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独り占めしたい音楽に出逢った話

冷房を効かせた自室でスマホの画面をぼーっと眺めていたとある夕方、タオルケットを纏った私はふと目に留まったMVを再生した。6分と22秒。あぁ、出逢ってしまった。大袈裟にもそう感じた。

私は、小さい頃から嵐の二宮和也さんが好きだ。好きになったきっかけは彼のお芝居だったが、二宮くんのことを知れば知るほど、「この人は天性のアイドルだ」と思うばかりだったし、二宮くんのパフォーマンスによって作り出される世界がこの世の何よりも大好きだった。

2年前、2022年の夏。二宮くんが結成した『よにのチャンネル』(当時は『ジャにのチャンネル』)が24時間テレビ(日本テレビ)のメインパーソナリティに抜擢された。番組では、優里さんの『ドライフラワー』を二宮くんが歌唱する深夜コーナーがあった。そこには、ステージ上の小さな椅子に腰かけ、言葉一つ一つを本当に丁寧に、優しく儚げな表情で歌う二宮くんがいた。見ないうちに忘れかけていたが、二宮くんは歌を、踊りを、自分のものにする力がある。私は、二宮くんが作り上げる、ずっとずっと好きだったあの世界にまた出逢えた気がして心の底から感動し、やっぱりこの人がいつまでも「私のアイドル」だ。そう思った。

話は変わり、ひと月前のこと。ドラマを観てSixTONESの松村北斗さんが気になり、彼の人となりを知るべくあらゆるSNSやYoutubeを漁っていた時だった。SixTONES公式Youtubeチャンネルにアップされていた『ガラス花』というMVが目に留まった。少し調べてみると、この曲が彼の唯一のソロ曲らしい。私は嵐ファン歴が長い故、他のグループについてもそれなりの知識はあったし、もちろん音楽番組等を通じてSixTONESのパフォーマンスを見る機会はこれまでも沢山あった。ただ、SixTONESとしてのパフォーマンスの中で、特定のメンバーを注視して見たことはなかったので、私は松村さんが一人のアイドルとして一体どんなパフォーマンスを届けるのか、ということに俄然興味が湧き、『ガラス花』のMVを再生した。してしまった。

MVの長さは少し長めの6分22秒。真っ先に抱いた感想は、前述した通り「あぁ、出逢ってしまった。」である。何もかもがドンピシャだった。全身に纏った少し大きめの白い服、憂いを帯びた表情、透き通るが、表情同様どこが憂いを感じる優しい歌声、目一杯動かしながらも実際の身長に反して圧は一切感じない、しなやかで伸びのあるコンテンポラリーダンス。彼が作り出す音楽が、表現したい世界が、私の目と耳と心に真っすぐ届いてきたし、観終えた時はとてつもない余韻に襲われた。たった一曲、たった6分超の音楽にここまで心を掴まれたのは久しぶりだった。

その夜、シャワーを浴びながら何故これほどまでにこのMVが刺さったのか、何がそんなに好きなのかを考えた。辿り着いた答えは2つ。1つは『松村北斗』という人間のギャップ。私が知っている『松村北斗』は「SixTONESの人」。そして、その『SixTONES』というグループは、デカくてギラついたギャル男たちが男らしくてかっこいい、パワフルな曲を歌っているイメージだった。ところが『ガラス花』にそんなギラギラなギャル男は一切出てこなかった。むしろそこに映るのは、ちょっと目を離せば今にも消えてしまいそうなほど繊細で儚い姿。まったく、想定外にも程がある。そして、辿り着いた2つ目の答えが、「歌を、ダンスを、完全に自分のものにしている」と感じたことだった。そう、似ていたのだ。この結論には一つの異論もなく納得できた。『ガラス花』はアイナ・ジ・エンドさんが提供してくださった楽曲で、松村さん本人の作詞作曲ではない。それにも関わらず、この曲は松村さんの歌声とダンス、何よりその表現全てが合わさって完成した音楽だと強く思った。表現で音楽を自分のものにしているのである。ところで、松村北斗と二宮和也は別の人間であり、別のアイドルである。そのことは当たり前に承知しているし、松村さんに二宮くんを重ねて見ているわけでもない。ただ、私が好きな「表現」をするという点において、この2人は極めて近いところにいる。Youtubeのコメント欄には、「これは『アイドル』というより『表現者』だ。」というコメントがあった。この褒め言葉の意味を理解することはできる。俳優として名実ともに結果を残している松村さんだからこそ、彼の表現力は間違いなく「アイドル」という枠を超えている。ただ、私にはこれこそ彼自身が思い描く「アイドル像」なのではないかと思えた。アイドルは極めて偶像的だ。だからこそ「表現」が必要になる。これほどまでに自分の世界を作り上げた松村さんは、天性の「アイドル」なのだ。

私は、自分が好きなもの、素敵だと感じたものをとにかくすぐ人に勧めてしまう性格で、良いものは共有したいと常日頃思っている。そんな私だが、あの日以来何百回と再生したこの『ガラス花』だけは、驚くことに今現在誰にも教えていない。もちろん、すでに230万回以上の再生数を記録しているので、多くの人にこの音楽が届いていることは分かっている。分かっているが、私はこの音楽を、初めて観たあの日に抱いた感情を、まだもう少しの間は独り占めしていたいと願う。だって、私のための音楽だ、とあの時思ったから。

そんなこんなで私はSixTONESのファンクラブに入会した。最新のシングルも購入したし、『ガラス花』が収録されているCDも手に入れた。まだまだ知らないことだらけだが、松村さんが届けてくれる音楽を、作り上げる世界を、これからは一人のファンとして真っすぐ受け止めていきたい。


独り占めしたい音楽に出逢い、私のアイドルが2人になった。


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