見出し画像

【岡山大学】2023年度A日程既修者試験 再現答案

問題はこちら
2023年度入学試験問題 - 岡山大学大学院 法務研究科 (okayama-u.ac.jp)
各科目の足切りは6割です。合格しておりましたが、公法系と刑事系がぎりぎりでした。

公法系

30/50点

1 本件校則は、男子生徒Xの自由な髪型で中学校に通う自由(以下、本件自由という)を侵害し、憲法13条後段に反しないか。
2 13条後段は個人の人格的生存に必要不可欠な権利・自由に限り保障するものと解すると、個人の好きな髪型で学校に行く以外の手段によっても個人の自己表現が可能である以上、髪型は人格的生存に不可欠ということはできないことになるから、本件自由は13条後段で保障されないことになる。この帰結は妥当でないから、13条後段は、あらゆる生活領域に関する行為の自由を保障するものと解する。そうすると、本件自由は、幸福追求権の内容として13条後段により保障されるものといえる。
3 本件校則には、男子生徒の髪型は丸刈りと定められており、生徒はこれに違反すれば学校長から指導がなされる。また、Xは、校則に従わなかったために、本件校則に則り、教諭によって丸刈りにさせられている。それゆえ、Xは本件自由を制約されている。
4 もっとも、本件自由は無制限に保障されるわけではなく、「公共の福祉」(憲法13条)により一定の制約を受ける。では、いかなる制約ならば許容されうるか。
(1) 本件自由は、髪型を通して自己発信をするという意味で、自己の内心を外面に表出する性格をもつ。それゆえに、憲法21条で保障される表現の自由、すなわち精神的自由の側面を有するといえるので、侵害されると回復困難であり、強い司法審査が要請されるともいえそうである。しかし、中学校はX以外にも多数の生徒が在籍しており、彼らにも平穏な環境で教育を受ける権利が保障されているので、Xの自由のみをことさら尊重することは妥当とはいえない。また、現場に通暁する学校長に本件校則に関する裁量がある。
(2) 以上のことを考慮すると、本件校則の制定目的が正当であり、目的と手段との間に合理的関連性がある場合には、本件校則は憲法13条に反せず許容されるものと解する。
5(1) 本件校則の目的は、生徒の非行を防止する、中学生らしさを保たせ地域社会の人々との関係を円滑にする教育目的であるので、不当であるとはいえない。
(2) たしかに、非行事実がなく近隣住民とも良好な関係を築いているXに対して、丸刈りを強制してみたところで、教育目的の効果は薄いといえる。しかし、Xが派手な髪型にすることで、近隣の非行少年に目を付けられるなどすることで、X自身が健全な中学生生活を送ることができなくなる可能性がある。そうすると、Xは中学生らしさを保てなくなったり、地域住民との関係性が悪化したりするおそれも生じうる。そうである以上、上記目的によって頭髪を強制する手段にでることを許容する校則には、合理的関連性があるといえる。
6 よって、本件校則は、憲法13条後段に反せず、合憲である。
7 なお、本件校則は男女で髪型の指定に差があるけれども、女子の髪型は社会通念上、髪を束ねるなど清潔感のある髪型であれば、上記教育目的が達成できると考えられるので、これは事柄の性質に即応した合理的根拠に基づく区別であるといえ、憲法14条に反するものではない。

△未成年者の人権
△関連判例(最判H3.9.3、熊地判S60.11.3)
△14条1項の論述内容が薄すぎる

民事系

115/150点 (配点は、民法80点、民訴法35点、会社法35点)

