ハナの向くまま(第1回)

 春だ桜だ花見だ、と浮かれていられるのは3月末から4月1週くらいまでで、4月も10日を過ぎると桜の大半は散ってしまう。なんでも気忙しい現代人にとっては、近所の公園でつぼみが開いていればさあ花見だ、っていうことになり、五分咲きくらいの花を眺めながら宴会をしている。もちろん満開の時もやってるので、週末の野外酒は2-3週間続くことになり、花が散り始めるとさすがにからだもしんどくなってきて、もう花見はいいよ…今週はおうちでゆっくり過ごすよ、というオチがつく。桜花賞は、概ね花見に飽きた頃に開催される。戦前最後、昭和19年の第6回桜花賞に至っては6月4日に開催された。当時は中山四歳牝馬特別という名称に変更されていた。桜は散っていただろうが、桜を見る余裕もなかっただろう。勝ち馬のヤマイワイのその後はよくわかっていない。勝利騎手の前田長吉は前年の日本ダービーを史上最年少で優勝した期待の若手だったが、桜花賞から四ヶ月後の昭和19年10月に徴兵され、戦後のシベリア抑留中に病死する。収容所跡から遺骨が回収されてDNA解析した結果、前田長吉の遺骨だというのが判明したのは7年前のことだ。

 クラシックレースと称される年齢限定競走は、桜花賞から始まり、皐月賞、オークス、ダービー、夏を挟んで秋の秋華賞、菊花賞と続いていく。競馬の季節の幕開けを飾るレースが、桜の花の賞、というのは華やかに浮かれていて、このレースを名づけた関係者はネーミングセンスがあると思う。3歳牝馬限定の1600m競走なので、女子高生の短距離競走を見ている感じがして微笑ましい。脚自慢のお嬢様たちは阪神競馬場の1600mを1分33秒から35秒くらいで駆け抜けていく。心浮き立つ光景だ。甘いカクテルでも飲めば気楽に見られる。焼酎と梅酒を混ぜて炭酸で割るだけのことだけど。

 桜花賞勝ち馬はチューリップ賞出走組からが多い。過去10年で優勝馬の半数がチューリップ賞からの出走だ。ルートが決まっていて、当然人気も集める。今年はチューリップ賞から桜花賞、というのは4頭いて、その中でも一番人気なのはチューリップ賞を勝ったハープスター。4戦3勝2着1回で重賞2勝、父ディープインパクトは3年前の桜花賞優勝馬マルセリーナを出しており、血統的にも実績がある。チューリップ賞組で彼女を逆転できそうな馬はいない。

 では、ということで推したいのがベルカントだ。3月16日のフィリーズレビューを勝って桜花賞候補に手を上げた。去年はファンタジーステークスを勝つと、牡馬に混じって朝日杯に出走。10着に敗れたが、立て直してきて前走を勝利した。ハープスターと一度も戦ったことがなく、勝負付けが済んでいないということもある。この馬は角田晃一厩舎だが、角田調教師は現役時代のG1初勝利がシスタートウショウでの桜花賞勝ちだ。しかもベルカントの騎手は角田調教師の2年先輩・武豊。このメンツならばハープスター一強、という論調には抗いたくなる。ハナを切って先頭で引っ張るレースしか出来なかったベルカントが、前走では集団の中から抜け出す勝ちっぷりを見せたというのも成長を強く印象付ける。

ということで

本命◎ベルカント、対抗○フォーエバーモア、単穴▲ハープスター、連穴△レッドリヴェール、大穴☓コーリンベリー


 




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