ伏線になっているなんて思いもしなかったので個人的に好き。あとやっぱり洗濯機のくだりは天才。他に、伏線とは言えないまでも、所々仕込まれている小ネタが好きだった。例えば、エレナに「羊さん」と言われて阿部サダヲが「ヤギだよ!」と言ったのはもちろん、他の羊急便メンバーがクマさんとイヌさんだったのでさらに可笑しかった。

この映画は、物流の構造とその構造が生んだ悲劇を描いている。例えこの構造のどの立場にいたとしても、上の人たちの言うことを聞かなければいけないし、自分が生き残るためには誰もが見て見ぬふりを繰り返す。そしてやってくる皺寄せ。便利の中に潜む闇。そんな現実が生んだ悲劇。やっぱりどうしたって、山崎佑が自分の身を犠牲にしてでも止めようとしたベルトコンベアが、無情にも再び動き出したあの瞬間、あのシーンが脳裏にこびりついて忘れられない。2.7 m/s → 0 。あまりにも、無力だ。「シェアード・ユニバース」という言葉に浮かれていたけど、この制作陣でこの世界線なら、"こういう"世界を描くよなあ、そうだよなあ、が詰まっていて始まりから終わりまで胸がずっと苦しかった。

誰もが気づかぬふりをしている現代のこの異常な側面。観る人への問題提起。個人的な感想だが、そんな、物流の構造内で起きた悲劇を描くこの作品が、本当の本当に伝えたいことは、クレジットの最後の一文、「一人で抱え込まず、周囲の人を頼ってください。(完全にニュアンスでごめんなさい。)」に全部詰まっていたと思った。辛くて苦しいストーリーだけど、最後にはほんの一筋、光も見える終わり方だったし、クレジットのこの一文に込められた願いが、私にとっては大きな救いだった。「シェアード・ユニバース」という言葉に惹かれた多くの人へ届けられる、この作品が本当に本当に伝えたいメッセージ。これこそエンタメの力。このチームがこのお祭りのような映画にメッセージを込めることで、きっと1人でも多くの、届けるべき人に届けられる。この作品に救われる人がきっと、今の日本にはたっくさんいる。今すぐじゃなくても、いつか救われる人だって必ずいる。それは私かもしれない。だって、この世界は私と背中合わせの世界、同じレールの上の世界だから。

追記)Xで「爆発事件の唯一の死亡者が1件目の、"犯人"だった。一番間に合わせるべき人が、間に合わなかった。」という感想に頭がクラクラしてしまった。生きていれば、何度だってやり直せるのに。

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