民法

第1 問1について
1 Aは、Dに対して、所有権に基づく返還請求権としての甲土地明渡請求を行うと考えられる。
(1) 上記請求の要件は、甲土地をAが所有していること、及び、甲土地をDが占有していることである。
(2) 甲土地は、現在、Dが直接占有している。そこで、甲土地をAが所有しているのかが問題となる。
(3) Aは、強迫(民法96条1項)によってされた本件売買契約を取り消すものと考えられる。
(1)ア 強迫取消の要件は、①強迫行為、すなわち畏怖を生じさせる行為があること、②表意者が意思表示をしたこと、③①と②の因果関係、④強迫の故意があることである。なお、96条2項は第三者が詐欺を行った場合の相手方の主観要件について定めているが、強迫は詐欺の場合より意思形成過程における自由の抑圧が大きく、要保護性が高いことから、相手方の主観要件はない。
イ 本件において、Cは連日、Aに対し、Bに甲土地を売却するように執拗に迫った。かかる行為は一般的な人を畏怖させる程度のものである(①充足)。Aは8月8日にBの申し入れを受ける旨をBに伝え、本件売買契約が成立するに至っている(②充足)ところ、かかる意思表示は、Cの言動から身の危険を感じたAが畏怖状態のもと行ったものである(③充足)。Cは、Bに甲を得させる目的のもとAに対して強迫行為を行ったことから、故意もあるといえる(④充足)。
ウ よって、Aは本件売買契約を取り消すことができる。
(4) 取り消した行為は遡及的に無効となる(121条)ことから、Bはもともと甲土地の所有権を有していなかったことになり、無権利のBから甲土地を購入したDもまた無権利者であるといえるから、結局、甲土地の所有権はAに帰属することになる。また、強迫は詐欺よりも意思形成過程における自由の抑圧が大きいことから、詐欺の場合と異なり、取消の効果を第三者に対抗できる。
(5) 以上から、甲土地はAが所有しているといえるので、AのDに対する上記請求は認められる。
2 Aは、Dに対して、所有権に基づく返還請求権としての甲土地明渡請求を行うと考えられる。
(1) Dは現在甲土地を占有していることは明らかなので、甲土地をAが所有しているのかが問題となる。
(2) Aは、Bとの間で締結した本件売買契約を解除(541条)するものと考えられる。
(3)ア 解除の要件は①一方当事者が債務を履行しないこと②相当の期間を定めた催告である。
イ 本件売買契約に基づき、当事者双方に債務が生じているところ、Aが自身の債務である甲土地引渡債務を履行済にもかかわらず、BはAに代金1000万円を期日までに支払っていない(①充足)。本件において相当の期間を定めての催告はなされていないが、催告後相当期間が経過している場合も実質的な違いはないから、Aから再三の催告があってもなお代金を支払わなかった事実をもって、②を充足する。
ウ よって、Aは本件売買契約を解除することができる。
(4)ア 解除の趣旨が契約の拘束力からの解放にある点をふまえれば、契約は遡及的に消滅すると解する。もっとも、解除前の契約を前提に取引に入った第三者を保護するため、例外的に解除の遡及効が制限される場合がある(545条1項)。ここにいう「第三者」とは、解除された契約から生じた法律関係を基礎として、解除までに新たな権利を取得した者をいう。そして、第三者には登記が必要であると解する。
イ 本件におけるDは、契約が解除される前に、本件売買契約を基礎とする本件転売契約により、新たに甲土地の所有権を取得した者であるから「第三者」にあたる。しかし、Dは、甲土地の所有権移転登記を受けていない。したがって、Dは「第三者」として保護される対象とはならない。
(5) よって、原則どおり解除の遡及効として甲土地の所有権がAに帰属する結果、Aの上記請求は認められる。

△解除の要件(軽微性、債権者帰責性)
△権利保護要件としての登記

第2 問2について
TがSからだまし取って得た金銭をもってUに対する金銭債務の弁済に充てた事情をUが知らなかった場合、Uにとっては、受領した金銭を突然にSに奪われる結果になってしまい、およそ安心して金銭を受け取ることはできなくなる。そこで、判例は、金銭は価値そのものであり、占有者をはなれて所有を観念できるものではないから、受領者に悪意がなければ、騙取金は受領者の所有に属するとしている。かかる規律によれば、Uが上記事実につき悪意でない限り、Uに100万円の所有権が認められる。

△不当利得「法律上の原因」(最判S49.9.26)

民事訴訟法

第1 問1について
1 二当事者対立構造の観点から、当事者の一方が欠ければ、訴えが却下されるのが原則である。しかし、一定程度訴訟が進行しているのに却下されてしまうと、それまでの訴訟追行が無駄になり訴訟経済上不当である。ゆえに、これまでの手続において当事者としての訴訟追行の機会を現実に与えられていた者は誰かという観点から、当事者を確定するべきである。
2 本件において、被告Yは訴状送達前に死亡しているものの、訴状は補充送達(民事訴訟法(以下略)106条)によりAが受領し、第1回行動弁論期日ではAが訴訟行為をしていることから、当事者として訴訟追行の機会を現実に与えられていた者はAであるといえる。
3 したがって、現実の当事者はAであるのに、訴状ではYが被告となっているのは、ただ表示を誤ったにすぎない。Xの主張は、表示の訂正を求めるものである。

