仮想仏教世界「テラバース」出現か

【仏の道:遠望・近見】 (159) 

仮想仏教世界「テラバース」出現か
ご本尊は、お釈迦様アパター


先日(9月7日)のことですが、京都大学「人と社会の未来研究院」の熊谷誠慈准教授と株式会社テラバース(古屋俊和CEO)の共同研究グループが、仏教とデジタル新技術・「メタバース」を融合させた仏教仮想世界「テラバース」の開発を開始した、とその構想を公開しました。

「テラバース」とは「一兆(テラ)の宇宙(バース)」という意味で、伝統知とテクノロジーを融合させ、重層的な精神世界を構築していくと言うのです。具体的に言えば、「テラ・プラットフォーム AR Ver1.0」を構築し、既に公開済みのAI「ブッダポット」のアバターを組み込み出現させる。

これに誰でも話しかけ、質問すると、「ブッダポット」アバターが仏教経典に基づいた解答をしてくれる、と言うのです。つまり、お釈迦様と直接、会話出来る仕組みを作る、と言うのです。

これは、単なる空想ではありません。京都大学のこの未来研究員院は二年前に仏教最古の原始仏教経典「スッタニパータ」と「ダンマパダ」をAI技術で機械学習させた「ブッダポット」を完成させ、仏教界に大きな反響を巻き起こしました。

今回の試みは、VR(仮想現実)やARなどの技術を統合して
1)サイバー空間上に寺院・仏閣を建築・維持・運営する”お寺”を構築
2)仏像の代わりに仏陀のアパターを”本尊”とし、
3)どこででも、誰でも、気軽にブッダと直接、結ばれて
  質疑応答ができる。
そのような仏教共同体を作り上げる、と言うのです。

最近、ネット上では「メタバース」という未来型立体仮装空間の実際が注目を集めていますが、正に、その実現に一歩、踏み出そうと言うわけ。

熊谷助教授の解説では、「テラバース」とは、AR や VR、AI など最新技術を用いて仏教に応用した「メタバース・仏教仮想世界」だそうです。最初にも触れたように「テラ」は 「兆」を「バース」は「宇宙」を意味しますが、ここでは「お寺」をだぶらせて「仮想お寺世界」と言い換えてもらってもいい、とおっしゃっています。

こうなると、もう僧侶は全員、失業ですね。何しろ、私たちは、仏教に関心を抱けば、他人を介さず、釈尊と直接、お話出来るのです。お寺も、僧侶も必要としません。釈迦の説かれた経典を全て暗記、その一語一語に暗示された宗教的智慧の解釈も飲み込んでいる仏陀の化身「ブッダポット」が解説してくれるのです。

研究チームの予定では、既存の「ブッダポット」試作機の学習データを約5倍増やして精度を高め、リアル僧院とアバター支寺院を同期・連動させる計画も含まれているとか。すごい時代になったものです。

こうした急速な宗教界のデジタル化に仏教界は大きなショックを受けています。何しろAI知能のレベルは将棋の世界では既に人間頭脳を上回る実力を実証しています。修行を積んだ僧侶よりも「ブッダポット」の方がより良い、より正確な説教をしてくれる時が迫っている想いを強めます。

現に数日前にも、私の尊崇する臨済宗の横田南嶺禅師が、法話でこの「ブッダポット」出現について、「これからもっと多くの経典や書物を学習させればより一層的確な回答ができ るようになることだと思います。果たしてこうなるとお坊さんもAIにとって代られ るのでしょうか。お坊さんも廃業となるのでしょうか。

確かに書物で覚えた知識を伝えるだけのことであればとって代られるかもしれませ ん。こうなってくると、僧侶の本質が問われてきます。知人は「何も語らずに示す ことのできるお坊さんは残るのでは」と言っていました。これも確かに本質を言い 得ています」と、その出現の現代的意義を認めておられます。

しかし、事態は、既にもう一歩、前進しているようです。研究者たちは、「あくまでも学問レベルの実験。決して実用化を目指しているものではない」ことを強調していますが、僧侶の存在意義が根本的に問われることになるのは否定できないでしょう。

「テラバース」について興味をお持ちの方は、詳細を次の論文でご確認ください。
https://www.kyoto-u.ac.jp/sites/default/files/2022-09/220907_kumagai-7f15fdbb246fe8b4c42f17a8940e022d.pdf

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