「帰依三法」を学ぶ(9)

【仏の道:遠望・近見】 (154) 

「帰依三法」を学ぶ(9)


   仏 又問ふて言はく、
   「若し是の如くならば、此の中の劫尽きんに、
    妹何れの処にか生ぜん。」


 仏は又、竜女に尋ねた。
「それならば、三悪道(地獄、餓鬼、畜生)の中の九十一劫が尽きれば、あなたは何処へ生まれると思うか。」

   龍婦答へて言はく、
   「我 過去の業力の因縁を以て、の世界に生ずべし。
   彼の劫 尽くる時、悪業の風吹いて、
   還た来って此に生ぜん。」

 竜女は答えた。
「私は、過去の業力(善悪行の因果の力)によって他の世界に生まれることでしょう。またその劫の尽きる時には、自らの悪業(悪行の因果)の風が吹いて、また三悪道に生まれることでしょう。」

   時に彼の龍婦、此の語を説き已りて、
   是の如くの言を作さく、
   「大悲世尊、願はくは我を救済したまへ、
   願はくは我を救済したまへ。」


 竜女はこう答えると、更に懇願して言った。
「大慈大悲の世尊よ、どうか私をお救いくださいませ、どうか私をお救いくださいませ。」

   爾の時に世尊、手を以て水を掬ひ、
   龍女に告げて言はく、
   「此の水を名づけて瞋陀留脂薬和と為す。
   我今 誠実に言を発して汝に語げん。


 そこで世尊は、手で水を掬って竜女に言われた。
「この水はシンダルシヤクワという。私は今ここで真実の言葉を語ろう。

   我 往昔に於て、鴿を救はんが為の故に、
   身命を棄捨し、終に疑念して慳惜の心を起こさざりき。
   此の言 若し実ならば、汝が悪患、悉く皆除き瘥えしむべし。」

 私は昔、鳩を救うために身命を捨てたが、最後まで疑念で身命を惜しむ心を起こすことはなかった。この言葉がもし真実ならば、お前の悪業による苦患はすべて除かれ癒されるであろう。」

   時に仏世尊、口を以て水を含み、
   彼の盲龍婦女の身に灑ぎたまふに、
   一切の悪患臭処 皆瘥えたり。


 そう言って仏は口に水を含み、その盲目の竜女の身体に注ぐと、すべての苦患や臭いは皆癒えたのである。

   既に瘥ゆることを得已りて、
   是の如くの説を作して言はく、
   「我今 仏に於て、三帰を受けんことを乞ふ。」

 竜女は苦患が癒えると次のように言った。
「私は今、仏に従って三帰(仏陀、仏法、僧団への帰依)を受けたいと思います。」

   是の時に世尊、即ち龍女の為に三帰依を授けたまへり。」

 そこで世尊は竜女のために三帰依を授けられた。


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