第2 問2について
1 本訴判決の既判力が後訴に及ぶかが問題となる。
2 紛争の蒸し返し防止及び手続保障が与えられたことによる自己責任という点から、判決には既判力が生じる。既判力とは、確定判決の判断内容の後訴に対する通用性ないし拘束力のことである。
3 既判力は特定の者のみに対して及ぶ(115条1項)。この点、Xは本訴の当事者である(1号)。また、AはYの相続人で訴訟手続を受けついでおり(124条1応1号)、当事者の口頭弁論終結後の承継人である(3号)。よって、XA間には本訴判決の既判力が及ぶ。
4(1) 本訴判決の既判力が後訴に作用するのは①本訴と後訴の訴訟物が同一の場合、②本訴訴訟物が後訴訴訟物の先決関係となる場合、③本訴と後訴の訴訟物が矛盾対立する場合である。
(2) 本訴訴訟物はXの甲地所有権であるのに対し、後訴訴訟物はAの甲地所有権であって、これらは実体法上両立しえない関係にある。よって、③に該当するため、本訴判決の既判力が後訴に作用する場合である。
5(1) 既判力は判決主文に示された訴訟物たる権利関係の存否につき生じ、理由中の判断には生じない。また、既判力の基準時は口頭弁論終結時である。
(2) 甲地の所有権の帰属につき、口頭弁論終結後、Yが死亡する前にXがYに甲地を譲渡したなどの事情があれば、手続保障における自己責任を問いえないので、前訴の既判力が後訴に及ばないが、そのような事情がなければ、前訴の既判力が後訴に及ぶ結果、後訴については、請求棄却判決がなされることになる。

会社法

第1 問1について
「著しく不公正な方法」による新株発行とは、不当な目的を達成する手段として新株発行が利用される場面をいう。当該新株発行が既存株主の持株比率を低下させ、現経営者の支配権を維持することを主要な目的としてされたものであるときは上記場合にあたると解される。なぜなら、このような新株発行は、株主が取締役を選任するという、法が予定する機関権限分配秩序(会社法(以下略)329条1項)に反するからである。

第2 問2について
1 (1)について
(1) Y社の代表取締役Aが自己の借金返済に充てる意図でY社を代表しXから10万円の借り入れをした行為(以下、本件借入行為)は有効であり、Y社はXに10万円の返済をしなければならないか。
(2)ア 代表取締役がした行為である以上代表権の範囲内(349条4項)であるから、原則としてその行為は会社に帰属する。もっとも、代表取締役が自己または第三者の利益を図る目的で代表権の範囲内の行為をした場合においては、相手方がその目的を知りまたは知ることができたときは、無権代表行為とみなし無効となるものと解する(民法107条類推適用)。
イ 本件借入行為は、A自身の借金返済に供されるから、自己の利益を図る目的のもと行われたといえる。そして、本件借入行為は代表権の範囲内の行為である。本件借入行為の相手方であるXは、今回のAの意図に気付くことはできなかったのであるから、目的を知ることができなかったといえる。
(3) 以上から、本件借入行為は有効であるので、Y社はXに対して10万円を返済しなければならない。
2 (2)について
(1) 代表取締役の選解任は、取締役会の権限である(362条2項3号)。そして、取締役会の決議について特別の利害関係を有する取締役は、議決に加わることができない(369条2項)。「特別の利害関係を有する取締役」とは、当該議決について、一切の私心を去って会社に対する忠実義務を誠実に履行することが定型的に困難と認められる個人的利害関係ないし会社外の利害関係を有する特定の取締役をいう。
(2) 本件において、代表取締役は会社の経営支配に大きな権限と影響を有するところ、そのような者は忠実義務に従った公正な議決権行使を期待できないといえる。
(3) 以上から、解職対象代表取締役たるAは、議決に加わることができない。

刑事系

63/100点 (配点は、刑法60点、刑訴法40点)

刑法

第1 設問1について
1 甲が、自分の子どもAがプールで溺れているのを発見したにもかかわらずその場を立ち去ってAを死亡させた行為につき、不作為の殺人罪(刑法(以下略)199条)が成立しないか。
2(1)ア 実行行為は、構成要件的結果を惹起する現実的危険を含む行為をいう。不作為が実行行為にあたるのは、結果発生を防止するべき作為義務を有する者が、作為が可能かつ容易であるにもかかわらず、作為を怠る場合である。また、不作為者が作為義務を有しているかは、法令、契約、先行行為、保護の引受、排他的支配等を考慮し総合的に判断される。
イ 甲はAの親なので監護義務(民法820条)を負っている。また、甲はプールサイドで遊ぶようAに告げ、Aをプールにひとり放置して立ち去ることで自ら危険を創出しているから、先行行為が行われているといえる。よって、甲には作為義務があるといえる。
ウ 甲はおぼれるAを泳いで助けることは可能であったうえ、甲はAを視認できるほど近い場所にいたのだから、作為は容易であったといえる。
エ ウの事情があるにもかかわらず、甲はAを助けずその場を立ち去っているので、作為を怠ったといえる。
オ したがって、甲の行為は不作為の実行行為にあたる。
(2) Aはプール内で溺れ死んだので、結果が発生している。
(3)ア 偶然の結果を刑法的評価から除外し処罰の適正を図るという趣旨から、実行行為と結果発生との間の因果関係は、条件関係を前提に、生じた結果が実行行為の危険を現実化したものと評価できる場合、因果関係が認められるものと解する。
イ 4歳の子どもは通常ひとりで泳ぐのは困難なので、Aを放置する実行行為自体に高度の危険が存在する。そして、Aを10分ひとりにしておいたことで、かかる危険が現実化してAは死亡した。
ウ したがって、因果関係は認められる。
(4) 故意(38条1項)は、犯罪事実の認識・認容をいうところ、甲は、溺れているAを見て、このまま死んでくれればいいと思っていたことから、犯罪事実の認識があるといえる。よって殺人の故意が認められる。
3 以上から、甲の上記不作為につき、殺人罪が成立する。甲はかかる罪責を負う。

△不作為の実行行為の規範の理由付け(∵自由保障機能)
△甲がいかなる作為義務を負っているかの特定

第2 設問2
1 乙の行為は窃盗罪(235条)の構成要件に該当する。
2(1)ア 複雑化した現代社会では、現に物が占有されているという財産的秩序の保護を図る必要があることから、窃盗の保護法益は事実上の占有である。とすれば、「他人の財物」とは、他人が事実上占有している財物をいう。
イ 本件において、自転車に対してはBの事実上の支配が及んでいるので、自転車はBが事実上占有している財物であるといえ、自転車は「他人の財物」にあたる。
(2)ア 「窃取」とは、意思に反して占有者の占有を排除し、目的物を自己または第三者の占有に移す行為をいう。
イ 本件において、乙が無断で自転車を持ち去った行為は、Bの合理的な意思に反したものといえる。また、乙は、Bの占有する自転車を持ち去ることで乙の占有に移したといえる。したがって、乙はBから自転車を「窃取」したといえる。
(3) 故意及び不法領得の意思は、当然に認められる。
3 以上から、乙の行為は窃盗罪の構成要件に該当する。

△占有の要素:占有の事実・占有の意思
△不法領得の意思の必要性・内容

刑事訴訟法

1 令状呈示のない捜索差押えは原則違法(222条、110条)であるが、捜索差押えの実効性確保のためやむを得ない場合、「必要な処分」(111条1項)としてこれを行うことは許される。
2 「必要な処分」とは、捜索差押えのため必要かつ相当な範囲の処分をいうと解する。
(1) 本件においては、暴力団組員甲の自宅アパートの一室に暴力団関係者が常時出入りしていること及び同室には時折荷物が持ち込まれている様子であることが判明しており、同室内で覚醒剤取引が行われている嫌疑が高いといえるから、同室内にあるとみられる覚醒剤を証拠として差し押える必要性があったといえる。また、被害者のない覚醒剤密売ゆえの検挙困難性にかんがみ、確実に証拠物を差し押える必要性があったといえる。加えて、覚醒剤は水に流して証拠隠滅される可能性があるから、令状呈示前に水回りの確認や甲らの挙動を確認できる状態を作っておく必要があったといえる。
(2) 令状呈示後は光沢のプライバシー権の侵害制約が許されるから、甲の被侵害利益は、プライバシー権を3分間侵害されたことである。とはいえ、短時間にとどまるから、重大な侵害とはならない。ゆえに、捜索差押えの必要性が被侵害利益の要保護性を上回るので、相当性があるといえる。
3 以上から、Kらが行った行為は「必要な処分」にあたり、適法である。

△令状呈示前に部屋の内部に立ち入る行為の適法性(最判H14.10.4)









この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?